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16. 嫉妬【キース視点】


 俺は数名の部下を引き連れ必死に馬を走らせていた。


 どうか間に合ってくれ‼︎


 アイシャに付けていた護衛兼密偵から、彼女が明らかに罠だとわかる行動をしているグレイス嬢の後をつけていると詰め所に連絡が入ってから、急ぎ馬を走らせている訳だが、こんな状況になるなら町歩きを辞めさせるべきだった。


 アイシャが町歩きに出ると前もって情報を得ていた俺は、町の詰め所で待機していた。今夜も町歩きから帰って来た彼女との時間を過ごす算段を立てていた俺の元に血相を変えた密偵が飛び込んで来た事で状況が一変した。


 彼女の行動を把握する為、常に二人の密偵を付けていた訳だが、その内の一人の先導の元、裏路地をいくつも曲がり、開けた道に出た時、三人のゴロツキが倒れた路地の真ん中で俺に背を向け放心状態で座り込むアイシャを見つけた。


「アイシャ‼︎」


 馬から飛び降り、急ぎ近づき背後から抱き締めた彼女は、虚な目で前を見つめ泣き続けている。


 瞼がゆっくりと閉じていく……


 そして、コト切れたかの様に俺に身を預け意識を手放した。


 見たところ大きな傷、出血はないが、ナイトレイ侯爵家に連れ帰り、早く侍医に見せた方がいいだろう。




「キース様、ご報告してもよろしいでしょうか?」


 側に寄った密偵が、膝を折る。


「アイシャに何があった? 見た所、彼女に大きな怪我はない様だが、ゴロツキ三人は死んではいないが、かなりの傷を負っている。彼女が奴等を倒したとは到底思えない。アイシャ以外に誰がいた?」


「ウェスト侯爵家のリアム様がアイシャ様を助けられました。ゴロツキ三人を倒したのもリアム様です」


 何故、リアムがアイシャの危機に出くわすんだ!


 やっと最近、俺へ意識が向いて来たと言うのに……


 アイシャには好きな男がいる。


 漠然とそう感じたのは、初めて彼女がナイトレイ侯爵家に来た日、俺の腕の中で初めて泣いた時だった。


 ノア王太子とリアムが婚約者候補を降り、それぞれ別の令嬢と婚約したと社交界を賑わす様になると同時にアイシャは家に引き篭もってしまった。初めてナイトレイ侯爵家に来た時も俺との婚約話を辞めさせる算段だったのだろう。


 あの時、無理に笑顔を作り、俺の手を離そうとする彼女を見て、切なさで胸が苦しくなった。同時に、彼女を苦しめる存在に怒りが爆発しそうだった。


 そして、ノア王太子とアナベル嬢の婚約披露パーティーでの事、バルコニーで踊っている最中、突然アイシャの様子がおかしくなり泣き崩れた。ただならぬ様子に辺りを見回し気づいたのが階下にいるリアムとグレイス嬢の存在。


 アイシャはリアムが好きなのか……


 漠然と感じていた想いが確信に変り、アイシャを捨ててなお、彼女の心に居座り続けるリアムの存在に嫉妬した。


 そして、アイシャは今もリアムを想い泣いている……


 目を閉じたアイシャの頬に残る涙の跡を指で辿る。今でも彼女の心を支配しているリアムの存在が憎い。


 紛れもない嫉妬心。


 腕の中のアイシャを抱き締め、涙の跡に誓いのキスを落とす。


 必ずアイシャの心からリアムを追い出してみせると……



「アイシャをナイトレイ侯爵家へ連れて行く。馬車を用意してくれ」


「かしこまりました」


 近くに待機していた密偵に指示を出すとアイシャを抱き上げ歩き出した。






………数刻後………


「キース様、失礼致します。アイシャ様ですが、侍医の話では所々擦り傷があるものの、命に関わる怪我はないとの事です。ただ、利き手を捻り上げられたのか腫れが酷く、腫れが引き痛みが落ち着くまでは、右手を使わない様にとの指示です」


「わかった」


 私室で書類仕事を片付けていた俺は、執事から彼女の様子を聞き安堵のため息を溢す。


「しばらくナイトレイ侯爵家でアイシャを預かるとリンベル伯爵家へ伝令を頼む」


「かしこまりました。あと、リアム様の動向ですがウェスト侯爵家の守りが固く容易には探れそうに有りません。しかし、最近裏界隈の元締めの所に行っている様です。ドンファン伯爵の子飼いです。何か事が起きるやもしれませんね」


「わかった。引き続きリアムの動向も探ってくれ」


 踵を返し退室していく執事を見送り、一人考える。


 リアムがアイシャを助けられたのは偶然だったのかもしれない。確か、あの界隈にドンファン伯爵の子飼いの寝城があった筈だ。そいつに会いに行く途中で、たまたまアイシャの危機に出くわしたのだろう。


 運命の悪戯か……

 どうやら運命の神はリアムに味方をしている様だ。


 ノア王太子とリアムとの間でどんな密約が交わされたかは知らないが、勝手にやればいい。全てが終わった時にアイシャの心がリアムにあるとは限らない。


 アイシャは俺の手元にいるのだから……


 利き手の使えない彼女との楽しい日々を想像しながら、仄暗い笑みを浮かべ私室を後にした。


数ある作品の中から本作を読んで頂きありがとうございます。また、感想、評価、ブックマーク、誤字報告をしてくださった皆様、本当に感謝しております。ひとつの目標であったブックマーク100を達成出来、思わず小躍りしてしまった単純な作者です。完結まで、あと5万字程ですが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

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