#104 コーンローズ侯爵泥棒計画
次郎吉たちがグレスの町にやって来るとプラムは目を輝かせて言う。
「ここが旦那様が生まれた町なんですね!」
「目を輝かせるほどの町じゃねーぞ。俺っち自身そこまで思い出があるわけじゃねーからな」
次郎吉からするとやはりアーベルトと生活したファクトライドの町が故郷の気持ちが圧倒的に強い。この町もこの町で初めての泥棒をして、ゲオリオと最悪の出会いもしたから記憶に残りやすい町ではあった。
そして次郎吉たちは待ち合わせの家にノックする。
「合言葉を」
「鼠」
次郎吉がそういうと家のドアが開き、ファリース侯爵の執事が家の中に入れてくれた。
「お元気そうで安心いたしました。鼠小僧様。何せ私が見た姿は生きているのが不思議な姿でしたから」
「あぁ……俺っちも包帯取ったときに自分の背中を見てぎょっとしたぜ」
何せ背中に大火傷をしていたのだ。間近で見て気持ちがいい怪我ではない。すると自慢げにキャリコが登場する。
「そんなあなたを助けたのは私よ!」
「旦那様に火傷薬を塗り包帯を巻いてくれたのはプリマ王女だと聞きましたが?」
「うぐ……だって仕方ないじゃない! あんな怪我今までの人生で見たこと無かったし! むしろ平気で治療できるあの王女様が異常なのよ!」
プリマ王女からすると命を助けてくれた恩人を助けるために自分がやらないといけないことを必死にやっただけという話だ。これを聞いた次郎吉はちゃんとお礼を言い、プリマ王女が顔を真っ赤にして照れてしまったのは別の話である。
次郎吉はファリース侯爵の執事に案内された椅子に座ると本題を話し出す。
「お互いに指名手配されているんだ。さっさと仕事の話をしようぜ。時間がかかって面倒事になるのはごめんだ」
「そうね……それじゃあ、今日は私たちからの依頼、お父様に変わって侯爵になったコーンローズ侯爵に対して行う泥棒の話をしましょうか。爺や。説明してちょうだい」
「畏まりました。地図をご用意いたしましたので、これを使って今回の仕事の説明をさせていただきます」
ファリース侯爵の執事が地図を広げて、次郎吉が良く知るパステリスの町に丸石を置いた。
「今回の狙いはパステリスの町にあるコーンローズ侯爵の家です。正確には侯爵の前に住んでいた家ですね」
「前ってことは今は王都に住んでいるのか?」
「はい。流石にファリース侯爵の家の跡地に新しい家を作るような無礼はしませんでしたが代わりにギルター宰相の屋敷の近くに家を建てたようです」
「助けて貰う気満々で笑えるわよね」
キャリコの様子から本当に嫌っていることがよくわかる。そして次郎吉は大切なことを聞く。
「だが、実際に手を出しづらくはある。目的の場所が王都の家じゃないのはそこが原因なんじゃないか?」
「舐めないでくれるかしら? 今回に狙いはコーンローズ侯爵が侯爵になる前に稼いでいた裏金とコーンローズ侯爵が所持している宝剣が目的なの」
「コーンローズ侯爵はまだ侯爵になってから日が浅いです。侯爵になる前に稼いでいた裏金のほうが圧倒的に多いはずです。そしてコーンローズ侯爵家にある宝剣はコーンローズ家の権利の象徴とされています。なんでもこの宝剣で初代コーンローズ様が戦争で戦果を挙げたことで貴族になったという話です」
「なるほど権利の象徴が盗まれでもしたら大問題になるのか?」
次郎吉はそう考えたがここでキャリコが説明する。
「そこまでの問題にはならないわ。精々一族の最高の宝を盗まれて悔しがる程度よ。それで貴族の地位が剥奪されるとかにはならないわ」
「大したダメージにはならないのにやるんだな?」
「えぇ。私はその宝剣を盗んで装飾品を全部取り外して他国に売って、宝剣本体はドブにでも捨ててやるつもりよ」
一応金儲けのことを考えてはいるが完全に嫌がらせ目的である。これを知った次郎吉は聞く。
「まぁ、怪盗らしくはあるのか? しかしそんなことのために俺っちを使っていいのか?」
「いいのよ。簡単な泥棒にはならないからね」
「というと?」
「お嬢様は今回の予告状を出します。するとギルター宰相たちからすると格好のチャンスになると思いませんか?」
ここで次郎吉は今回の仕事の意図を理解した。
「つまり今回の仕事は国がどれだけ動くか探るのと同時にもし動いた場合の戦力見極めって感じか?」
「そういうことです。あわよくばコーンローズ侯爵とギルター宰相たちとの関係にひびが入ればいいとは考えています」
コーンローズ侯爵を助けなければ当然コーンローズ侯爵は不満に思うだろう。ギルター宰相たちが動こうが動かまいがどちらでも構わない仕事になっているというわけだ。
「意図は理解した。泥棒は俺っちが金、お前さんたちが宝剣でいいんだよな?」
「えぇ。作戦の打ち合わせはするけど基本やり方はそっちに任せるわ」
「ま、そうなるよな。俺っちが気になるのは時期だ。雪が降ると厄介なことになるがどうするつもりだ?」
雪が積もると必然的に痕跡は残りやすくなってしまう。出来ればそうなる前に仕掛けたいというが次郎吉の本音だ。そしてその意見にファリース侯爵の執事も同意です。
「そうですね。私たちも雪が積もっている中、犯行したくはありませんので、時期は早めにするとしましょう。今から二週間後でどうでしょうか?」
「問題ない」
「それじゃあ、コーンローズ侯爵の屋敷の地図を見せながら段取りを決めていきましょうか」
こうして次郎吉は次の泥棒の詳細を決めると町で服を調達してサヤの村に帰ると泥棒の準備を始めるのだった。




