14. 半信半疑
さて、どうしたものか……
多勢に無勢だ。正面切って打つかるのは余りにも悪手だろう。やはり、あのヒョロ男どちらかの脇腹に短剣を突き刺し、怯んだ所を体当たりして道を作るしかないな。まさかアイツらも私が短剣を持っているなんて思わないだろう。
チャンスは一度きり。
背中に隠し持った短剣の柄を強く握り締め、狙いを定めヒョロ男を見据え走り出した。
「いやぁぁぁぁ‼︎‼︎」
懐に飛び込むと同時に前方へ繰り出した短剣を脇腹目掛け突き出した途端、短剣を持った腕を掴まれ、上へと捻り上げられた。
「危ねぇ、危ねぇ……
普通の嬢ちゃんじゃねぇって聞かされた時はまさかと思ったが、短剣仕込んでいるなんてなぁ~
知らなかったら、斬り付けられてたわ」
「あぁぁぁ……」
捻り上げられていた手首が悲鳴をあげ、握っていた短剣を離してしまう。
こんなヒョロ男に何でこんな力があるのよぉ。
頭上に捻り上げられた手を更に上へと持ち上げられ、つま先も地面から離れ宙吊りになってしまう。
「きゃぁぁぁぁ‼︎‼︎」
そのまま宙に放り投げられ、背中から地面に叩きつけらた。
痛いぃぃぃぃぃ………
捻り上げられた手も、打ちつけられた背中も、全身が痛みに悲鳴をあげる。地面に投げられた時に、そこら中を擦りむいているのかもしれない。
「おいおい、あんまり手荒に扱うなよ。一応これでもお貴族様だろう」
「はぁ? 俺達にコイツをめちゃめちゃにする様に依頼したのもお貴族様だろうよ」
「お前も可哀想だよな。女の嫉妬は怖いよなぁ~。お貴族様は自分達の手は汚さずに、俺達みたいなゴロツキを顎で使う」
コイツらは誰かの依頼を受けて私を襲ったとでも言うのか?
グレイス嬢とリアムらしき男が現れた状況から考えても、この男達を雇ったのはグレイス嬢。いや、リアムの可能性もある。
本当馬鹿みたい。まんまと罠に嵌るなんて。
辺りを見回し何とか逃げ道がないか必死に探すが、人の気配がない建物に狭い路地、もちろん辺りには誰もいない。
そんな私を嘲笑うかの様に、落とした短剣を拾い上げた男がゆっくりと近づいて来る。
「まぁ、命まで奪わにゃしないさ。ただし、あんたが協力してくれればの話だが。抵抗すれば、この短剣を持つ手が滑るかもしれないなぁ。大人しくしていたら、良い思いもさせてやるよ。俺たちの気分が乗ればな」
こんな男達にいい様に扱われるなんて……
絶対に嫌よ! どうにか、逃げる手立てを考えなくてはならない。
従順なフリをして、油断した所を急所を蹴り上げ逃げるか。それだと一人は倒せても、残り二人を倒す事は出来ない。こんな事なら剣だけではなく、護身術も習っておくべきだった。
私は近づいて来る男を見据え、ずり下がるが逃げ道なんてない。
万事休すか……
諦めかけた時、脇道から一人の男がフラッと出て来て、こちらに向かい歩いて来るではないか。目深に帽子を被っている為、表情までは分からないが、しっかりとした足取りでこちらに近づいて来る。
……アイツらの仲間って事ないわよねぇ?
私を見据えている三人の男達は、背後からゆっくり近づいて来る男に気づいていない。
敵なのか味方なのか、様子を伺うしかないと思った時、突如帽子の男が走り出し一番近くにいた巨漢男に足払いをかけ、倒すと低い姿勢のままヒョロ男の腹目掛けてパンチを繰り出す。余程深く入ったのか腹を抱え膝を折った男の顔面を蹴り上げ、倒され起き上がろうとしていた巨漢男の首を抱えると捻りあげた。首があらぬ方向へ曲がり、息が出来ないのか巨漢男は白目をむき、泡を噴いてそのまま倒れた。
二人が倒されるまでにわずか数分。あまりの手際の良さに、自身の状況も忘れ見入ってしまった。
目の前のヒョロ男もこの時になってようやく異変に気づいたようだ。背後を振り向き、仲間二人が倒れているのを見て顔色が変わる。
瞬時に、帽子の男との実力差を感じたのだろう。
「ひっ‼︎‼︎」
気づいた時にはヒョロ男に羽交い締めにされ首元に短剣の刃を当てられていた。
「……こ、この女がどうなってもいいのか? 一歩でも近づいてみろ。こ、殺すぞ……」
私を羽交い締めにしたヒョロ男は私を引き摺りながら帽子男と距離をとる。
「その女性に少しでも傷をつけてみろ
……殺す……」
目の前の帽子の男の殺気が膨れ上がる。
羽交い締めにしているヒョロ男の手が小刻みに震え出す。実力差は明らかだが、今なら逃げられるかもしれない。
ヒョロ男の腹目掛け力一杯、肘鉄を喰らわせた。
首に当てていた短剣を持つ手が突然の攻撃に緩み、その隙を逃さず無我夢中で暴れ、帽子男の方へ駆け出す。
帽子男とすれ違う。
振り向いた時には決着がついていた。私を羽交い締めにしていたヒョロ男は脇腹から血を流し、倒れていた。
「……嘘…リアムなの……」
倒れたヒョロ男の脇に立ち、私の短剣を握っていたのは、紛れもなくリアムだった。
帽子が地面を転がり、赤髪が風になびく。
なぜ、貴方が私を助けるのよ……
短剣を持つリアムと視線が絡み合う。
信じられなかった……
貴方は私を捨てたはずじゃなかったの?




