邂逅 2
2026年もよろしくお願いします!
「エリカ、ノア黙れ。おい顔を上げろ」
エリカの腕をそっと手で外すアルヴィンが顎をしゃくる。
空気が一層重くなる。
ノアがぴくっと指先をこわばらせた。
この自分がノアの負担になるなんて、許されない。
ミラはふ、と息を小さく吐く。唇を孤に象った。
「お初にお目にかかります。先程ラスフィ公子よりご紹介の通り、オーキッド家長女、ミラ・オーキッドでございます」
聞き取りやすい、抑えた声。目元は緩み、口元の角度さえ計算した礼。
セルゲイの教えを余すことなく盛り込んだ、ラスフィ公爵家お墨付きの挨拶だ。
顔を上げたミラは堂々とアルヴィンの姿を認めた。
短い金髪は輝かしく、サファイアを思わせる透明な青い瞳をしていた。
精悍な顔立ちは、長身で逞しい体にとても似合う、とんでもない美形だ。
(でもノア様のほうが美しいですね! )
毎日ノアを近く見てきたミラには美形男性に耐性があり過ぎた。
考えるように顎を撫でたアルヴィンが、突然思い出したようにミラを指差した。
「知っているぞ……お前がノアを初めて打ち負かした小娘か!」
「はい?」
「そうだ。お前のほうが小さいのにノアと同じ成績ならば、お前のほうが頭が良く、ノアは負けたってことだろう」
思いの外低い声が出た。
しかし意地でも口元の笑みは絶やさない。
(ノア様が私なんかに負けるわけがないんですが?? )
ふつふつと怒りがこみ上げると同時に、アルヴィンの好感度が地の底に落ちる。
「ノアお前。こんなちんちくりんに負けたのか」
アルヴィンは腹を抱えてミラを指差し笑う。
己を罵るのは構わないが、ミラを火種にして、ノアを落とすのは気に食わない。
(これ以上お口がすぎると、飴投げつけるぞ、おい)
「やはりノアなんか大したことないな」
アルヴィンが嘲笑った瞬間、ミラの心の中で、何かがプツンと切れた音がした。
「アルヴィン殿下のような方にお見知りいただき光栄です。ですが、私ごときが『氷の貴公子』である“ノア・ラスフィ公子”には到底及びませんよ。ラスフィ公子は医療改革から農業拡大など多岐にわたる実績をお持ちの方と比べることもおこがましい。ただの語学だけが取り柄の小娘です」
ミラは、表情を一切変えず朗々と一息で言い切った。
ちんちくりんに言い返されると思っていなかっただろうアルヴィンが言葉に詰まる。
1歩前に出たミラは、アルヴィンの視線が自分に固定されているのを確認する。
「例えば……」
ミラは眼鏡のブリッジを人差し指で押さえる。
それから、サファイアの瞳を鋭く見据え、ゆっくりと口を動かした。
『おこちゃまは癇癪起こす前に、さっさとお家に帰ってママとお勉強してください』
ホールにはミラの流暢なクワン語だけが鮮明に響く。
残響が室内にゆっくりと吸い込まれるように消えていく。
その間、眉を寄せたアルヴィンにじっくりと見つめられるが、ミラは笑みを崩さない。
笑顔はこれ以上ないほど完璧に顔に張り付かせている。
けれど、レンズの奥に滾るような憤怒を瞳にぎらぎら揺らめかせていた。
(わかるはずがないよね。ロイドさんに東国言語の通訳を押し付けていたんだから)
「なに……を」
低く唸るアルヴィンがこめかみをぴくりとさせた。
ミラはにーっこり笑みを深め、口元に手をあてながら、首を傾げる。
「すみません。アルヴィン殿下にとっては簡単でしたよね。東国言語で『泰然自若』とアルヴィン殿下のような方をいう慣用句を申しました……よね?」
じろりとミラがアルヴィンに視線を送る。
アルヴィンの瞳が一瞬泳ぐ。
だが、ミラやノアの視線にごほんと大げさな咳払いをし、鷹揚に頷いた。
「まあな! 俺様は東国言語も得意だからな」
「さすがアルヴィン殿下ですね!」
間髪入れずにミラは両手を叩き、褒めそやす。
何人たりとも、この会話に加わらせない、と。
「ふん、当然だ!」
ミラはつい小さく鼻で嗤ってしまい、口端がピクつく。
(まあ、これぐらいにしといてあげようかな)
本心では、我がご主人様の魅力を小一時間ほどさわりを説きたいところだ。
容姿やセンス、知識量やこれまでの実績など。
それをしてしまうと勝てるところがないアルヴィンが可哀想だ。
ミラが不遜な思いを抱いたところ、アルヴィンは何かに気がついたようにぱっと表情を変えた。
彼の視線はゆっくりと、ミラの顔の上から下までをねっとりとなぞるように動く。
絡みつくような眼差しに、ミラはぞわり肌が粟立った。
ごくりとアルヴィンが喉を鳴らす。
「なあ貴様……」
「さすがミラ!」
「アルヴィン無様!」
「今後どうなるの?!」
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