#102 サヤの村の決断とシルファリッド王国での緊急事態
その後、次郎吉はサヤたちに現在の状況を説明し、プリマ王女の提案のメリット、デメリットを説明した上で自分たちがどの道を選択するのか判断を任せることにした。村や国を運営するというのはこういうことだ。
そしてサヤたちは即断即決するわけではなく、みんな賛成反対意見を聞いて、一週間の間に結論を出した。結果はプリマ王女の滞在を認めて、プリマ王女と正式な契約書を結ぶ道を選んだ。
「人間への憎しみを抱えている人たちもビャク王国を倒すためにはまず平和を手にして人口を増やさないといけない勝負にすらならないことを理解してもらった形です」
「ビャク王国のほうが数も兵士一人の装備の質もまるで違うからな」
「あぁ……いくら俺たちでもこれを覆すほどの力はない。力の限り戦って力尽きて終わるだけだ。俺たちの歴史はそれを繰り返してきた。その果てに絶滅の未来があることをみんなが理解していたからこそ俺たちは自分たちの目的のために王女様を利用することにした感じだ」
「俺っちはそれでいいと思うぜ? お互いが自分たちの目的のために存分に利用し合えばいいのさ。その果てにどちらが得をして損をするのかはわからない。そこにはそれぞれの駆け引きとかあるだろうからな。お前さんたちは負けないように頑張れよ。俺っちは関係ないからこの話には手を貸さん」
サヤたちは次郎吉が自分たちを一人前に育てようとしていることに気が付いている。だから次郎吉の手を貸さない話にも理解を示してくれた。一方次郎吉の狙い的には人間の外交を教える意図があった。
獣人と人間とでは外交のレベルが圧倒的に違う。獣人は自分たちとほぼ同じ立場で話せるが人間のほうは圧倒的な人口差に技術レベルも違いすぎる前に外交の経験値差がある。流されてばかりいたら、不利な契約をどんどん結ばれて資源を全部取られて借金漬けにされて国として終わる。これからサヤたちが人間社会に適応するために人間の交渉術などを学んで欲しかったのだ。
サヤたちにとってはかなり前途多難な道だが、プリマ王女との契約が成功すればかなり楽になることは間違いない。そこを理解してプリマ王女と村の滞在許可だけ認めたのは成長だろう。これはつまり獣人はプリマ王女の護衛や王権奪還には手を貸さないという意思表示だ。
これに手を貸すメリットはあるが獣人たちの現在の敵はビャク王国となっている。わざわざバルバリス王国の王権奪還に戦力を提供して戦力を減らしてしまっては意味がない。ちゃんと目的を見定めているからこその契約内容となった。
彼らの契約が今後未来にどんな影響を出すのかそれは歴史が証明してくれることだろう。
一方その頃、各国では次郎吉の件で各国が外交バトルが続いていた。ゲオリオの説明したところから進展があったのはバルバリス王国からビャク王国に対して、次郎吉の殺害要求が付きつけられたことだ。しかもこの要求に従わなければ軍事行動も辞さないという強硬手段だった。
これに対してビャク王国も決断しなければいけなくなった。
「王様! もうシルファリッド王国と呑気に交渉している余裕は無くなりましたじゃ。いかがしますじゃ?」
「ど、どうすればいいのだ? ヨモギ宰相。わたしはどうすればいい?」
ビャク王国の王様は俗にいう親の七光りの王様で政治の全てをよぼよぼでしわくちゃの緑髪が特徴的なヨモギ宰相に依存して国王をしていた。
「こうなったからにはシルファリッド王国の要求をある程度飲むしかありますまい。しかし我が国から兵士を出すことは許可してはなりません。またタダで相手の要求を呑むのもダメですじゃ。最低限の金を取らねば王の威厳が無くなります」
「わ、わかった。全部ヨモギに任せてよいか?」
「……はい。お任せくださいませじゃ」
ヨモギ宰相が王の謁見が終わると空を見上げる。
「……やれやれ。儂が死んだ後、この国はどうなってしまうのか……獣人に奪われでもしたら儂は前王に顔向けできん。シルファリッド王国には頑張って欲しいものじゃ」
宰相の全てが悪い人間というわけではない。ヨモギ宰相のように頼りない王に忠誠を誓い、なんとか支えている苦労人もいるのだ。
こうして次郎吉討伐の話は進むのだが、シルファリッド王国で予期せぬトラブルが発生した。この話から更に一週間後、次郎吉が見た新聞にはこう書かれていた。
『シルファリッド王国国王が吐血! 寿命僅かか?』
シルファリッド王国の国王が貴族との謁見中に突如吐血して倒れてしまったのだ。現在命に別状はないとされてはいるがベッドで安静にしていると新聞の記事には書かれていた。
この突然の出来事にオレガ第二王子は椅子を蹴り、苛立ちを見せた。
「くそ! どうして今なんだよ! 折角邪魔者を一人ようやく消せそうだったのによ!」
「落ち着いてください。オレガ王子。こちらの緊急事態はバルバリス王国とビャク王国も理解してくれるでしょう。もし我が国の国王を軽視すれば戦争となるのですから。今のバルバリス王国には我が国とやり合う余裕はありますまい。ビャク王国は最初から相手にすらならない相手。延期には納得するほかないはずです」
「お前に説明されなくとも分かっている! 俺様もそう説明するつもりだ。だがノエールの奴が何言ってくれるかわかるだろう?」
「鼠小僧討伐はオレガ王子が進めていた話ですからな。当然国王のことは自分に任せてオレガ王子には自分の仕事をするように言うでしょう」
「あぁ……それが気に食わねーんだよ! 力を持たない雑魚の分際で!」
ノエール第一王子とオレガ王子との確執はかなり根深いようだ。ただしこれはオレガ王子が一方的に思っている感情である。
そしてオレガ王子とギルター宰相が動けない理由が自分たちがビャク王国に軍隊を派遣している時にもし国王が亡くなり、ノエール第一王子が次期国王になることを宣言されてしまったら止める手段がなくなるから二人は動けなくなってしまったのだ。
何はともあれ次郎吉はこうして自身の完全回復まで安全に時間を過ごすことが出来たのだった。
※丞相




