不躾な訪問者
通算3回目のダンス練習日。
今日もシャンデリアが眩しい王族専用ホールにミラはいた。
そして今回からは、新メンバーが加わることとなった。
小柄なリオンとミラでは頭半分ほど身長差がありすぎ、同じ身長の女子生徒をリードする練習もしたかったのだ。
初心者リオンだからこそミラとの練習で変なクセをつけないように。
そこで前回の練習時に協力を願い出たエリカにリオンの練習相手を頼むことになった。
だが、なぜかノアの様子がおかしい。
「あの……今日はミラ様のために当家自慢のチーズケーキをお持ちしました」
「ふん。ミラとお茶させるために参加を許したわけじゃないんだが?」
「うちのメリッサがきちんとあの生徒のダンスを鍛えますわ。ですので、ミラ様はゆっくりお過ごしください」
「おい。無視して……」
「っエリカ様。ダンス練習に協力してくださりありがとうございます!」
エリカがミラに話しかけると、ミラが答える前にノアが答えてしまう。
エリカとノアの間のやたら刺々しい言葉の応酬に、小心者のミラはひやひやする。
(それだけ遠慮がいらない仲ってことなのかな……この2人は)
ホールではメリッサにリオンが注意を受けながらダンスを踊っていた。
身長差もちょうど良く、メリッサもリオンの顔が好みなのかまんざらでもない様子で、お似合いだ。
ダンス練習の必要がないメンバーには、ミラがお茶を給仕する。メリッサには腕前が及ばないが。
ちなみにエリカが止めようとしたが固辞した。
ご主人様を前にし、体が勝手に動くのは仕方がない。
「メリッサってお前のメイドだろ? わざわざ学院に連れてくるなんてグラジール公爵も過保護だな」
カップに口をつけたノアが、ホールで踊る2人を見つつ言った。
さりげなく「美味しいよ、ミラ」とお礼を伝えてくれた主人にミラも会釈を返す。
「黙りなさいノア。あなたの声でミラ様手ずからの紅茶がまずくなるわ」
エリカがいつものようにノアに言い返す。
ノアはなぜかミラに優しく声をかける。
「ミラのお茶はなにをしても美味しいから大丈夫だよ」
「え? ありがとうございます?」
自分用にお茶を注いでいたミラは愛想笑いしかできない。
そそくさと席に腰を落ち着けると、レアチーズケーキの載った皿が眼前に置かれた。
「ぜひ当家自慢のチーズケーキ召し上がってください」
エリカが置いてくれたようだ。瑞々しいミントの葉が映える真っ白なケーキ。
(レアチーズケーキは高級品だからめったに食べられない)
まずもってレアチーズケーキの調理に必須な冷蔵庫自体が、魔導具であり、とんでもなく高級品なのだ。
冷蔵庫1台で平民家族を数年余裕で養えるくらい。
余談だが、もちろんラスフィ公爵家にはある。2台も。
じっと期待の眼差しを向けられ、ミラはおずおずとそのケーキに手を伸ばす。
「美味しい。あの……濃厚なチーズのコクがレモンの酸味と合います」
「まあ! 気に入っていただけたのですね! ぜひ当家主催のお茶会に招待させてください!」
「こいつの家のお茶会なんて見栄の張り合いだよ。面白くないよ」
「だからといって、他家のお茶会でハンカチの刺繍し始めたあなたに言われたくないですわ!」
2人の言い合いに、ミラはそっとフォークを置いた。
むう、と尖ってしまう口元を隠すように、カップを口へ寄せる。
(ノア様がハンカチに刺繍する趣味を知っているんだ。エリカ様は)
ミラの誕生日にプレゼントされたハンカチは誰も自分以外の女性は知らないと思っていた。
男性で刺繍することは珍しい。
ましてやノアはそのプレゼント以降刺繍に傾倒し、ほぼ毎月ミラにお手製刺繍ハンカチを贈る。
腕前が上達しすぎであり、大量にいたただくため、仕舞いこむのも気が引ける。
そのため毎日ノアのハンカチ各種を必ず持ち歩いている。
「俺にとってはお茶会より、そのハンカチがなにより大切なんだよ」
柔らかい笑顔でしみじみノアはつぶやいた。
麗しい笑顔に控えた従者が見惚れている。
「なによ。いきなり……そんな顔しだして……不気味ね」
エリカがお化けでもみたような顔で、両腕をさする。
「あ、そうだ。ねえ、ミラ?」
呼びかけられたミラが顔を上げたその時。
「おい。ここでエリカが練習していると聞いたがあいつらは誰だ?」
不躾な声がホールに反響した。




