#107 ギルター宰相の狙い
急いでサヤの村に帰った次郎吉の目に飛び込んできたのは平和な村の光景だった。
「あ! 旦那様! お帰りなさいませ!」
「お帰りなさい! ジロキチ様!」
プラムとプリマ王女が次郎吉の無事の帰還を喜ぶ。結局プリマ王女は命の恩人である次郎吉を様呼びすることに決めたらしい。
「あぁ。プラム。村や村周辺で何か起きたか?」
「いいえ。そんな話は聞いておりませんが……何かあったのですか?」
「今回の泥棒でギルター宰相たちが動いてくると思ったんだが動きはあったのに俺たちに被害が無かったんだよ。だから俺たちの今回のターゲットを餌にここを攻撃して来たんじゃないかと思って大急ぎで帰って来たんだ」
「なるほど。いくら旦那様が早いと言っても話を聞いた感じですと先に動いていた国で何も動きがないのは変ですね」
プラムの言う通りであり、また次郎吉はハゲッツチーフが情報を貰っている。現状のハゲッツチーフの立場を見えるとここで嘘の情報を流して次郎吉の本拠地を特定、一気に一網打尽にするとは考えられない。
「なら奴らの狙いはなんだ?」
次郎吉はとにかく二人の無事が確認出来て安堵の気持ちでいっぱいだが、自分の中で嫌な予感が渦巻いているのも感じている。
「とにかくソーサリーファクトに魔力充電を行いますね」
「あぁ……。最優先で頼む。相手が何かしら動いた以上、こちらもすぐ動く可能性が高い」
「ですね」
プラムに自分のソーサリーファクトを預けて次郎吉は思考する。
(俺っちがあいつらなら何を狙う? プラム? ゲオリオ? サヤたち? プリマ王女? いいや。どれも違う。ただ確実に俺っちたちにダメージを与えるもの……あ)
次郎吉の目が戻り、ゲオリオたちで止まる。そこで次郎吉はギルター宰相たちの狙いに気が付いた。
「ゲオリオ!」
「うお!? どうした? 次郎吉? 約束の酒の話か?」
「そんな話はどうでもいい! 『アルバ』と連絡を取れるか!?」
「は? ……おいおい。まさか……ちょっと待ってろ! すぐ確認する!」
次郎吉の様子と次郎吉の質問でゲオリオも全てを察した。
次郎吉たちやサヤの村に手を出さずに確実に両者にダメージを与える手段は存在していた。それが『アルバ』に対する攻撃である。次郎吉たちの支援もサヤの村での支援もプリマ王女とラピーシア王女を繋げているのも全部『アルバ』という組織だ。
ギルター宰相たちからすると一番狙いやすい標的とも言える。ただ『アルバ』も何も対策を講じているわけではなかった。ゲオリオが通信のソーサリーファクトを使ってビオラと連絡を取ることに成功すると次郎吉が話す
「ビオラ、鼠小僧だ。『アルバ』に対して国から何か動きがあったか?」
『あったわよ……シルファリッド王国であたしが運営していた店が盛大な魔法攻撃を受けたわ。あたしも危なかったけど、あなたの知り合いの下着泥棒さんに助けられたわ。今、シルファリッド王国でも知られていない隠れ家の一つに移動しているところ』
ビオラが多くの拠点を各国に作りつつ、各地にある村や山に隠れ家を作っていた。ビオラの不動産は国ならすぐに調べられる情報だ。しかし村や山にある隠れ家は不動産登録されていない。
そしてこの隠れ家には何かあった時のために資材がため込まれていた。完全に村や町にある不動産を餌に本命を隠している形だ。ギルター宰相たちからするとすかされた形となったが『アルバ』に全くダメージがないかと言われるとダメージは流石にある。
ビオラの商売は重要な組織の資金源となっていたし、村や町での拠点を失ったのは痛手だ。そんな中、次郎吉が予期しない人物の登場で困惑している。
「下着泥棒ってホーキングのおっさんか?」
『えぇ……あたしたちを襲ってきたのは相当な実力者だったと思うのだけど、見事にあたしたちを逃がしてくれたわ。彼、相当な実力者ね。敵に回さないほうがいいわよ。それとたぶんあなたに伝言。「君が死ぬにはまだ早い。私をもっと楽しませてくれたまえ」ですって』
どうやらホーキングも次郎吉の天命がもうすぐ尽きることを感じているようだ。その上でもっと世界を引っ掻き回せと叱咤激励を送るという伝言となった。
「自分がもっと楽しみたちからビオラたちを助けた感じか?」
『あたしにもそう聞こえたわ。本当に悪人というのはどこまで行っても悪人よね』
「それが一流の悪人という物だろ? 俺っちはホーキングのおっさんは格好いいと思うぜ」
これは次郎吉の素直な感想だった。それと同時に次郎吉より正確に国の動きを察知していたホーキングに頭が下がる。流石裏社会でずっと生きて来た人間だ。次郎吉よりも深くこの世界の裏社会と繋がりがあるホーキングだからこそ出来た芸当と言えた。
そして相手からすると突如正体不明な敵が現れた上にビオラを逃がされたんだから溜まったものじゃない。ここでゲオリオが話を纏める。
「とにかくそっちは無事だったってことでいいんだな?」
『えぇ。店員の子たちも全員の無事を確認したわ。新聞で確認したけど、あたしが裏社会の組織の怒りを買ったっていう内容だったわ』
『アルバ』という組織の存在を意図的に隠したのか。これはラピーシア王女と関係している組織であることが影響していそうだ。これでもしラピーシア王女が『アルバ』との関係が世に出ると非難されるのはラピーシア王女だけではない。王族全てが非難の対象になりえる。
そうなると不都合が発生するのはオレガ第二王子も同じ。だから『アルバ』だけを攻撃し、ラピーシア王女のことは隠したわけだ。そこに兄としての温情があったかどうかは謎である。
とにかくこの話を聞いて次郎吉はホッとし、村でゆっくり休むことにした。しかし次郎吉の中で何か小さな嫌な予感が渦巻いている。そしてそういう予感というのは当たる物だ。
襲撃を受けた『アルバ』の拠点の一つで襲撃者たちはわざと攻撃の手を緩めて建物を残している場所があった。
「見つけたぞ。こいつの情報だ」
彼らの狙いは拠点に保管されていた書類だ。流石に裏の仕事内容はすぐに処分されるが裏の仕事をする過程で物資の補給などは商売人なら国に報告しなければならない。それを裏社会の人間が調べると特定の誰かが今、どこにいるのか知ること出来る。
そして彼らが調べていた物に記載されていた名前にはコーネの文字があるのだった。




