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ファミリーコンプレックス  作者: 及川愛理
3/4

家族崩壊、直前。

引っ越してから、私は家に居るのが嫌になってきた。

暴言ばかりの弟と共同部屋で、特に悪い子だった私は有川に叩かれてばかりだった。

盗難癖があった私は、姉や母のものを無断で拝借していたことが多かったが、同級生の女子の時計を普通に持って帰っていったときがある。

そのときは、顔の形が変わるぐらいビンタをされた。




中学二年生の、夏のことだった。

体育大会目前で賑わっていた学校の中、お昼休み終了後にお手洗いに行って帰ってきたら、その階には人の姿が見えなかった。

自分のクラスへ帰ってハチマキを持ち後ろの女子の席を見ると、

腕時計が置いてあった。



あ。



気付いたらその腕時計を自分のバッグにしまい、バレなきゃいいやとそのまま体育大会の午後の部に参加するべく鼻歌交じりで校庭へ向かった。


なにを思ったか私は1週間ほどあと、その腕時計をして学校へ向かった。

学校ではずせばいいや。こんな可愛い腕時計、みんな見て?欲しいでしょう?

そんな意味のわからない事を思いながら教室へ入り、もちろん時計の持ち主の女子も、腕時計を鞄へしまうのを見ていた。




体育が終わると、その女子と女子の友達に囲まれた。

しまった。そんなこと思っても、もう遅い。

「これ。盗んだだろ。」

結構ギャル系の彼女らに廊下の真ん中で問いただされて、怯えた。

なんだよ。ちょっと借りただけじゃん。

心の中でそう思いながら、「それは、最寄り駅で買った。」と言い張る。


もちろん女子たちは「はぁ?」って顔。私はどうか納得してくれますようにというような戯言を心の中でほざいていた。



放課後、担任の女教師に呼び出された。

それから、誰もいない生物室で、担任ともう一人教師に尋問をされた。

「うちのクラスのあの子が、あなたが腕時計盗ったっていうんだけど。」

「知りません。私は自分で買いました。」

「どこで?」

「最寄り駅。」

「いつごろ?」

「ううん…多分、1ヶ月半くらい前。」

「絶対にあなたのなのね?」

「…間違いありません。」

「本当に心当たりないの?先に言っちゃったほうが楽なのに。」

「私のです。」


こんなやり取りが何時間も続いた。

4日後には、自分がやったと認めた。


母親を呼ばれた。サボり気味の部活の顧問も来た。

学年主任の怖い熱血教師も来た。そこは、生徒指導室だった。






その日の夕方、有川にリビングへ呼ばれた。

そのときの記憶は、かなり鮮明に覚えていた。


「有栖。そこに座りなさい。」

そういわれて、私は体育座りした。あぁ、怒られるな。その程度としか思っていなかった。そして、怒っているときは敬語になるなんて漫画みたいだなぁと思った。

「なんだよその座り方は。」

体育座りのことだとすぐにわかった。だが、しらばっくれる。少しでもなんのことか知らない風に。

「はァ?」

私はそう言った。

頭を、丁度真上から、叩かれた。頭蓋骨、割れたんじゃないかと思うくらい、いつもの何倍も強かった。

「悪いことしたってわかってんだろ?正座しろ!」

ものすごく強く言われた。大声は苦手ではなかったが、有川のせいで今は苦手だ。

「………うん」

ふてくされたように正座した。なんで、コイツに。なんで、私はアカの他人のコイツに怒られてるんだ。納得行かなかった。





バチン。バチン。






大きな音がした。一瞬なにが起きたのか理解できなかった。

しばらくして、2回ビンタされたのか、と納得した。

納得してから、痛みがジンジンきた。




「何をしたか、言いなさい。」

なんで。なんでなんでなんで。どうせ、知ってるんでしょ?そうやって一応反省していることを蒸し返して楽しい?楽しいの?

「友達の、腕時計を、奪った。」

敢えて、盗んだとは言わなかった。言いたくなかった。だって、こんな、こんな_____





こんな大事になるなんて、自分でも思ってなかったから。






「なんでそんなことしたのか、言え。」

まだ終わっていなかった。大人のネチネチとした厭らしい尋問はまだ続く。

「…欲しかったから」

「欲しかったら盗っていいのか?!」

間髪入れずにそう叫ばれた。あぁ、うるせぇな、だから、わかったって言ってるだろ。どうせ、欲しかったからって言うと思ってたんだろ。うるさい。反省してる。こんなこと二度としない。わかってんだよ。偽善者が。

心の中で、そういう言葉の渦が出来上がってきた。

「………」

どう返せばいいのかわからなかった。なんて言ってほしいんだろう。なんて返せば早く終わるんだろう。だから、黙っていた。

「なに黙ってるんだよ。欲しかったら盗っていいのか?ん?」

あぁ、もう。うるさい。黙れ。しつこい。

「…ごめんなさい」

「謝ればいいのか。これは犯罪だ。窃盗罪なんだよ。なんのために法律があるのか知ってるか?相手に訴えられたら、お前捕まるんだよ」

わかってるよ。うるさい。そんなの、もう先生から何回も聞いた。知ってる。反省してる。黙れ。黙れ。黙れ…

「わかってる」

「わかってないだろ。わかってないからこういうことになってるんだろ。お前自分の立場理解してる?なに開き直ってるんだよ?お前、いい加減にしろよ。」


途端に、頭に激痛が走った。やっぱりこのときも、すぐには自分の状況を理解できなかった。

「っっ痛ぅ___・・・」

「お前、いい加減にしろよ。」

髪を掴まれて、電子ピアノの上に押し付けられた。仰け反って背中が痛かった。母は、腰に手をあててじっとこちらを見ていた。


「立場を理解しろ。お前は犯罪者だ。人間のクズだ。窓から落としてやろうか?あ?」

リビングにある窓の下はコンクリートの壁で、3,40mほど下にコンクリートの道路があるだけだった。高い土地に住んでいたので、窓のすぐ下はマンションの5階と同じくらいの高さだった。

もう、死んでもいいや。ていうか死にたい。もういいや。どうしてこんなクズ人間に私はなったのだろう。

「…いいよ。落とせよ。」

バッチン。またビンタをされた。

「いいよじゃねぇだろ!?いい加減にしろ。いいか、お前は…」




そこから先は、どうやって早くこの状況をやめさせるかに思考をめぐらせていたため、あまり覚えていない。


ただ、何度も叩かれたことだけは、覚えていた。

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