#110 決戦前夜
次郎吉が準備を進めているとビオラから連絡が来た。
『どうやらコーネはギルター宰相の手に落ちたことは確定みたい。ご丁寧にお手紙を貰っちゃったわ。詳細は書かれてないけど、ギルター宰相が購入した屋敷に鼠小僧をすぐに連れてこいですって。屋敷のことはあたしが調べた結果よ』
「コーネのことは書かれていないが俺っちを名指しして連れて来れるなんらかの根拠があるってことだな。いいぜ? 行ってやるよ。グソウさんをこっちに呼んでくれ。他の奴らは手出し無用だ。姐さん、俺っちの契約のこと。もちろん覚えているよな?」
『えぇ……あなたも理解しているわね?』
「もちろんだ。へまはしてやらねーから安心しろよ」
次郎吉が捕まった場合、『アルバ』は一切の手助けをしない。また次郎吉は『アルバ』に関する情報を敵に話さない。これが二人が交わした契約だ。その確認をするということはビオラも次郎吉が捕まることを前提で話していることを理解した。
『どうするつもりなのかしら?』
「コーネを救い出す。そんでもってコーネに手を出したあいつらにはそれ相応の報いを受けてもらうことにするさ。あいつらは鼠小僧の逆鱗に触れたんだ。あいつらだって覚悟があってのことだろ? 悪いが協力してもらうぜ? お前たち『アルバ』である以上な」
『なるほど……いいわ。あたしもとんでもない損害受けちゃったし、やられたらやり返さないと気が押さらないのはお互い様ね』
「決まりだな。じゃあ、俺っちの作戦はグソウに伝えておく。後は姐さんと王女さんの覚悟次第だ」
次郎吉はグソウが来るまでにソーサリーファクトの実験を終えて成功したのを確認すると最後の仕上げを行った。
「……終わりました。大丈夫ですか? 旦那様?」
「なんとかな……プラムの痛感を消す魔法が無かったら数日気を失っていたかもな。それと俺っちのわがままを聞いてくれてありがとうな。姫さん、カナリ」
「いえ! そんな! わたくしはわたくしでやらないといけないことをやった結果ですから!」
本来ならプリマ王女の役目はゲオリオがするはずだった。しかし話を聞いたプリマ王女は自らかなりグロテスクな仕事を受けることにした。全ては次郎吉の役に立ちたいという彼女の思いから来た行動だ。
次郎吉からするとそんなことをプリマ王女とカナリにさせてしまったことでかなり気が重くなっている。実際にプリマ王女は少々の精神的なダメージを受けた様子だがそれよりも次郎吉の手助けを出来たことのほうが勝っている感じだ。
一方でカナリは次郎吉作の新作ソーサリーファクトに感動している。
「凄すぎます! 師匠! ソーサリーファクトはこんなことも可能なんですね!」
「言っとくが誰にでも可能なわけじゃねーからな? ソーサリーファクトを起動させるためには魔道技師の能力依存だ。結果的には色々救いにはなる可能性があるソーサリーファクトであると同時に悪い使い方も出来てしまう危ない技術になっている。カナリも勉強した以上ちゃんとそのことを覚えておけよ?」
「はい!」
カナリの様子を見て、次郎吉は脱いでいた服を着て口を開く。
「後はぶっつけ本番だな」
「上手くいくでしょうか?」
「こういうのは上手く行かせるんだよ。そろそろ時間だ。プラム」
「はい。調整は済んでいます」
次郎吉は愛用のソーサリーファクトのコートをプラムに着せて貰うとプラムが後ろから抱きしめて来た。
「本当は行かせたくありません……ですが旦那様の願いを叶えてこそのメイドです。ですから約束してください。必ず生きてここに帰って来ると」
「あぁ……約束してやるよ」
プラムには次郎吉が嘘を言っていることがわかる。一方で次郎吉も自分の嘘がバレていることがわかっている。それでもプラムは次郎吉を送り出すことしかできない。一応次郎吉を薬や魔法で次郎吉を強制的に行かせないことは出来る。しかしそれをすると次郎吉が一生消えない傷を負い、プラムのことを一生憎むことになる。それをお互いに望んではいないから送り出すしかないのだ。
次郎吉が歩き出すとサヤたちが次郎吉を待っていた。ここでガルザが次郎吉に話しかけた。
「俺も一緒に行ってやるぜ? ジロキチの旦那には返しても返しきれない恩があるからな」
「気持ちは嬉しいがガルザとゲオリオはここを動くな。ここを動くとこの村を失うことになるぞ?」
「っ!? まさかあいつらがまた攻めて来るのか?」
「国同士が連携しているなら俺っちが村を留守にしているのが確定している状態を見逃すと思うか?」
ガルザとゲオリオは次郎吉の指摘を聞いて、次郎吉が一番望んでいるのがプラムたちを守ってほしいということを理解する。
「確かにこの状況だと俺は動くわけにはいけないか」
「俺も任務優先だな」
ここで次郎吉はゲオリオに自分が開発したソーサリーファクトを投げるとゲオリオはキャッチし、質問する。
「なんだ? これ?」
「その姿で戦うのは色々まずいだろ? だからお前が思う存分暴れるられるようになるソーサリーファクトを用意した。精々ビャク王国の奴らをビビらせてやってくれ」
「あぁ……なるほど。そういうソーサリーファクトね。本当にお前さんは悪知恵が働くな」
「犯罪者なんだ。当然のことだろ?」
次郎吉がどや顔で返すと自分の教え子のカナリを呼ぶ。
「は、はい! 師匠!」
「俺っちが帰ってきてからの俺っちの姿、ちゃんと目に焼き付けたか?」
「もちろんです!」
「いい返事だ。お前には最低限の技術は教えてやった。俺っちのソーサリーファクトの整備方法も含めてな。子供は大人の背中を見て育つ。お前が俺っちの弟子であることを誇りに思うなら今日までの俺っちの背中を忘れるんじゃねーぞ。お前がこの村を守れ」
「う……ぐず……わ、わかりました! 師匠!」
カナリは大泣きしながら次郎吉に必死に叫んで返して次郎吉は手を振りながらサヤの村から出る。そして発展したサヤの村の姿を見る。
「ふ……随分と綺麗な村になったじゃねーか」
これが自分が育てな魔道技師によって生み出された光景だと思うと次郎吉は自然と誇らしくなるのだった。
次郎吉はその後、グソウと落ち合い、指定された屋敷に向かう。
「流石に今日中には無理だぜ? どうする?」
「明日の夜に仕掛けるさ。相手もある程度時間は計算しているだろ」
「そうか……それなら俺が飯を奢ってやるよ。ジロキチには飯奢って貰ってばかりだったからな」
「そいつはいいな。って、しまった。ゲオリオから酒奢ってもらう約束がまだだったぜ」
「はっはっは! そいつは残念だったな。ゲオリオもそういうの逃げるの上手いからな。気を付けねーとダメだぜ?」
魔道車が夜道を走る中、二人はいつも通りの会話をする。グソウも今回の一件の話はビオラから聞いているので、これから次郎吉が死地に行くことは分かっている。その上でいつも通りを心掛けていると次郎吉は夜空を見る。
「今日は星が綺麗な夜だな」
「ジロキチの泥棒が上手く行くように祝っているんじゃねーか?」
「はっ! それなら星さんには隠れて貰わねーと困るんだよ。俺っちたち泥棒は特にな」
「はは! 確かに星明りがあると見つかりやすいか。泥棒っていう犯罪者も大変なんだな」
ここで二人の間に沈黙が流れて次郎吉はアーベルトのソーサリーファクトをグソウに渡し、口を開く。
「今から俺っちが考えた作戦を話す。俺っちと近くの町で別れた後、姐さんに伝えてくれ。それと俺っちに何かあった時はこれをプラムに渡せてくれ」
次郎吉はそういうと自分のメッセージを録音したソーサリーファクトをグソウに渡す。
「任せろよ。俺は運び屋。荷物だろうが情報だろうが何でも運んでやるよ。だから次郎吉も遠慮なく暴れ来い」
「あぁ。もちろんそうさせて貰うさ」
次郎吉はグソウに全てを託した。そして町に辿り着き、朝昼晩とグソウにご馳走してもらうとここで二人は分かれた。そして次郎吉は目的の屋敷へと向かう。その際にポケットからいつものほっかむりを装備して言う。
「お望み通り鼠小僧がお前らを潰すためにやって来るぞ。くそ宰相とくそ王子」
こうしてコーネを巡る次郎吉と二人との勝負が始まるのだった。




