第三二一話 申とクレソン
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待ちに待った学園祭が目と鼻の先……どころではなく、明日に迫った準備期間の最終日。
校舎の中でも外でも、まさにてんやわんやってくらいの忙しなさで、ここ最近では一番の賑やかな物音が至るところに広がっていた。
廊下を歩いているだけでも、余裕をもって穏やかに壁宣伝の仕上げをしている子たちがいる一方で。
そのすぐ隣では、壁宣伝の制作を明日に間に合わせるために、数人がかりで慌ただしく手を動かしていたり……。
教室の中を覗けば、みんなで机を囲んで、今日の最終下校時刻が締め切りであろう書類の作成にいそしんでいたりもして。
学園祭というビッグイベントを成功させるため、それぞれの現場で奮闘している様子がしきりに目に入った。
まぁ、例にもれずでわたしもやらなきゃいけない作業、まだいっぱいあるんだけどな……。
手元に視線を落とすと、文字がズラッとたくさん並んだ紙の束が、今日までに片付けてきた仕事やら今日これからしないといけないタスクやらを主張してるように目に飛び込んでくる。
そりゃもう疲れとりますぜって感じで、無意識のうちに首がクタッと曲がりそうになりつつも。
モチロン投げ出すわけにもいかないため、気合を入れ直して顔を上げると、偶然にも廊下の向こうから最近で見慣れた先輩が歩いてきているのを発見した。
「あっ! 黒亀先輩!」
「申輪ちゃん、お疲れ様」
「おつかれさまです! ちょうど良かった。これいま渡しちゃってもいいですか?」
手に持った紙の中から目当てのものをペラペラと探し出して差し出すと。
黒亀先輩はザッと書類の中身に目を通したあと、ニコリと笑ってから受け取ってくれた。
「確認してくれてありがとう。ちょうど回収しにまわっていたヤツだから助かるよ」
先輩に渡したのも行事委員の仕事に関係したやつで、生徒の保護者とかの来場予定者が何百人も載ってるリストが先日完成したんだけども。
抜け漏れがないように行事委員のみんなで手分けして最終確認する必要があって、わたしが担当として任されている分のリストだった。
「ほかの仕事は大丈夫そう? なにか困ってることとかないかな?」
「今のところはー……大丈夫です! 今から校庭のほう確認してきます!」
「そっか。ありがとね。チョコチョコ休みとったりして、無理しないでね」
「はい!」
お互いにこなさなきゃいけないタスクはまだあるし、そんな短い会話のみで一旦おわかれすることになったんだけども。
行事委員会のみんなで集まっての最後の打ち合わせが、あと一時間くらいしたら予定されているわけだし、そこで黒亀先輩とはまた顔を合わせることになるんだろうな。
とかなんとか、廊下の端でボーッと呆けて時間を無駄遣いしている暇もないため、わたしはまわりの子たちの奮闘ぶりを眺めながらもスタコラと校庭に向かったのだった。
◇◇◇
今日は放課後が始まってからすぐに、休憩所を行う教室で、一年生から三年生の担当クラス合同でリハーサルみたいなのが行われた。
まぁリハーサルなんて大袈裟な予定が名付けられていたけども、実際にすることといったら給仕の練習をそれぞれ一回くらいやってみようってだけなんだけども。
そんで、行事委員は他にもこのあといろいろと仕事があるわけだしってことで。
一番最初に優先して練習させてもらってから、そのあとすぐに教室から出て、各々の自分の仕事に向かったわけなのである。
だからきっと今もまだ、みんなで虎前さんたち衣装班が用意してくれたエプロンを身につけて、内装班の子たちが飾り付けとかしてくれた教室のなかで、本番に向けての練習をしていることだろう。
部活の方の出し物の準備に先に向かっていた子たちもいるし、そもそも休憩所で給仕をする全員ってなると人数も多くなるわけだし。
いいんちょーの辰峯さんたちが担当している、クラスのまとめ係の子たちが考えてくれたスケジュールに沿って、今日のリハーサルも進めてもらってるんだけども。
来校してくれた自分のお母さんとか。あとは二日目にやってくるような、学園近隣に住むお客さんみたいな知らない人とか。
そういう人たちをしっかりオモテナシするために、みんな一度は練習しに行ってくれてることだろう。
さっき確認に向かった校庭でも、テントがいくつも立ちあがっていて。
その下では、寮の食堂でいつもわたしたちのご飯を作ってくれてるお姉さんや、それに混じって馬澄さんたちといった何人かの生徒も協力しながら準備を進めていた。
そのあとに向かった体育館では身の丈を超える高さの大きな迷路が出来上がっていたし、次に向かった講堂では吹奏楽部が最後の練習をしていたり。
廊下はクラスや部活の出し物の宣伝のために、色とりどりで個性豊かな装飾で華やかに飾られていて、まだ前日であるにもかかわらず、すでにお祭りのムードを存分に感じることができた。
きっとわたしが訪れていない場所でも、それぞれの学生たちがこれからの二日間を楽しい思い出にするために、たくさんの時間をかけて友だちや部活仲間と協力してきた成果が広がっているんだろう。
明日に控えた学園祭を成功させるために、学園生たちが一丸となって頑張ってる姿を、何度も何度も見ることができたからかな。
みんなの頑張る姿と非日常な学園の様相のおかげで、わたしも気合を入れ直しながら。
とりあえず遅れずに済みそうな行事委員で最後の打ち合わせに向けて、少し足早に、いつもよりも華やかになった廊下を進んでいったのだった。
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