12. 高笑い【グレイス視点】
あぁ~何て気分が良いのかしら……
攻略対象者であるリアムとの婚約も成立した。
白き魔女として社交界で、もてはやされる私の存在は、まさに乙女ゲームのヒロイン。
……あの女の評判も地に落ちた。
私からヒロインの座を奪ったアイシャとか言う女が悪いのよ。モブですらない名前も出てこない女の癖に、出しゃばるのがいけないのだ。
これからは私がこの世界のヒロインとして君臨する!
今日の夜会は最高だった。リアムとの婚約を大勢の貴族から祝福され、白き魔女としての評判も上々だ。
まさか誰も私に『さきよみの力』などないとは思わないだろう。
『さきよみの力』など元々持っていない……
ドンファン伯爵の養女になるまでは、皆が言う未来を見通す力があったのかもしれない。しかし、それはただ乙女ゲームの知識通りに動いていただけの事だ。別に私に予知能力がある訳では無いのだ。
社交界で言われている『さきよみの力』は、ドンファン伯爵の親しい貴族家に関する事柄をあたかも予知した様に伝え、裏でドンファン伯爵の手下共が、予知した通りに行動を起こしているに過ぎない。領地で橋が落ちると予知すれば、その通りに橋を爆破し、賭博で大損すると予知すればその通りに暗躍するだけだ。私が行う予知は、個人的に暗躍出来る小さなものばかりだが、実際に予知が当たった人間側の衝撃は大きく、噂はあっという間に尾鰭をつけ社交界に広がった。
今や『白き魔女』を養女に迎えたとしてドンファン伯爵の社交界での地位はうなぎ上りだ。白き魔女としてもてはやされるグレイスの『さきよみの力』が嘘だとしても、広がった噂は確信に変わり、今や疑う者など誰もいない。だからこそ、ウェスト侯爵家のリアムとの婚約もスムーズに進んだのだ。
乙女ゲームのヒロインであるグレイスにも『さきよみの力』なるものは存在しなかった。ただ魔力が強く、グレイスが敵を倒したいと強く願えば攻撃魔法として発動され、守りたいと思えば防御魔法として発動し、誰かを助けたいと強く願えば治癒魔法として発動するという類のものだった。しかし、その魔法の源となる力すら未だに感じた事はない。
私は、ヒロインと同じ名だが『白き魔女』の力は持っていない。
他にも乙女ゲームと違う点が多々ある。
もちろんアイシャの存在もそうだが、ノア王太子とアナベルの婚約発表。確かに乙女ゲームの中にも、このイベントはある。しかし、本来であれば悪役令嬢アナベルを嫌っているノア王太子が甘い顔でアナベルを見つめる筈がないのだ。
私が知る乙女ゲームの世界とは僅かに違う世界。
……でもそんなの関係ないわ。
白き魔女として認められた今、この世界のヒロインは私で間違いない。
誰にも私の野望を邪魔させない。
リアムを手に入れた。次はキースだ。
そしてゆくゆくはノア王太子を手に入れてみせる。
『アイシャ・リンベル』
忌々しい女だこと……
社交界での評判も地に落としてあげたのに、未だにキースと一緒にいるなんて、本当に目障りだ。あのまま引き篭もっていれば良かったものを。
夜会でチラッと見かけたアイシャは、キースにエスコートされノア王太子に挨拶をしていた。キースがあの女を守る様に眼光鋭く周りを見据えていたのも気にくわない。
悲劇のヒロインみたいに攻略対象者に守られるなんて何様のつもりなんだ‼︎
キースの隣はヒロインである私のものなのに……
アイシャに対する嫉妬の炎が燃え上がる。
どうやってあの女を蹴落としてやろうか……
「……ふふふ…そう言えばあの女は時々街に出掛ける事があるとセスが言っていたわね」
しかもフラッと一人で出掛けカフェでお茶をしているとか。本当にバカな女だ。
ドンファン伯爵子飼いの街のゴロツキを使って襲わせるのもいい。奴は私の言いなりだから、すぐにゴロツキを融通してくれるだろう。
めちゃくちゃにされて仕舞えばキースも愛想を尽かす。まぁ、ショックで自ら命でも絶ってくれたら最高だ。
楽しみだわぁ……
あの女が絶望に落とされる所はぜひ間近で見たい。
アイシャを陥れる計画を練りながら、一番信頼のおける専属執事セスを呼び出す為、呼び鈴を鳴らした。




