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13. 迂闊な行動


「はぁぁ……」


 私は、行きつけのカフェで紅茶を頼み、窓際のお気に入りの席に座り、ボンヤリと外を眺めていた。


 ノア王太子の婚約を祝う夜会以降、私は引き籠り生活に戻っていた。出ないといけない夜会もなく、病気療養中と言う事で茶会や夜会のお誘いは全て断ってもらっている。


 あの夜、キースに抱き上げられ夜会会場を後にした私の噂は良い意味でも悪い意味でも社交界では、ホットな話題として囁かれているらしい。


 当日、私を守る様に眼光鋭く周りを見据えていたキースの態度と、周りの目も気にせず私を大事そうに抱きかかえ、立ち去った彼の姿にを見かけた多くの人々から、キースは婚約者を守るナイトとしての振る舞いを賞賛された。


 それだけではなく、私との関係を問われた時に、堂々と愛する女性と言い切った彼の態度から、何故かキースと私は婚約者同士と言う事になっているらしい。どちらの家からも正式な婚約成立の文書が発表されていないにも関わらずだ。


……リアムの事など忘れて、キースと結婚した方が幸せになれるのだろうか?


 バルコニーから見たリアムと婚約者だと思われるグレイス・ドンファン伯爵令嬢とのキスシーンが脳裏をかすめる。


 自分がリアムと女性とのキスシーンにあんなに動揺するとは思わなかった。それだけリアムが私にとって特別な存在になっていたのだろう。


 リアムの事を好きでいたってどうする事も出来ないのに……


 あの夜会以降もキースは度々リンベル伯爵家を訪ねて来てくれる。その頻度たるや、貴方はリンベル伯爵家の家族ですか? と突っ込みを入れたくなる程だ。ひょっこり現れては、店先の花が綺麗だったのでつい買ってしまっただの、騎士団で差し入れで食べたお菓子が美味しかったので貴方にも食べさせたくてだの、時間が空いたから久々に剣の練習なんていかがですか? だの……

 

 最近、騎士団内でも副隊長補佐へ昇格したと言っていたから忙しいはずなのに、隙間時間を見つけては会いに来てくれる。


 先日も夕飯の席に、ちゃっかり座っていた時は、余りの驚きに母から促されるまでその場に立ち尽くしてしまった。父とも旧知の仲であったかのように酒を酌み交わし人付き合いが苦手な父の心をがっちり掴んでいた手管には舌を巻いた。しかも、彼の事をあんなに嫌っていたダニエルお兄様をも、あっという間に懐柔した自心掌握術は見事としか言いようがない。周りへの気遣いといい、格下の伯爵家に対する態度といい文句の付けようがない。

 

 今や両親の心をもがっちり掴み、家族の様に接しているキースの姿に絆されつつあるのも事実だった。


……両親もキースを気に入っているし、彼と結婚した方が幸せなのだろう。


 このままキースに流される未来を望む心の声が聞こえる一方で、リアムを忘れるために彼を利用してはダメだと叫ぶ小さな声もする。


 やはり一人で生きていく未来を考え直すべきなのだろうか?


 答えの出ない問いが頭の中をグルグルと回り、前へ進めない。


 気晴らしに街のイケメン観察(腐女子的妄想含む)をしに来たのに、それすらもままならないなんてね。嫌になる……


「よし!考えるのはやめよう。今は趣味のイケメン観察だ」


 紅茶をひと口飲み、気合を入れ直す。


 さてさて、どんなイケメンカップルが通るかな?




……うん⁈あれって……

 グレイス・ドンファン伯爵令嬢??


 町娘風に変装をしているが、あのフワフワのピンクブロンドの髪にエメラルドの瞳。そして何よりも周りと差をつける圧倒的な可愛らしさ。間違いなくグレイス嬢だ。


 ただ、相手が問題だ……


 彼女達は、広場のベンチに座り人目も憚からず絶賛イチャつき中なのだ。簡単に言うと、さっきからチュッチュ、チュッチュしている。

 ここからでは男性の顔までは見えない。


……まさかリアムじゃないわよね?


 目深に帽子を被っているため、男性の髪色までは分からない。リアムの特徴である赤髪かが、確認出来ないのだ。


 こんな白昼堂々と、イチャつくなんて破廉恥にも程があるでしょ‼︎


 仮に相手がリアムだったら一言物申してやる!


 あちら様もお忍びならこっちもお忍びだ。どちらもお忍びなら市井でのトラブルは非公認。貴族なら恥として絶対に口外しないはず。


 先ずは、相手の男が誰か突き止めてやる。


 私は鼻息荒く席を立つと、会計を済ませあの二人を尾行するべく店を出た。



……あっ!立ち上がった……


 店を出て、二人を監視出来る路地の壁に張り付き様子をこっそり伺っていると、肩を抱かれたグレイス嬢が、男に寄り添い歩き出す。


……行っちゃう……


 私は被っていたつば広帽子を深く被り直し慌てて追いかける。適度な距離を保ちながら二人の後を追いかけるのは難しく、いつ振り向かれるかビクビクしていたが、グレイス嬢と男は二人の世界に入っているのか私の存在に気づきもしない。時折り顔を寄せ合い歩きながらキスをしている様にも見える。


 くっそぉぉ……


 私がこんなに苦しんでいるのにお前らは良い身分だな‼︎白昼堂々とイチャつきやがって……


 あぁぁぁぁ、どうしてやろうか……


 すでに私の頭の中は、相手の男はリアムで決定していた。


 肩を怒らせて、足を踏み鳴らし歩く私はすっかり尾行している事を忘れていた。すれ違う人々が何事かと凝視して行く。


 あっ!曲がっちゃう……


 私は二人を見失わない様に駆け出し、路地を曲がる。


……いない。どこ行ったのかしら?


 狭い路地を見渡すが、先程まで歩いていた二人の姿は何処にも見えない。


 此処って……

 マズいかもしれない……


 二人の行為を余す事なく見つめ歩いていた私は、いつの間にか人通りがなく、寂れた雰囲気の裏路地に来ていた事に気づいていなかった。


 早く大通りに戻らないと……


 慌てて振り返り、元来た道を戻ろうとした時……


「ちょっと待ちなよ嬢ちゃん。そんなに急いで帰らなくてもいいだろう。俺たちと一緒に遊ぼうや」


 目の前には柄の悪い男、三人組が道を塞ぐ様に立っていた。


……あちゃぁ、マズ過ぎるぅぅぅ……


 目の前の男達の内、二人はヒョロっとしていてあまり強そうには見えない。棒状の物があれば何とか打撃を与えて逃げるだけなら出来そうだが、真ん中の巨漢男は無理だ。太刀打ち出来そうにない。

 ニタニタと笑いながらゆっくり近づいて来る男達。


「申し訳ございませんが、わたくし急ぎますので其処を退いてはくださいませんか?」


 無理だろうなぁ~と思いつつ言ってみるが、馬鹿にした様にゲラゲラと笑われるだけだ。


 叫んだ所で誰も助けに来ないだろう。


 一か八か、やるしかない。

 奴等が油断している今がチャンスだ。


 私は鞄に忍ばせていた護身用の短剣を手に持つと、背中に隠しゆっくりと近づいて行く。


 皮肉よね。リアムに昔貰った短剣が役に立つ時が来るなんて……

 

 欠かさず手入れをし、今では短剣として実戦でも使える様に研ぎ直してある。本当、未練タラタラもいいところだ。


 まぁ、これで逃げられなかったら末代までリアムを恨んでやるんだから‼︎


 変な気合を入れ、目の前のゴロツキを見据えた。




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