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クルスペーラ王太子の花嫁候補は、最終的にヒメリアとフィオナの二人に絞られた。花嫁候補会に所属した当初はまだ幼かった二人だが、十七歳になる頃には誰もが振り向く美女になっていた。
花嫁候補会の役員を務める王宮関係者が、ヒメリアとフィオナに関する書類を机に置いて、最終的な話し合いを行っていく。とはいえ、どちらでも良いとの意見が多く、クルスペーラ王太子自らが最終決断をすることになった。
『それにしても、ヒメリア嬢もフィオナ状も随分と美しく成長しましたな。ヒメリア嬢なんかは、幼い頃は少々田舎っぽさがあったのに洗練された容姿で、まるで聖女が再臨したようだ。メイクの品の良さもさることながら、言葉遣いや声色も優しく慈愛に溢れている』
『いやいや、ヒメリアが美しいのは幼い頃からですよ。教会で祈りを捧げる姿は聖母マリアの生写しのように輝いていましたから。もしヒメリアがこの国の王妃になってくれたら、神の守りが島に訪れるでしょう』
『フィオナ嬢なんかは、ネイルアートや今時のメイクなどを駆使して、大陸の美女といった感じの垢抜けた風貌に成長して驚きました。十歳以降の育ちはこの島なのに、やっぱり大陸出身者はそれなりにオシャレをするようになるんだと実感します』
『赤毛の魔女の生まれ変わりなんて、揶揄する輩もいますが。美しく成長するのが分かっていて、嫉妬していたんでしょうね。魔女かどうかはともかくとして、王妃になるのに相応しい女性に成長したのは確かだ』
例えフィオナが魔女の末裔だと反対する者がいても、赤毛の魔女を信仰する魔術師達は、是非フィオナを王妃にと必死になっていた。だが、ヒメリアにも前世の因果を解消するための団体が密かについており、双方考えを譲らないまま結婚相手を決める日がやって来た。
一方で有力候補者だと思われていたカシスは、王太子との関係が自然消滅するといつの間にか消息を絶ち、行方不明となっていた。他の御令嬢達は、大陸へ移動する者、他の貴族と婚姻する者などそれぞれだ。
『まぁ、どちらが花嫁に選ばれても誰も文句は言いますまい。かつては行方知れずになったカシス嬢を惜しむ声もありましたが、今のヒメリアやフィオナの美しさにカシス嬢では敵わなかったでしょう』
『まぁ、敢えて言うならば。夜のテクニックは、ウブなヒメリア嬢やフィオナ嬢よりもカシス嬢の方が上なのでしょうが。娼婦まがいのことをしていた挙句、行方不明ではね……』
『他の御令嬢達も自分の道を歩んでいますし、遠慮する相手はいない。クルスペーラ王太子は、二人のうちのどちらを選んでも幸せになるはずだ。この王妃の冠を被るのは果たしてどちらになるのか……』
決断の方法は、ヒメリアとフィオナの二人のうちどちらか妻にしたい方に、幻のダイヤモンドを嵌めた王妃の冠を被せると言うものだった。
大陸では女性の前に跪いて、指輪を贈るなどの方法もあるらしいが、この島の王家では冠でプロポーズを行うのが習慣だ。
かつて、花嫁候補の中で二者択一になると思われていたカシスとレイチェル、その仲を壊した因縁深い幻のダイヤモンドを嵌めた冠。
次に仲違いをするのはヒメリアとフィオナだと言わんばかりに、王宮の台座でその時を待つダイヤモンドがキラリと輝いた。
* * *
ヒメリアとフィオナは親友と言っても良いほど、仲が良かった。少なくとも王妃を選ぶ冠の儀式の日までは親友だった。
揉め事が減って良かったとされていた二人きりの花嫁候補会だが、二者択一でどちらかが切られるという難点を作ってしまう。
運命の日の前日、ヒメリアとフィオナは幼い頃から共に学んだ教会で、最後のお祈りを捧げていた。大きな十字架と白いマリア像、見慣れた光景なのに今日は審判を受けているかのような気持ちだ。
「ねぇ、ヒメリア。貴女はもし、私が王妃に選ばれたら私のことを恨む、嫌いになる?」
「まさか、二分の一でどちらかに決まる花嫁候補なのに、恨むはずないでしょう。最初から、覚悟しているわ。もしフィオナが花嫁に選ばれた場合は、家のことを手伝ってそのうち大陸へと渡ってみたいわね」
「そう……。ヒメリアには、花嫁にならなかった場合のプランがあるんだ。あのね、ヒメリア。私は、花嫁になれなかったら、帰る場所がないの。大陸は私を花嫁にならなければ不用品だと思っているから。けど、貴女は居場所がある。だから、私は貴女が選ばれたら恨んでしまうかも知れない。赤毛の魔女になってしまうかも知れない」
「……!」
俯いて涙を流しながら懺悔のように告げるフィオナに、ヒメリアは言葉を失ってしまう。フィオナは快活なイメージがあり、涙を流して懺悔するような子ではなかった。
しかし、タイムリープする前の【フィオ】は、大人しくて気が弱い雰囲気を漂わせた子だったはずだ。フィオであってもフィオナであっても、本質は実に似ていてほぼ同じだったのだろうが、ヒメリアはそこを見落としていた。
なにぶん、タイムリープした頃は年齢が幼かったため、ヒメリアはいつしか一周目の記憶をただの夢だと思うようになっていく。だから、【フィオ】のことは記憶にあまりなく、ヒメリアの親友はフィオナだけだった。
「変なことを言って、ごめんね。私、何があってもヒメリアのこと恨まない。大丈夫だから」
「フィオナ……」
* * *
現実は残酷だった。
花嫁に選ばれたのは、ヒメリア・ルーインだ。
選ばれなかったフィオナは儀式前日の言葉通り、ヒメリアを恨まないようにした。だが、赤毛の魔女を復活させた大陸出身の魔導師集団はそうではなかった。フィオナのこともヒメリアのことも恨み、二人の仲を壊すことを目論む。
『何故だっ! 何故、フィオナは花嫁になれなかった! 赤毛の魔女を復活させたのに』
『魔女になるには、彼女は純粋過ぎた。魔女は魔女狩りされてこそ魔女になる。来世こそ、彼女は魔女にならなくてはならない!』
『捕らえろっ! そして、闇の儀式を魔女の末裔たる王宮の者達にも見せつけるのだっ。あの憎き次期王妃ヒメリアにもなっ』
『いやぁっ。やめてぇ。離して……誰か助けてよぉ。王太子様ぁ、ヒメリアッ!』
八つ当たりとみせしめのために赤毛の魔女フィオナを捉えて、南国蚕のように釜で茹でて……公開しながら殺した。次期王妃になったはずのヒメリアは、フィオナが殺されるのを間近で見て発狂し、泣き叫んだ。
「フィオナッ! ごめんなさい、私があの時……貴女の言葉の意味を理解していればっ。ごめんなさいっ。フィオナぁあああっ」
狂乱の果てにヒメリアが意識を失うと、花嫁を決める冠の儀式の一年前に時が遡っていた。
* 次章は2023年03月中旬以降開始予定です。




