ドンファン伯爵の誤算
……マズい事になった。
まさか、リアムが裏切るとは……
『白き魔女』であるグレイスをリアムが切り捨てるとは思わなかった。
いや、始めからあの男はグレイスの白き魔女としての真価を疑っていたのかもしれない。格上のウェスト侯爵家から打診された婚約話。とうとう私も上流階級の仲間入りが出来ると思い、この婚約話の裏を探る事を怠った。
その結果が、ウェスト侯爵家の裏切りとは。
私の知らぬ間に、裏界隈の子飼いと接触していたなんて。最悪な事に闇賭博の裏帳簿や奴隷売買の取り引き書やら、今まで指示した悪事の内容を記した書類まで全てウェスト侯爵家に渡ってしまっている。しかも、弱味を握り脅し、悪事に加担させて来た貴族家と交わした誓約書まで奪われたなんて、私は破滅する。
ドンファン伯爵家についていた貴族家が手を引く分には痛手は少ないが、今まで良いように操ってきた貴族家が牙を剥くとなれば厄介だ。
万が一、今までの悪事が王家の耳に入ったら……
ウェスト侯爵家に奪われた悪事の証拠の数々が王家に渡りでもすれば、極刑は免れないだろう。
子飼いの男も馬鹿な事をしてくれた。
『もう、ドンファン伯爵の下には付きませんよ。リアム様と取り引きをしましてね、今までの貴方様の犯した悪事の証拠と引き換えに、ウェスト侯爵家が私のバックについて下さる事になりましたのでね。今日限りでオサラバですわ。次に会う時は、貴方を顎で使うのはこの私ですよ。今まで散々こき使ってくれましたので、お礼はたっぷりさせて貰いますよ』
子飼いの男の言葉を思い出し、腹わたが煮え繰り返る程の怒りが湧く。
……馬鹿め! リアムが本気でバックに付くと信じているなんて馬鹿過ぎる。
いい様に踊らされて、嵌められているとも気づかないとは。ウェスト侯爵家が証拠を掴むため甘い言葉を囁いているに決まっているではないか。
証拠を掴んでしまえば、あの男は用済みだ。あっという間に始末されるのが落ちだ。
どうにか今の状況を切り抜ける手立てを考えねば……
「旦那様大変でございます。ただ今、王城より使者様が来まして、可及な要件にて旦那様に会わせろとおっしゃっております。一先ず客間へお通し致しましたが、如何致しましょう。お会いになられますか?」
何っ⁉︎ 王城より使者だと‼︎
嫌な予感しかしない……
背を大量の冷や汗が伝っていく。
「誰からの使者だ⁉︎」
「陛下からの遣いの者と申しております」
「直ぐに会う」
使者との面会は最悪だった。
『グレイス・ドンファン伯爵令嬢の白き魔女としての真価を問う審問会を開く事となった。よって、義父であるドンファン伯爵、グレイス共に○日○時に王城へ登場するように』
白き魔女としての真価。
あの女を養女にしたのがそもそもの間違いだった。あの田舎町で広がった噂話に飛びつき、グレイスを養女にしたのが間違いだったのだ。あの女に白き魔女としての力もさきよみの力もない。
グレイスを白き魔女に仕立てる為に行って来た裏工作の証拠もウェスト侯爵家に握られている今、申し開きなど出来ない。
……いや、一つだけ手がある……
白き魔女を騙り、養女になったグレイスにドンファン伯爵家の実権を握られ、彼女に無理矢理裏工作をさせられていたと釈明すれば、情状酌量の余地はあるとみなされるかもしれない。
今回の呼び出しもあくまでグレイスの白き魔女としての真価を問うものだ。私は保護者として呼び出されただけだ。
あの女を生贄に、私は生き延びてやる。
ドンファン伯爵の執務室からは不気味な笑い声がいつまでも響いていた。




