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神はケモノに×される  作者: あおうま
第三章 ゆれるココロ
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第三二二話 申とミムラス

 

◇◇◇

 

 行事委員としての学園祭前最後の打ち合わせが二十分くらいで終わって、委員のほかの子たちが和気藹々とおしゃべりとか、自分の仕事に戻るための支度を始めるなか。

 この教室に到着したタイミングがバラバラだったせいで、離れた場所に座ることになっちゃってた卯月(うづき)さんに声をかけようと、そっちに視線を向けると……。

 ちょっと気を抜いて周りを見渡していた隙に、卯月さんが座っていたはずの席はもぬけの殻となっていた。

 わたしたちは行事委員の中でも担当している仕事が違うし、お互いに忙しくて今日はまだぜんぜん会話ができていなかったこともあり。

 作業の状況とか、あとは何か困っていることとかないかを確認するため、少しでも話をしたかったのだけど。

 慌てて教室のドアの方に目をやると、ほかの誰よりも早く、あっという間に退室していく卯月さんの背中が見えたのだった。

「わっと! う、卯月さん――」

「あっ、申輪(さるわ)ちゃん! 待ってまって!」

 とっさにその背中を追いかけようと立ちあがったのだけど、足を出す前に白熊(しろくま)先輩の声がわたしを引き留めた。

 白熊先輩は打ち合わせ中、卯月さんの近くに座っていたようで。

 さきほどそちらに目を向けたときにはイスに座ったままドアの方に視線を向けてたから、もしかしたらその時も、わたしと同じように卯月さんの背中を目で追っていたのかもしれない。

 白熊先輩はわたしを引き留めたあと……。

「ごめん。卯月さんを追いかけるのならこれ預けていい? さっき打ち合わせが始まる前に、入出金のダブルチェックの引き継ぎをしてたんだけど」

 すぐそばまで歩いてきて、申し訳なさそうに眉根を下げてそう言いながらわたしに封筒を差し出した。

「書類だけ渡して説明してたら、すぐに打ち合わせが始まっちゃったからお金だけ渡せてなくて……私もこのあと生徒会との打ち合わせが入っちゃってるから、お願いしていい?」

「はい! りょうかいです!」

「ごめんね。ありがとう」

 中で硬貨が揺れる封筒を預かりながら、そんな頼まれごとを引き受けて。

 わたしは卯月さんが出て行ったドアにあらためて足を向けたのだけど、廊下にでてみても、卯月さんの姿は右にも左にもどこに見つけることはできなかった。

 卯月さんは生徒会への提出書類とか配布資料の作成とか、そういう事務的な作業をずっと担当していて。

 わたしとは任されてるぜんぜん仕事が違うし、このあとの予定とかも把握してないから、どこに向かったのかもわかんない。

 それにわたしも、この後もけっこう学園中をウロチョロすることになるから……どうしよ。

 お金が入った封筒を持ったままアチコチ移動してる途中で、落としたり無くしたりするのも怖いしなぁ。

 そういう心配もあって、この封筒の扱いにちょっと悩んだものの……。

 すぐに適切であろう対応を思いついたので、わたしはひとまず、いつも生活している自分のクラス教室へと足を向けた。

 休憩所で使用することになってる教室では、学園祭当日のための会場設営とかって準備や、今日なんかはとくにリハーサルが行われることもあるし。

 そことは別に、わたしたちのクラス教室が事務的な作業をする場所として使われているのだけれども。

 卯月さんはそこで書き仕事をしていることがよくあるし、もしいなくても、ほかの人にお金を渡して伝言してもらえばいい。

 このままお金を持ち歩くリスクとか、けっきょく卯月さんに会えなくてお金を渡せない可能性とか。

 よくない事態を回避できるもっとも確実な方法だと思うし、たぶんそういう対応が一番正解な気もする。

 そうして結論づけて、わたしは少し早足で目的地を目指して足を進めた。

 でもやっぱり卯月さんと、少しだけでも直接話はしたかったな。

 だって……最近の卯月さん、とくにさっき打ち合わせ中に目を向けたときに視界に映った卯月さんの表情は、とても疲れているように見えたから。

 体育祭のとき、ひとりで切羽詰まっちゃってたわたしのことを、卯月さんはずっと気遣ってくれていた。

 だから今度はわたしが、わたしの方から、卯月さんが困っているなら手伝ってあげたかったのだけれども。

 担当している仕事に精一杯だった今の自分の不甲斐なさを情けなく思いながら、わたしは賑やかな雰囲気にあふれる学園の廊下を歩いて行ったのだった。

 

◇◇◇

 

 今日は学園祭前日ということもあり、最終下校時刻がいつもよりも一時間遅くなっている。

 もう十一月だし、すでに窓の外は暗くなっているために、より明るさを感じられる電灯にてらされた廊下から教室に入ると。

 中では数人の女の子が、二時間くらい前に訪れたときと同じように書き物作業を頑張っていた。

「いいんちょー、お疲れさま! 卯月さん戻って来た!?」

「あっ、申輪さん! それがね……」

 吹奏楽部での最後の全体練習を終えて、教室で書き仕事をしてくれていたクラス委員長の辰峯たつみねさんに、さっきお金と伝言を預かってもらっていたこともあって声をかけたのだけど。

 ボールペンの動きを止めて書類から顔を上げた辰峯さんは、困ったような顔をわたしに向けてきた。

 話を聞くと、行事委員の打ち合わせのために教室を出てから、卯月さんは一度もここには顔を出していないらしい。

 だからもちろん、わたしがお金を預けるためにここにきた後も、戻ってきていないというわけで……。

「何度か連絡してみたんだけど……電話に出ないし、メッセージも既読にならなくて」

「わたしも連絡してみたけど同じだった! 何かあったのかな……」

 白熊先輩から頼まれたお金のこと、クラス教室でいいんちょーに預かってもらっていることは、卯月さんに向けてラインでメッセージを送っている。

 それだけじゃなくて、わたしもこの二時間で手が空いたときに何度か電話してみていたけど、返信はまったく届かずに音沙汰なしだった。

 わたしだけじゃなく、いいんちょーからの連絡にも返事がない。

 なんでもない普段だったら、卯月さんはすぐに返事をしてくれる性格なことを考えても、やっぱりどうにも不安を覚える状況でしかなくて……。

 最終下校時刻が昨日までより一時間長いといっても、それでも学園祭準備のために残された時間はあと一時間もないこととか、そういう仕事的な不安というよりも。

 音沙汰がないこと、そしてなにより……最近の卯月さんの様子が、何よりも不安をかき立ててきた。

 なにかトラブルがあったとか、なにか大変な目にあってしまっているんじゃないかとか。

 大切な友だちが。

 体育祭のときにわたしをたくさん気遣ってくれて、ヘマして足を捻ったわたしのために、クラスのみんなに助けを求めてくれた卯月さんが。

 なにか困っているんじゃないかって……それがとても、とてつもなく心配になってしまった。

「わ、わたし探してくる! 何かあったのかもだし……!」

 自分の仕事をほっぽり出すのは問題あるかもだけど、今日はずっとやらなきゃいけないことを片付けるために頑張ってきた。

 そのおかげもあって、卯月さんを探すために学園内をまわってくる余裕もある。

 そもそも残っていた重要な仕事があっても、あとで仕事が未完で怒られることになったとしても、探しに行こうと思ったかもしれない。

 心の底をゾワゾワと張いだした不安感に、居ても立っても居られなくなってしまって。

 慌てて振り返って教室のドアに向けて駆け出そうとした、そんなとき……。

 ポッケに入れてたスマホがブルっと震えて、画面を見ると……そこには『神さん』の名前が表示されていたのだった。

 

◆◆◆

 

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