くっきり鮮明 ▼ リアルタイム
入浴剤を入れてかきまぜると、張っていた湯は瞬時に白く濁った。疲れた体をくつろげるように湯船につかった。この無駄に大きな浴槽は背筋を張り、足を伸ばしても、だいぶゆとりがある。そのため、時々寂しさを感じてしまうことがあった。
はあと、ため息をついた時、脇においてあった携帯電話の存在を思い出した。本当に大丈夫なのだろうかと疑いつつ、スマートフォンに湯をつけてみる。おそるおそる、スマートフォンを撫でた。無事に操作できた。このような場所で使うことなどないと思っていたが、意外と便利なものだな、防水加工。
いまだ慣れない手つきでスマートフォンを操作して、近場の市民プールを検索した。月雲が水練できる場所を探すためだ。
人見知りのアイツが市民プールなんぞで練習できるのだろうかという懸念があった。ちょっと危険な気がする。
――いや、ちょっと待てよ……。
そうだ!
市民プールで練習するよりも良い考えを閃いた。俺は勢いよく顔をあげた。浴室の出入り口に月雲美露が立っていた。
「な、なななななななな……!」
しかも一糸まとわぬ姿で――だ。
「なにやってんだよ!?」
「……慌てないで」
「慌てるなといったって、お前、人前で裸になるなってあれほど言っておいただろ!」
こんな忠告をしている自分が情けない。
「それに私、裸じゃない。ほら、水着、着てる」
「あ……本当だ」
湯気を前にすると一見全裸に見えるが、よく見ればたしかに水着を着用していた。
「そう、焦ることはなにもない」
着用していたのはアイボリーホワイトの水着だった。
前にも述べたように純真な男子学生にしてみれば、そんな格好は全裸となんら変わらないわけで――。
「って焦るわ! なんて水着の色してやがる! こんの、あほんだりゃぁ!!」
「……?」
「この浴室からさっさと出てけ!」
「……でも、でもでも、大毅、私に泳ぎ方、教えてくれるって言った。さっき、教えてくれるって言った」
「そんなもん、こ、今度に決まってるだろ!」
「でも、でもでも、でも私、水だと顔つけれないし。まずはお湯で練習した方が都合がいい……と思う」
「それにしたって、今じゃない!」
「じゃあ、入っていい?」
「ダメだつってんだろ! 恐ろしいほど乏しい論理力だな!」
ここでよくよく考えれば、月雲の格好は水着姿だ。公衆の面前でだってさらせることのできる格好だ。
ふう、そう考えていくと、過剰に反応する方が童貞らしいではないか。
「……はッ?!!」
いや、ちょっと待て――
そこで、重大なことに気がついた。たしかに、彼女は水着を着ているが、
――普段通り湯船につかった俺の方はといえば……
……生まれたままの姿をしている。
「今すぐ出てけぇええええええッ!!!」
急に恥ずかしくなった俺は、白く濁った湯船から立ち上がって叫んでいた。
「きゃ……っ!」
「はっ!!」
もちろん、ここには恥部を隠してくれるような都合のいい湯気などはない。ブルーレイよりもくっきり映ったことだろう。
加害者の立場であるはずの月雲は、こういった事態には不慣れなのか、視線を下ろして(どこに下ろしているのかは想像に任せる)顔を紅潮させていた。ショックによるせいか、足ががくがくと震えている。わなないた唇でポツンとつぶやいた。
「…………不測の事態」
「それくらい予測しろやッ! このオタンコナスッ!」
堂々と覗きにきたくせに現物を見せられた途端に、爆発しそうなほど顔を真っ赤にして、ふらつきながら後ずさると、開き戸を開けてから手のひらをパチンと合わせた。
ごちそうさまのポーズだ。
次にコイツが何かいったとき、どうしよう、殴りたくなるかもしれない。
「……お粗末さまでした」
「うわぁあああああああ!! お粗末って言うなああああーーーー!!」
それ以後、家の浴室には重厚な南京錠がつけられた。内側につけてしまったことにより、錆びて壊れるのに時間はかからなかったとは、言うまでもないだろう。
次回 ▷ 明後日かな?




