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ぼくは変態に恩を返さねばならない。  作者: 甘味処
第7章 7年前のあの人の面影
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くっきり鮮明 ▼ リアルタイム



 入浴剤を入れてかきまぜると、張っていた湯は瞬時に白く濁った。疲れた体をくつろげるように湯船につかった。この無駄に大きな浴槽は背筋を張り、足を伸ばしても、だいぶゆとりがある。そのため、時々寂しさを感じてしまうことがあった。


 はあと、ため息をついた時、脇においてあった携帯電話の存在を思い出した。本当に大丈夫なのだろうかと疑いつつ、スマートフォンに湯をつけてみる。おそるおそる、スマートフォンを撫でた。無事に操作できた。このような場所で使うことなどないと思っていたが、意外と便利なものだな、防水加工。


 いまだ慣れない手つきでスマートフォンを操作して、近場の市民プールを検索した。月雲が水練できる場所を探すためだ。


 人見知りのアイツが市民プールなんぞで練習できるのだろうかという懸念があった。ちょっと危険な気がする。


 ――いや、ちょっと待てよ……。


 そうだ!


 市民プールで練習するよりも良い考えを閃いた。俺は勢いよく顔をあげた。浴室の出入り口に月雲美露つきぐもみつゆが立っていた。


「な、なななななななな……!」


 しかも一糸まとわぬ姿で――だ。


「なにやってんだよ!?」


「……慌てないで」


「慌てるなといったって、お前、人前で裸になるなってあれほど言っておいただろ!」


 こんな忠告をしている自分が情けない。


「それに私、裸じゃない。ほら、水着、着てる」


「あ……本当だ」


 湯気を前にすると一見全裸に見えるが、よく見ればたしかに水着を着用していた。


「そう、焦ることはなにもない」


 着用していたのはアイボリーホワイトの水着だった。


 前にも述べたように純真な男子学生にしてみれば、そんな格好は全裸となんら変わらないわけで――。



「って焦るわ! なんて水着の色してやがる! こんの、あほんだりゃぁ!!」


「……?」


「この浴室からさっさと出てけ!」


「……でも、でもでも、大毅、私に泳ぎ方、教えてくれるって言った。さっき、教えてくれるって言った」


「そんなもん、こ、今度に決まってるだろ!」


「でも、でもでも、でも私、水だと顔つけれないし。まずはお湯で練習した方が都合がいい……と思う」


「それにしたって、今じゃない!」


「じゃあ、入っていい?」


「ダメだつってんだろ! 恐ろしいほど乏しい論理力だな!」


 ここでよくよく考えれば、月雲つきぐもの格好は水着姿だ。公衆の面前でだってさらせることのできる格好だ。


 ふう、そう考えていくと、過剰に反応する方が童貞あほらしいではないか。


「……はッ?!!」


 いや、ちょっと待て――


 そこで、重大なことに気がついた。たしかに、彼女は水着を着ているが、


 ――普段通り湯船につかった俺の方はといえば……


 ……生まれたままの姿をしている。



「今すぐ出てけぇええええええッ!!!」



 急に恥ずかしくなった俺は、白く濁った湯船から立ち上がって叫んでいた。



「きゃ……っ!」


「はっ!!」


 もちろん、ここには恥部を隠してくれるような都合のいい湯気などはない。ブルーレイよりもくっきり映ったことだろう。


 加害者の立場であるはずの月雲は、こういった事態には不慣れなのか、視線を下ろして(どこに下ろしているのかは想像に任せる)顔を紅潮こうちょうさせていた。ショックによるせいか、足ががくがくと震えている。わなないた唇でポツンとつぶやいた。


「…………不測の事態」


「それくらい予測しろやッ! このオタンコナスッ!」


 堂々と覗きにきたくせに現物を見せられた途端に、爆発しそうなほど顔を真っ赤にして、ふらつきながら後ずさると、開き戸を開けてから手のひらをパチンと合わせた。


 ごちそうさまのポーズだ。


 次にコイツが何かいったとき、どうしよう、殴りたくなるかもしれない。




「……お粗末そまつさまでした」


「うわぁあああああああ!! お粗末って言うなああああーーーー!!」




 それ以後、家の浴室には重厚な南京錠がつけられた。内側につけてしまったことにより、錆びて壊れるのに時間はかからなかったとは、言うまでもないだろう。






 次回 ▷ 明後日かな?


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