新旧サポキャお茶会
「案外ロイドくんって意地悪いんだねー。ミラちゃん死にそうなお顔してたよ」
3個目のケーキを口に運んだリオンが向かいに座るロイドにケロッと話しかけた。
食い入るように見つめる、ミラとノアが踊るホールから視線を剥がしたロイドは肩を竦める。
「あのね。こっちだってなりふりかまってられないし」
長い足をお持て余すように足を組み替えたロイドが、笑みを消し、頬杖をつく。
「これでくっつくなら、……諦められるでしょ」
ロイドは力なく呟くと、テーブルに視線を落とした。声は震えていた。
目を見張ったリオンがもぐもぐと口の中のものを飲み込む。
考えるように数拍間天井に目を投げると、そっとフォークをテーブルに置いた。
「あのね、ロイドって記憶力抜群で、本好きで知識も豊富なのはさ、BLゲームでサポキャだった名残なの」
「は? びーえる?」
顔を上げたロイドは眉をしかめる。
「こっちだと薔薇っていうよ。僕が主人公の薔薇のゲームもこの世界の1つなの。それで、ロイドは薔薇ゲームのお助けキャラ。僕みたいに主人公が攻略対象と恋に落ちるように、色んな手助けをする役割だよ」
「薔薇のゲームも……あったのか」
あんぐりと口を開けたロイドにリオンは諭すような声を出す。
「でも、ミラちゃんのゲームでは、ヒロインと恋に落ちる役割の攻略対象に変わったの」
「…………えっと?」
理解力お化けのロイドだが、リオンの意図が理解できない。
怒涛のように暴露されたこの世界の真実故に。リオンが主人公の薔薇ゲームは知りたくなかった。
同時に、頭の片隅でミラがあれだけ薔薇に興味を示した理由を知れた喜びも感じていた。
「んもう! だから君はミラちゃんと恋に落ちて良いって選ばれた。この世界に応援されているってこと!!」
「応援……されている?」
「そ、だからさ。諦めないでよ……最後までさ」
リオンが上目遣いで口を尖らせた。
小さな桃色の唇を尖らせ、潤んだ大きな瞳は、確かに庇護翼をそそる。
ロイドはリオンが薔薇ゲームの主人公だった事実に妙に納得した。
それでも。
「あのね……あの2人見た? 勝ち目なんかない」
ロイドは促すようにホールへ顎をしゃくる。
リオンも訝し気な顔をしながら、目を向けた。
ホールのど真ん中。ミラとノアが二人だけの世界を創り上げていた。
「あらら……。お姫様と王子様みたい」
甘ったるく微笑むノアと、はにかみながら彼を見つめるミラは、お互いのことしか見えていない。
だが、そんな甘い雰囲気を醸し出しながら、息のあった美しくも力強いステップを確かに刻む。
華麗なスカートの広がり、姿勢のしなやかさ、ステップなどすべてを調和させ、非の打ち所のないダンスを踊っている。
一目で見るものを魅了するダンスだ。
先程までミラと踊れず悔しがっていたエリカでさえ言葉を失っている。
大人と子供ほどの身長差のある歪な2人のダンスを一心に見つめていた。
「俺と踊ってもああはならないでしょ……」
ロイドにしては珍しくいじけたことを言う。ほぼ言い訳にしか聞こえないが。
確かに、という同意は呑み込み、湿っぽい雰囲気を払拭すべくリオンは話を変えようと切り出した。
「いや、その……ノアくんは舞踏会誘ってもいないヘタレじゃんか……」
言っている途中で気がついてしまう。目の前に座るロイドも誘ってもいない。たぶん。
「ぐっ、わざと? それ……」
椅子の背に載せた腕に顔を埋めるロイド。
ロイドの背中が小さく見えて、リオンは二の句が継げない。
「あー、その……」
背中に嫌な汗をかきながら、おろおろと言葉を探す。
すると、ミラばかり見つめていたノアがこちらに顔を向けた。
無表情かつ明確な殺意をにじませた瞳で。
「こわ……え? ……ついに殺されるの僕ら?」
リオンの背中にぞくりと今度は違う意味で汗が伝う。
「ミラちゃんを俺達と踊らせたくないから……威嚇してるんじゃない?」
ノアの行動に呆れたロイドの指摘にリオンは思わず顔がひきつる。
「これにミラちゃん気がついてないの?! うそ?!」
顔に「ミラを見るな!」と書いたノアを見やるロイドがぽそっと呟く。
「鈍いのも可愛いんだけど……2人は似た者同士なんだよ」
しれっと惚気ながら、哀愁漂うロイドの横顔は色気が滴る。
そばに控える従者が息を呑むのを目に留めてしまう。
お色気テロはもうやめていただきたい。
「なるほど。ロイドくん、ケーキ食べる?」
あとは、感情迷子の恋する少年の相手はめんどくさい。
サポキャにも忍耐の限界がある。
「……ガトーショコラなら食べられる」
返事があったことに安堵し、リオンはロイドとお茶をしばいた。




