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ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい  作者: 星里有乃(星井ゆの花)
時を超える手紙

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 冬の寒空の下、修道院の広い敷地に大きな荷物を乗せた馬車が数台停まっている。信仰の象徴たるマリア像の設置と、教会利用者向けの売店や喫茶店を始める準備だ。既に新たな建物はほぼ完成しており、最後の仕上げが終わったらいよいよ店舗用のテーブルや椅子の搬入である。

 マリア像の手配から店舗に使う家具の手配を引き受けたのは、ペリメライド島出身のうら若き女性貿易商だった。


「久しぶり、ヒメリア! あっ今は、シスターマリアだったわね。ごめんなさい、貴女が修道女だってこと忘れちゃうのよね。こんなに素敵な修道服を着ているのに」

「私もお会い出来て嬉しいわ、レイチェルさん。シスターっぽくないのは、私がまだ見習いだからかな」

「ううん。今の貴女は立派な修道女に見えるわよ。やっぱり、貴女のこと小さな頃から面倒見ていたからかなぁ。ふふ、けどこうしてまた会えるなんて夢みたい」


 金髪碧眼の美人貿易商の正体は、ヒメリアと同じペリメライド出身にして花嫁候補会のOGであるレイチェルだ。仕事を兼ねて、ヒメリアの住む修道院まで来訪したのは事実であるし、修道院の庭に飾る新しいマリア像を届けるため。

 そして、これからオープンする予定の売店や喫茶スペースの下見が目的だ。が、ヒメリアはそれ以外にも彼女には用件があるのだと確信していた。


「花嫁候補会は自然と解散してしまったし、大半は大陸に渡ったけど遠方に住んでいるせいで会う機会がないものね」

「それだけ、ペリメライドという島の人間関係が狭いということだわ。あぁ……これ以上はここでは禁物。マリア像の設置予定場所に売店と喫茶コーナー作る予定でしょ。今日はサンプルの家具を搬入したの。そこでお話ししましょ……使いやすい空間になっているか試せるわ」


 レイチェルにこやかな表情が、一瞬だけ翳ったのをヒメリアは見逃さなかった。きっと、笑顔の裏に哀しい秘密があるのだ。

 その日の新聞記事は何処もかしこも、ペリメライドに纏わる不思議な現象を取り上げたもので、特に【時を超える手紙】なるものが注目されている。


『孤島に起きたタイムリープ現象を裏付ける不思議な手紙。それともそれは未来からの警告か?』


 情報提供元はレイチェルの実家が運営するペリメライドの博物館で、このタイミングで記事が公開されたことには意味があるのだろうと思われる。


(まさか、時を超える手紙が他の人の手元にもあったなんて。けれど、すべての人が持っているわけでもないし、何かカラクリがあるのかしら?)



 * * *



 サンプルで仮に喫茶コーナーに設置されたテーブルと椅子は、落ち着いた木の温もりが感じられるものだ。見た目も良いし問題ないと思いきや、レイチェルは少し考えてしまっている。


「うーん。思ったよりこの修道院の地域は寒さが堪えるし、椅子は木の素材よりもお尻を冷やさないものに変えようかしら。こういう気候にすぐ配慮出来ないのって、温暖な島で育った影響ね」

「そういえば、ペリメライドって滅多に雪なんか降らなかったし。この修道院はどちらかと言うと冬が寒い地域だし、すぐに気づかなくても仕方がないのかも」

「予算を調整してすべてソファで揃えた方が、冷え防止にもなるかしら。奥の席だけソファセットなんだけど、そっちで長く座ってみましょう」


 ソファセットは色合いこそダークブラウンで木の椅子と似ているが、座り心地は格段に良い。全てをこのソファで揃えるのは予算的に不安もあるが、他を節約して揃えると言うことで話は纏まりそうだ。家具の使い心地をチェック項目に記載していると、紅茶とクッキーのセットが運ばれてきた。


「修道院名物の手作りクッキーよ。試作品だけど、自信作だからきっとお土産に良いと思うわ。後で感想聞かせてね」

「まぁありがとう、シスターカタリナ」

「可愛らしいクッキーね、早速いただくわ。うん、自然な甘さでいいわね」


 まだ調理器具がすべて揃っていない事から、今回の試食は紅茶と修道院の食堂で焼いたクッキーのみ。お土産品は売店にも置くそうで、十字架モチーフや鳩モチーフなど聖書を彷彿させるデザインだ。


 だいぶ落ち着いたところで、ようやく今朝の新聞の話題に話が移る。


「ところで、時を超える手紙という記事……読んだかしら。うちの博物館が取材に応じて提供したものなんだけど。手紙の差し出し人は皆、赤毛の魔女と血の繋がりがある人々。タイムリープの繰り返される時間を僅かにすり抜けたものが手紙という見解なの」

「ええ。未来の日付の手紙がたくさん見つかっているというものよね。タイムカプセルという説もあるけど、私はやっぱりタイムリープの裏付け説だと思うわ」


 ヒメリアの手元にある【時を超える手紙】は、レオナルド公爵からのものである。未来の日付となっている手紙が、過去にしまった箱から発見されるのだ。最初は身に覚えのない手紙に驚いたが、徐々にタイムリープの余波で抜け落ちた部分がそこに保管されていたことに気づいた。


「うん、私もヒメリアと同じ意見よ。タイムリープの大事な証拠になるから、すべて手紙は取っておくようにとお父様から言われていたんだけど。この手紙だけは……処分しようと思って、けれど証拠隠滅にもなってしまうから燃やす前に神様に報告したいの」

「レイチェルさん……その手紙ってまさか」


 黒い鞄からレイチェルが取り出した手紙は、幼かった頃のヒメリアも一度だけ見た覚えのあるもの。


『カシス嬢の葬儀のお知らせ』


 初期の頃のタイムリープで起きた悲劇の証拠、葬儀を報せる手紙だ。


 一般常識を覆すように、彼女の死については何故か葬儀前に招待状のように届いたのだ。そして、カシス嬢は次のタイムリープでは死ぬことなく、今も生きているはず。

 はずなのだが、レイチェルの様子ではまるでもう一度カシスの死を見るかのような態度。


 手紙を守る因果の封は、もう一度切られる運命なのだろうか?


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* 2024年04月28日、第二部前日譚『赤い月の魔女達』更新。 小説家になろう 勝手にランキング  i1122560
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