#103 次郎吉の完全回復とキャリコとの約束
完全に運が味方した次郎吉は休憩しながらカナリにソーサリーファクトを教え込んで行った。その結果、カナリは自分でもう灯りのソーサリーファクトを作れるぐらいには成長し、村もだいぶ夜は明るくなって来た。
更にカナリは水を出すソーサリーファクトの製作し、村に安定的な水を供給することにした。このソーサリーファクトは魔法で生み出した水なので、汚れがない安心安全の水だ。魔力切れで使えなくなってしまうものだが、この村にはプラムがいるのであまり問題にはならない。
ただ流石のプラムも魔力には限界があるので、イメージ的には水道には届かず、ウォーターサーバーに近い性能のソーサリーファクトだ。それでも綺麗な水が安定して使えない獣人にはかなり救いとなるソーサリーファクトとなった。
更に獣人たちの経済の流れも徐々に出来始めて来た。やはり鉱石を売れるというのが大きい。ただ経済の流れが出来るということは必然的に犯罪も増えて来る。
「はぁ!? 金を出せだと? そんなもん知るか! どけ! 俺はここの銭湯って言うのに入りに来たんだよ!」
金を支払ずに銭湯を利用する獣人が現れ出した。外の獣人で金のシステムを理解していない獣人からすると湯に浸かるだけなのになぜ金を払う必要があるのか理解できないのだ。
「まぁ、気持ちは理解できるが村のルールには従ってもらわなきゃ困る」
次郎吉も川で遊んでいて、いきなり別の川で遊んだら有料と言われたらキレる気持ちは理解出来た。しかしここでこれを許してしまったら、村人全員が金払う必要がないという結論になってしまうので、しっかり施設から退場してもらい、働いて返してもらうことにした。
「そんなことしてやれっかよ」
当然逃げ出す獣人もいたがそれならそいつは銭湯の出禁にする対処をした。それでも突撃する奴はしてくれるし、どこの村にも所属していない獣人でこれだ。サヤの村の急速な発展と人口増加を見て脅威に思っている大きな村からも様々な妨害活動も増えてきた。
これに対して次郎吉はサヤたちに聞く。
「ここ以外の村はこんなくだらないことをするほど余裕がある状況なのか?」
「余裕があるからしてるんじゃねーの?」
「お兄様……イライラする気持ちは分かりますが落ち着いてくださいね? こっちから手を出すと相手の思うつぼですよ」
「分かっている! 分けっているけどよぉ……あぁ~! むしゃくしゃするぜ~!」
髪の毛の搔きまくるヤイバの姿は見た次郎吉は笑みを浮かべる。ヤイバの姿は江戸時代で言うと役人をしている人にそっくりだったのだ。
江戸時代の役人の仕事は行政、司法、警察、寺や神社の管理など多岐にわたる。そしてこの仕事内容が今のヤイバの仕事と完全に一致している。つまりヤイバはもう江戸時代のひとつの村を管理している役人と同じことを思えるほどに成長している証に次郎吉には見えたのだ。
「全く……お兄様ったら……ジロキチさんの質問に答えると余裕はありますが人間にいつ狙われるか分からない状況だとは思います」
「獣人の村が大きくなるとビャク王国の連中は大きくなりすぎる前に叩き潰しにかかるからな。あいつらからすると嫌がらせして自分たちの村から人が流れないようにするしかないんだろう」
「村が大きくても人がいなくなれば意味がないからな」
「そういうことだ。現状は悪い噂に対して事実は異なると反論するしかねーな」
こんなことがありながらも次郎吉は順調に回復していき、ソーサリーファクトをいじれるぐらいには回復してくるとここで先に話が合ったフェルにアーベルトの店の話で住居には手を出さない条件で貸し出すことが決まる。
これでバルバリス王国騎士団にとっては頼もしい支援拠点の一つが完成したことになる。これを知ったバルバリス王国は動こうとしたがフェルはビオラとラピーシア王女の手で既にシルファリッド王国の国民登録が済んでいることで下手に動けない状況となった。
暗殺しようにも国際問題になる上に場所がアーベルトの工房だとどんなソーサリーファクトがあるのかバルバリス王国からしたらわからないので、手が出せない感じだ。それでも探ろうとしてきたがフェルを守っているバルバリス王国騎士団と『アルバ』によって撃退された。
そんな影での小競り合いがありつつ、次郎吉は体を動かしてようやく元の自分の状態に戻ったことを確認した。
「うし! 俺っち! 完全復活!」
「おめでとうございます。旦那様!」
「本当に良かったです。お怪我が無事に治って」
「二人に散々世話されたからな。ありがとよ」
プラムとプリマ王女の二人に次郎吉が礼を言うと二人は笑みを浮かべた。そしてここでプラムは次郎吉に聞く。
「旦那様はこの後、どうするつもりですか?」
「ソーサリーファクトの調整をしてからキャリコとの仕事の約束を果たすために動く感じになるな」
「キャリコさんとの仕事の約束ですか?」
「あぁ。今回の仕事を手伝ってもらった形になったからな。完全に押し売りのような形だったが助かったのは事実。俺っちが倒れてからも運んだりして大変だっただろうからな。それに貸しは早めに返すに限る」
キャリコの気が変わり、もっと大変な仕事を要求されたら次郎吉からするとたまらない。なので変に交渉されるよりも先にさっさとキャリコとの約束である新しい侯爵に対して泥棒することにしたのだ。
そんなわけで次郎吉は自分のソーサリーファクトの修理と魔力の補給を済ましてからファリース侯爵の執事に連絡を取り、自分の現在の状態と状況を説明したのち約束の仕事のために二人の出会いの地であり、次郎吉がこの世界で生まれた場所であるグレスの町で合流することにした。
そして出発の日、次郎吉は寒さに震える。
「だいぶ気温が下がって来たな。もしかしてもうすぐ冬……寒い時期が来るのか?」
「そういえばもうそんな時期ですね」
「一応温かい服と寒さ対策のソーサリーファクトを漁って来るか……そういえば姫さんの服はどうすればいいんだ?」
「わたしくの服なら騎士団の皆さんが用意してくれる予定ですが」
プリマ王女はちょっと不安げだ。それもそのはず。騎士団が言ったからには届けはしてくれるだろう。王女の側近の騎士ならプリマ王女の好みなどは把握している。ただこの場所にどれくらいの期間で届けられるのかが王女視点だと分からないのだ。
それを察した次郎吉は言う。
「適当に買って来るか……姫さんが着なくてもエメリにあげればいいし、どうせ村人全員分の服を用意することになるしな」
「ありがとうございます」
「では、今回は旦那様とご一緒させてくださいませ」
「どうしてだよ?」
「旦那様は村人全員の服の大きさや好みを知っていますか? わたしくはずっといるので大体把握しておりますよ?」
今回はプラムが強かった。次郎吉も泥棒の予定と買い物をするだけの短期滞在の予定で、なおかつゲオリオたちもいることから問題なしと判断し、プラムと二人でシルファリッド王国に向かうことにしたのだった。




