邂逅 3
「なあ貴様……」
感情の読めない表情を浮かべるアルヴィンの無骨な手が、ゆっくり持ち上がる。
得体のしれない予感にミラは足元がすくむ。
顔に近づくその手を眺めることしかできない。
その時、ノック音が割って入る。
「あの……アルヴィン殿下にご挨拶させてもらっていいかな? 俺達も」
開きっぱなしの扉をノックをしたのはロイドだった。
ロイドの後ろにはエルンストがいる。
「あ?」
ぱっと手を降ろしたアルヴィンは、振り向き、二人を目に留めた。
すぐさま、ノアがミラの肩に手を置く。
労るように肩を撫でる手の温もりに、ミラはほっと息を吐く。
自分は息をするも忘れていたらしい。
ロイドのおかげで助かった。
ロイドとエルンストはうやうやしく胸に手を当て、頭を下げる。
ほんの少しだけロイドの肩がぷるぷる震えているような。
「ご挨拶申し上げます、アルヴィン殿下。お会いでき光栄です」
「光栄です」
アルヴィンはふん、と鼻を鳴らす。
「ロイドと……」
「いやー、本日も、アルヴィン殿下がご機嫌麗しいようで安心しました!」
アルヴィンの声を遮るように、ロイドが妙にご機嫌な声で話しながらこちらへやって来る。
「ああッ!! 貴様エルンスト・アルドワだな!!」
すると、大声を上げたアルヴィンがわなわなと震えた指でエルンストの顔を指していた。
「はい。こんにちは、殿下」
対してエルンストは平然と答える。
目を吊り上げたアルヴィンの顔が、かっと真っ赤に染まる。
「き、貴様! もう一度俺様と勝負しろ!!!!」
「は?」
「おいっ! こいつを連れていけ!!」
そう側近に指示したアルヴィン。
エルンストはアルヴィンの側近に取り押さえられながら、扉を去っていく。
唖然と立ち尽くすミラの耳にエルンストの戸惑いの声が届く。
「……エルくん頑張れー」
しかし、ロイドは慣れた様子でエルンストの背中に小声でエールを送る。
ノアなんかは止めようともしない。
それどころか扉に駆け寄り、従者のように頭を下げて一行を見送り、無言で扉をそっと閉めた。
(……エル兄、ノア様にも裏切られた……)
「……これで静かになりましたわね。ミラ様」
のんびりとしたエリカの声に、はっと我に返り、あることに気がついてしまう。
(ロイドさんにクワン語聞かれてないよね?! )
振り仰ぐと、ちょうどロイドと視線がバチッとかち合う。
そして、こちらを向くペリドットの瞳がゆーっくりと弧を描いた。
「良かったねぇ、さっさと帰ってママとお勉強してくれるよー」
「?!」
ミラはカッと顔が熱を持つ。
(イキった場面見られてたー?! )
「それは良かったです……」
もうそれしか言えない。
きょとんと目を瞬くエリカやノアを見てしまい、さらに居たたまれない。
「あははっ! ほーんとノアは優秀なメイドさん持ったよねー」
お腹を押さえるロイドの至極楽しげな声が耳に痛い。
しばらくの間ミラはもう誰の顔も見られなかった。




