邂逅 1
「おい。ここでエリカが練習していると聞いたがあいつらは誰だ?」
不躾な声がホールに反響した。
聞き覚えのある声に、皆が席を一斉に立ち、頭を下げる。
ノアやエリカでさえ頭を下げなければならない人物など、この学院でひとりしかいない。
(アルヴィン殿下がなんでここに? いやでも王族専用だからいいのか?! )
動揺しきったミラは横に置いた手を握りしめる。
「なあ、ノア。なぜだ?」
ぐるーりとホールを見渡したアルヴィンが、つかつかと靴音を鳴らす。
側近の生徒3人を引き連れながらノアの前までやってきた。
矛先を向けられたノアが顔を上げる。
「すみません、アルヴィン兄さん。私の友人も誘いエリカと練習していたんですよ。ほら、私たちは舞踏会が初めてなので、ね」
にこ、ときれいに微笑むノアは、さり気なくアルヴィンとミラの間に立つ。ミラをかばうように。
「そうなんです。私たち不安でして……いざ舞踏会でアルヴィン兄様に恥をかかせるわけにもいきませんから」
ほがらかな口調でエリカは答え、なぜかノアの隣に立ち、彼女もミラを隠す。
「そうか。お前たちは初めてだからな。練習が必要か」
くくっと笑うアルヴィンの機嫌は回復したようだ。
(本当はノア様もエリカ様も練習しなくても良いくらいダンス上手だけど……)
ミラは二人が過剰に思えるくらいアルヴィンを持ち上げる態度に居心地が悪い。
常識的に考えれば王族にわざわざ喧嘩をふっかけることはしない。
エルンストのあの所業の恐ろしさを今さらながらに実感する。
(アレも大事にもなっていなから……ノア様がなにかしたんだろうな)
アルヴィンと笑いながら会話をするノアの背中を目で見上げる。
いつもより強張ってみえる背中だ。そんな心の内を隠し、会話に応じるノアの胆力に尊敬の念が湧き上がる。
我がご主人様は誰にでも、いつだって優しい、最高なのだ。
ついミラは頬を緩ませた。
だが、アルヴィンの何気ない声に一瞬で空気が張り詰める。
「ん? そこにいるのはなんだ?」
ミラからはノアの肩に手をかけるアルヴィンの大きな手が見える。
まさか自分に気づかれた。
やましいことはないが、このまま彼には去っていってほしかった。
汗が滲む手を握り、ミラは覚悟を決める。
だが、何故かノアが動こうともしない。
アルヴィンが押しても引いてもびくともしないようだ。
「大丈夫ですよ。はは。アルヴィン兄さんのダンスがみたいな」
「そうですわね。アルヴィン兄様の独特のステップは決して真似できませんから……」
ミラは瞬きしかできない。
エリカも便乗したように、壁のようにミラの前にたち、ミラをひた隠そうとする。
「おい。どけ……ノア、エリカ」
焦れたようなアルヴィンの低い声。
ノアとエリカは数秒沈黙する。
ややあって観念したように、ノアとエリカがミラの横に立つ。
「おい。貴様の名を名乗れ」




