19. あの世界へ
私の体が青白く光り出す。
「もう時間ね。間に合って良かったわ。
アイシャの最期の望みが、愛する人を生かす事で良かった。あの世界にいるリアムの中にある魔力の残滓が貴方を呼び寄せる。彼が貴方を取り戻したいと強く想えば想うほど、魔力の残滓は光り輝き、アイシャがあの世界へ帰る道しるべとなるわ」
「リアムは私を取り戻したいと思ってくれているのですか?」
あの世とこの世の狭間に来てから時間の間隔がよく分からない。リアムのいる世界とこちらでは時間軸が全く異なる事だってあり得るのだ。
もうすでに私は死んだ事になっているのではないか?
リアムは私の事など忘れて、新しい恋人と幸せな家庭を築いているかもしれない。そんな事を考え始めると急に、あの世界へ戻るのが怖くなる。
マリアさんは、自分の生きた証を愛する人の元へ残すことが出来たが、私はリアムの元に何ひとつ残すことは出来なかった。
彼を私に繋ぎ止めておくものは何もないのだ。
愛する人に忘れ去られる現実が、急に真実味を帯びてくる。
「リアムは、今でも私を愛してくれているのでしょうか? ここに来てから、かなりの時間が経ちました。私がいなくなってから、あちらの世界の時間がどれ位進んだかは分かりませんが、もうリアムは私の事など忘れて、他の誰かと幸せになっているのではないでしょうか? 私は、このまま死後の世界へと旅立った方が……」
「アイシャ!何を言っているの‼︎
そんな事をしたら、リアムだけでなく、キースやリンベル伯爵家の家族、そしてクレア。貴方を大切に思っている大勢の人達を悲しませる事になる。
もし仮に、リアムが貴方の事など忘れて他の誰かと幸せになっているならば、彼の中にある魔力の残滓は、反応する事はない。彼の中に残る魔力と貴方の持つ魔力が共鳴し、今のように青く光輝く事もないのよ。だから、安心なさい。今でも、リアムはアイシャを心の底から愛しているわ。
……ふふふ…仮死状態の貴方の体を毎日撫でまわす程には、愛しているわね」
「えっ⁉︎ 撫でまわすって……」
「冗談よ。まぁ、毎日のようにキスくらいはしているんじゃないかしら」
「えっ…えぇぇぇぇぇ…………」
「それくらい許してあげなさい。そのおかげで貴方はあの世界へ戻れるのだから」
……キス…撫でまわす………………
リアムはいったい私の体に何してんのよぉぉぉぉ
「ほらっ!手を繋いで。今度こそ失敗しないわ。貴方の中に私の魔力を全て注ぎ込む。アイシャがリアムの元へ戻りたいと強く願えば願うほど、お互いの魔力が共鳴し、導いてくれる。
さぁ!願いなさい。彼の元へ帰りたいと」
リアムとの日々は、楽しくて、辛くて、苦しくて、切ない日々だった。
それら全てが愛おしい想い出。
もう迷わない。彼の元へ帰りたい……
お願いリアムの元へ帰して……
私の中に強烈な光が流れ込んでくる。
視界いっぱいにキラキラと輝く光の粒が広がり、大流となって私の周りをクルクルと回り出す。
「アイシャ幸せにね……」
「貴方も………………」
私の最後の言葉は彼女に届いただろうか?
消えゆく世界の中でまた、彼女も消え去る。
美しい笑顔だった……
やっとマリアも私という柵から解放され、愛する人の元へ行けるのね。
光の粒が竜巻きのように私の周りを駆け巡り、宙に舞った花びらが視界を覆った時、私の意識は弾け飛んだ。
リアムの元へ………………




