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神はケモノに×される  作者: あおうま
第三章 ゆれるココロ
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第三二七話 卯とハートカズラ

 

◇◇◇

 

 教室から廊下に出ると、窓の向こう側を夜の暗さが覆っている。

 いくら時期的に日が落ちるのが早いとはいっても、この教室まで来た時にはこんなに外は真っ暗じゃなかったわけだし。

 寝こけて無駄にしてしまった時間の経過を実感しなおしちゃって、なんかまた胸の中に錘が落ちたような重さがのしかかったような心地になる。

 視線を右に向けると白熊(しろくま)先輩は近くの階段の前で待ってくれていたから、上履きでパタパタと音を鳴らしながら、ウチも足早に先輩の元へと向かった。

 今いるとこから向かうには、校舎の最上階に位置する生徒会室にたどり着くためにひとまず階段をのぼり続けるしかない。

 えっちらおっちらと階段をのぼりながら、後ろに続く足音に振り返ると、そこにいたのは申輪(さるわ)さんと委員長だけだった。

「あれ? 神さんは……」

「あぁ、さきに帰ってもらったわ。いくら寮が近いとっていっても、外まっくらだし」

 いつの間にやら神さんの姿が見えなくなっていた理由も、委員長のごもっともなお言葉の通りで、なるほどってな感じでスンナリ納得することができた。

 ウチだって、神さんにこれ以上迷惑をかけるべきじゃないでしょってことはわかってる。あんま帰りが遅くなんのも危ないかもだし。

 そういうのも、ちゃんとわかってはいるのだけれど……。

「ほかの子たちに混じって帰った方が安全だもんなー。てか委員長も大丈夫だぞ」

「そう? でもまぁ生徒会室までは一応ついていこうかな。私が必要なさそうなら、そのときは先に帰らせてもらうわね」

 後ろを歩く二人のそんな会話を耳に入れつつも、どうしても胸の中にひっかかるのは神さんのことで。

 お別れする前にお礼とかお詫びとか、何かしらの気持ちは伝えておきたかったなぁ、なんて心残りを感じながら。

 ウチら四人は列をなして、校舎の頂に居を構える生徒会室に向けて一段一段、残りの段数を減らしていったのだった。

 

◇◇◇

 

 最上階まで登り終えると、すぐ近くに見える生徒会室のドアは開けっぱなしの状態だった。

 廊下から部屋の中を確認すると、連日お世話になっていたお店のカウンターのような応接台の前に、ほかのクラスの子たちがすでに何人かいて。

 生徒会役員の人に対応してもらいながら、書類とかの提出を行なっているみたいなんだけど。

 その子たちのとなりの空いているスペースに白熊先輩が歩いていったので、思わずゴクリと唾液を飲み込みながらも、ウチもその隣に足を進めた。

 提出期限までに書類の完成が間に合わなかったのだから、今からそこそこ……いや、けっこう怒られるかもしれない。

 そんな覚悟をしつつ、身体や表情はどうしても強張ってしまったのだけど、それも自分の責任なのだから仕方がない。

 どんな言い訳をするよりもひたすらに謝罪して許してもらうのが、せめてもの誠実な償い方なんだろうなとか。

 いろいろと頭の中でグチャグチャと考えていると、すぐに生徒会長さんがウチらの対応をするためにやってきてくれた。

「白熊さん、今日までお疲れさま。とうとう明日だね」

竹雀(たけすずめ)さんもおつかれさまー。あっという間に前日になっちゃったよ」

「あっ、あの……!」

 先輩同士で軽い挨拶を交わすのを見届けたあとで、急く気持ちのまま横から割り込むようにウチの口から声が出ていって。

 生徒会長さんの視線がウチに向かったけれど、まっすぐ見つめ合うことから逃げるように、空気を縦にわるような勢いで深く頭をさげた。

「ごめんなさい! 書類とか、ウチのせいで間に合ってないのがたくさんあって! あの……」

 一瞬だけ目があった生徒会長さんは、まだ穏やかな表情を浮かべていたけれど、いまは下げた頭の先で表情を曇らせているかもしれない。

 もしくは怒らせちゃったせいで険しい表情をしてるかも……とか、そんなことを想像してしまい。

 続けようとした言葉の候補も『ごめんなさい』とか『すいません』とか、謝罪の言葉で埋め尽くされちゃったのだけども……。

「そうか。とりあえず、それぞれ見せてもらっていいかな?」

 耳に届いた声には、予想していたよりも怒気とか苛立ちみたいな感情が滲んでいるようには聞こえなくて。

 ソロソロと顔を上げた先で、生徒会長さんはとくに怒っている様子もなく、むしろ軽く微笑んでいるようにも見える表情をしていたのだった。

「あっ、は、はい! えっと、ちょっと待ってください!」

 抱えていたクリアファイルをカウンターの上に置かせてもらって、その中から目当ての書類のいくつかを探し出そうとはしたものの。

 さっき教室で一度、お金を探すために中の書類を机の上にぶちまけてたせいで、順番とかもバラバラになっちゃってるし。

 しかもまだ緊張が解けていないせいもあってか、慌てながらガサゴソと時間をかけながら書類を漁ることになっちゃったんだけど。

 隣にいた白熊先輩がすぐに手伝ってくれて、メッチャ要領の悪かったウチのフォローをしながら、提出しなきゃいけない書類を次々に生徒会長さんに渡していってくれた。

「ふむふむ……なるほどね」

 ひと通り、提出しなきゃいけない書類は見つけ出すことができただろうか。

 手元に移った何枚もの紙の束をパッパと素早く確認している生徒会長さんの表情と、そしてじきに返ってくるであろう反応をドキドキしながら見守った。

 探したり渡したりしながら思ったけれど、やっぱり未完の書類がけっこうあったし……。

 丁寧に丁寧にって意識しながら書いたはずの文字にも、整えようと思った文章の見栄えも、あらためて見返してみるとどうにも自信がない。

 ウチがつくった書類、やっぱ読みにくかったりしちゃってるんだろうな……生徒会長さんも内心、そんな不満を抱いちゃってるかもしれない。

 書類の確認を待ってる間のほんのわずかな時間でも、そんな風に気持ちがネガティブな方向に舵をとって向かっていこうとしていたのだけど……。

「うん。よく書けているね。ありがとう」

 一言目に聞こえてきた返事は、どう解釈しようとも怒られているような意味合いなんてぜんぜん含んでいないようなもので。

 身構えていたウチからしてみれば、まさに呆気に取られる的な表現がピッタリなくらいに戸惑ってしまった。

「えっ、でも、書き終わってないのがいくつも……」

「あぁ。こっちの報告書と準備資料は学園祭が終わってからでも大丈夫だよ。来週中に提出してくれれば嬉しいね」

「間に合わなくてごめんね。了解でーす」

 期限までに全部の提出を間に合わせなきゃ怒られるって、そう思い込んでいたせいか困惑しちゃってたんだけど。

 そんな様子なのもウチだけで、生徒会長さんも白熊先輩もなにやら穏やかに話を進めていっているし。

「あの……今日の最終下校時刻が締切だと思ってて、だから間に合わないと怒られちゃうかもって……」

「あはは、怒ったりなんかはしないさ」

 なんか言えちゃいそうな雰囲気だったし、内心で思っていた不安を吐き出してみちゃったりしても。

 生徒会長さんは笑い飛ばしながら否定したもんだから、ここ数時間でハラハラと焦りまくちゃったのは何だったんだってくらいに、なにやらアッサリと不安が解消されてしまったのだった。

「そりゃ期限までに提出してくれればありがたいけど」

「あ、やっぱそうですよね。ごめんなさい……」

「まぁでも、そんなに気にすることはないさ。提出書類だからどうしても期限を設ける必要はあるけれど、行事委員のみんなにはほかにも多くの作業を進めてもらっていた事情は理解しているからね」

 一気に力が抜けてったウチの肩に、白熊先輩が『大丈夫だったっしょ?』みたいにポンポンっと手を置いたのだけど。

 なるほど確かに、さっき教室で先輩に言われた『大丈夫』って言葉は気休めとかの類ではなく、本当に間に合わなくても問題ないって意味だったのだろう。

 そこまで理解が及んだ途端、ウチの口からは自然と長いため息が出ていって、ようやく久方ぶりにまともに呼吸ができるような心地になったのだった。

 よかった……なんか、なんとかなったみたいでマジで良かったぁ。

 お金もなくしてなかったし、書類の作成が終わらなかったせいで生徒会の人に怒られることも、みんなに迷惑かけることもないみたいだし……。

 ちょっと大袈裟かもだけど、『生きた心地』ってやつはこういう気分を言うのか、なんて。

 そんなことを呑気に考えられるようになっただけでもずいぶんな心境の変化である。マジで安心したってなもんだよ。はぁ。

「でも入出金の明細と、あとは当日分の作業報告書か。これだけは申し訳ないけど書き終えていってもらおうかな。梅ちゃん、任せていいかい――」

 ただまぁ、あとは寮に帰って一安心しながらとっととお休み、とまでは流石にはいかないらしく。

 今日中に提出しなきゃいけないものは、そりゃちゃんと終わらせる必要があるみたいってことなので……。

 せめてそれくらいの責任は取らせてくださいって、一緒に来てくれていたほかのみんなには先に帰ってもらった上で。

 ウチだけは生徒会室のスペースを借りて、学園祭の準備期間で最後の作業として、ちょっとだけ残業していくことになったのだった。


◇◇◇

 

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