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ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
幕間

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時の公爵は未来の恋人に誓う


 かつて交わされた遠い日の約束は、魂の輪廻の後に果たされることになった。前世の記憶すら喪っているヒメナとフィオリーナだったが、どちらかの身に危険が差し迫った場合は女神の契約により時の糸車が発動する。


『今回もまた前世の業を解消出来ずに、魔女が殺されました。しかし、貴女達はもう来世に因果を持ち越すことは出来ません。もう一度、時を繰り返しましょう……さあ時の糸車を廻すのです』


 女神が合図をすると蚕の糸を紡ぐように、廻り出す。魔女が裁判により釜に茹でられて、その尊い犠牲により時の絹糸が採取されるのだ。ペリメーラ島全体と周辺の海域を巻き込んで行われるタイムリープは今回で三周目となった。


 しかし、ペリメーラ島が俗に言う孤島とはいえ、現代においては大陸からの物資の流入があり人間の往来もある。島の中と周辺海域の時間を巻き戻しては繰り返すその違和感は、外部の人々から見てもいよいよ目立つようになった。


 注目されるようになったキッカケは、ペリメーラ島周辺海域からの中央大陸に戻って来た漁師が皆、一年間の時が巻き戻っていると主張するようになったからだ。一人や二人ならともかく、船員も船長も一様に口を揃えて時間の歪みを主張するのは珍しい。



『おい、噂だけどさ……ペリメーラ島の奇妙な海流。また、漁師が奇妙なうわごとを言い始めたらしいぞ。なんでも、気がついたら一年前戻っていたとか』

『船の上にずっといるんじゃ、時間感覚が無くなるんだろうよ。けど、随分と時差ボケが激しい海域らしいな。殆どの連中が一年間の時差ボケだなんて聞いたことがない』

『だいぶ昔にも、そんな噂があったが……その時は数週間とかそんなもんだったからな。今回初めて酷いねぇ』



 ある者は、時間の流浪に巻き込まれてまるで神隠しにでも遭ったかのように、困惑しながら大陸に戻って来た。また、ある者は手紙の行き違いや物資の購入トラブルなどが絶えず、ペリメーラ島との貿易自体断念することに。


「このままでは流石に貿易そのものが駄目になってしまう。島の特産物に頼っている漁業関係者や果物店、絹糸業者は数多い。それに、あの島の鉱山は、貴重な鉱石が採れることでも有名だ。何とかしなくては……」

「けれど、あの島はかつて女神信仰だった影響で、特殊な術がかけられているらしいいじゃないか。なんでも、島と縁のある人物以外は時の輪から省かれるとか。いわば呪いがかかっているのだよ」

「原因が呪いなのであれば、女神様のお眼鏡に適う人物が調査をすれば或いは何か掴めるやもしれん。どうだろう? ペリメライド国の建国時にも大いに関わったという大公爵の子孫に依頼してみては……」


 そして、その現象は『忘れ去られた女神の呪い』と噂されるようになる。ただの噂話だと笑い飛ばせれば良かったが、実際に貿易が滞っては困る商人も多い。対策を立てるために行商人組織の代表者は、ペリメーラ島に縁が深い中央大陸のレオナルド公爵に調査の許可を申請することにした。



 * * *



 若き公爵レオナルドは、未だペリメーラ島が正式な国ではなく女神の領土であった頃に、大陸との貿易を開始した大公爵の末裔である。



「時を繰り返す島、だと? もしや、その報告にある時間の渦の場所は、ペリメーラ島海域の事ではないのか」

「はい。以前からそのような時を繰り返すという怪奇現象が起きている噂が絶えなかったのですが。この一年間のあいだに、現象が酷くなった模様です。同じ日にその島にいたはずの者が、別の記憶では大陸にいたり……あまりにも辻褄の合わない者が増えておりまして」

「ふむ。そうか」


(必ず夢で終わる夜会の謎はやはりタイムリープのせいか。一度も大陸を訪れたことのないはずのヒメリア・ルーイン嬢との淡い恋は白昼夢のようだ。もしやタイムリープの影響で、未来の時間軸が歪んでいるのか?)


 実はレオナルド自身も、摩訶不思議なタイムリープに巻き込まれている当事者の一人だった。彼は中央大陸で主催される夜会で、確かにヒメリア・ルーイン嬢の手を取りダンスに誘ったはずだった。だが、気がつくと時間は巻き戻っていてそのような未来は訪れたことはない。


(私が赤毛の魔女から受け継いだ唯一の魔力【未来予知】が、こんな形で覆されるとは)


 なんせ彼は、初代ペリメライド国の女王陛下であるフィオリーナの血を引いている。赤毛の魔女でもあったとされるフィオリーナの子孫であることは伏せられて、ペリメライド国とは縁戚の公爵ということだけが世間に伝えられていた。


 未来予知は彼に与えられた特殊な魔力であったが、今となっては本来起きるはずだった未来を虚しい気持ちで眺めるだけだ。


「公爵様……?」

「タイムリープの噂は常々、私の方でも気になっていたことだ。教会庁に連絡をして、本格的に調査できるように計らおう。もちろん、私も個人的に調査をしてみるよ」

「……! ありがとうございます。レオナルド公爵」


 繰り返しによる継ぎ接ぎのような時間軸は、少しずつ綻びを見せていた。そんな綻びが増えた三周目のタイムリープからは、他者が介入することだって出来るはずだ。


(そして、私は未来の恋人をこの手で救い出す……!)


 レオナルド公爵は、自分自身が本来手を差し伸べるべきだった未来の恋人ヒメリア・ルーインの無事を確認すべく、未知のタイムリープに挑むことを誓うのであった。


* 次回更新は2023年04月中旬以降を予定しております。

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* 2024年04月28日、第二部前日譚『赤い月の魔女達』更新。 小説家になろう 勝手にランキング  i984504
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