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ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい  作者: 星里有乃(星井ゆの花)
時を超える手紙

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09


 世にも珍しいカシス嬢の葬儀の招待状は、何回か前のタイムリープで送られてきたもの。それを未だに持ち続けている人がいるとは驚いたが、カシスの親友であるレイチェルなら持ち続けていてもおかしくないとヒメリアは納得した。


「やっぱり、不吉なものをずっと所有したくないという思いから、教会でお焚き上げを?」

「うん。実はね……カシス、今病気なのよ。原因不明で薬が効かないの」

「えっ……」


 美人宝石商として中央大陸で名を馳せていたカシスが、病床にいるとは初めて聞く話だ。ヒメリアは修道院に入ってからはずっと、閉鎖空間で暮らしているから知らないことが多いのも当然だが。


「もしかして、私がこれをずっと持ち続けていたから、カシスが今病気なんじゃないかって思うようになって。けれど、タイムリープの証拠品は全て保管するようにと博物館経営のお父様の方針で、この葬儀の招待状も保管していたの。ただ、こんな内容だし公の場に出せるようなものではないわ」

「確かに、今は生きている人の葬儀の招待状なんて博物館に飾ったら非常識と叩かれるのは目に見えています。それで、レイチェルさんは博物館を介せず自分だけでこの招待状をずっと保管していたんですね」

「ええ。それに、カシスは赤毛の魔女の血を引いているってもっぱらの噂だったし。今思うと、赤毛の魔女の因果を背負っているのはフィオちゃんだけではなく、カシスもそうだったんだって。彼女の髪色が赤毛に近いことからも気づいたの」


 思い返してみればカシス嬢の髪色は真っ赤までとはいかないものの赤茶色で、人によっては赤毛と呼ぶ人もいるということにヒメリアも納得した。


「赤毛の魔女からすると、カシス嬢はフィオちゃんのように依代に出来る可能性があったから、キープしていたのかしら」

「多分ね。そして、正式な依代を得た後は同じ赤毛は脅威になるから程よいところで始末する。そう考えると、納得がいくわ。今のカシスが病気であることも」

「けれど、今は赤毛の魔女の魂は安らかに眠っているはず。何故……?」


 フィオに宿っていた赤毛の魔女の魂は、浄化されて冥府に送られたはずだ。本来のフィオは、取り憑かれた頃の幼い少女として人生をやり直している。だから、赤毛の魔女の魂はもう何処にも存在していないはずだった。


「赤毛の魔女の魂は、おそらくこの手紙の中に……。この手紙の筆跡ね、実はカシス本人のものなの」

「カシスさん自身の、筆跡……? カシスさんは自分の葬儀の招待状を、死ぬ前に書いていたってこと?」

「おそらく。でも、カシスの死は当時、殺人なのではないかと囁かれていたわ。もちろん、私も疑われた。親友だったけれど、ライバルでもあったから」


 当時、クルスペーラ王太子の花嫁候補はカシス嬢が本命、レイチェルが対抗馬と言われていたらしい。まだ幼かったヒメリアとフィオは、王太子が同世代のご令嬢と纏まらなかった場合の保険だったのだろう。結局、カシス嬢の死亡フラグは何度タイムリープしても不吉の予兆として爪痕を残し、カシス・レイチェル世代のご令嬢は自然と花嫁候補から離脱していった。


「じゃあ、カシスさんは自ら死を望んだってこと?」

「違うと思う。ううん……だからこそ、赤毛の魔女なのよ。カシスは赤毛の魔女の依代になるには、少しばかり自我が強かったんだわ。それに、たくさんの宝石を所有していて、そっちに魂を奪われていたようだし」

「そういえば、呪われたダイヤモンドが嵌められたティアラを、嬉しそうにつけていた気がする。まさか、カシスさんを殺したのは……」


 絶対に捕まらず、見つかることすらなかった犯人。それもそのはず、カシス嬢を殺すのに対外的な力は及んでいないのだ。一見すると事故か自死に見える彼女の死は、つまり赤毛の魔女がカシス嬢に取り憑いて命を奪ったのだと推測される。


「カシスの肉体を操れれば、事故でも自死でもうまく装えるでしょう。そんなこと出来るのは、カシスと同族にして彷徨える魂の赤毛の魔女だけだわ。きっと、正式な依代としてフィオちゃんを見つけたから、カシスの方を始末することにしたのね」

「……葬儀の招待状なんて、非常識なものを欠かせたのも赤毛の魔女。普通はあり得ないような招待状をご遺族が送ることにしたのは……」

「親しかった人ならば筆跡をみればカシス本人のものだって気づいたはずよ。少なくとも、誰かに殺されたという説は無くなるでしょうね。事実、最初に疑われていた私もカシスの家族も、本人の筆跡である葬儀の招待状が証拠になって疑いが晴れたし」


 今では大人同士の立場としてレイチェルと会話出来るヒメリアだが、当時はレイチェルがお姉さんでヒメリアは本当に子供だった。込み入った話が一切入って来なかったのも当然であるし、タイムリープ後にこの不吉な話をする機会が来るなんて誰も想像しない。


「そんなことがあったなんて、全然知らなかったわ。きっと、ご遺族がこの手紙を送る意味はとても深かった」

「うん。だけど、その役割ももうおしまい。赤毛の魔女は、多分その魂の一部はこの手紙に眠っている。今度こそこの手紙だけを荼毘に伏してあげないと……。そして本物のカシスには、目を覚まして貰わないとね」


 時を超える手紙を燃やし、天に上げる。

 それは赤毛の魔女のもう一人の後継者、カシス嬢を救うための祈りでもあった。


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* 2024年04月28日、第二部前日譚『赤い月の魔女達』更新。 小説家になろう 勝手にランキング  i1122560
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