6. 衝撃的な話
「お父様!それは本当ですか⁈」
王城を後にし、急ぎリンベル伯爵家へ帰って来た私はその足で母の元を訪ねた。
今日は王城での執務がお休みだったのか、母とお茶という名のイチャイチャを楽しんでいた父を見つけ、リアムとの婚約話を切り出した訳だが。
「アイシャ落ち着きなさい。先ほど言った事は全て事実だ。まさか、お前がこんなに早く婚約者をリアム殿にすると言い出すとは思わなかった。乗り気では無かったしなぁ。
しかし、王家とウェスト侯爵家から正式に婚約話の取り下げの文書が送られて来たのは事実だ。格上の王家とウェスト侯爵家からの婚約取下げの正式文書に否を言える立場ではないのだよ。
ノア王太子殿下はともかく、今のアイシャの話では一週間前にリアム殿に婚約を受ける旨を伝えたんだね?」
「えぇ。リアム様もその時は婚約に前向きでしたわ。一週間で心変わりしてしまうなんて信じられません。何かの間違いではありませんの?」
父の言葉を全く信じる事が出来ない私に、王家とウェスト侯爵家から届いた文書が渡される。
「その文書の通りだ。アイシャの話が本当なら、酷い話だと思うが仕方のない事だ。アイシャもリアム殿の事は忘れなさい。私達、伯爵家が何をしても覆えす事は出来ない。それよりもナイトレイ侯爵家のキース殿との婚約を真剣に考えてみなさい」
父の言葉が頭の中を駆け巡る。
リアムとの婚約を諦めて、キースとの婚約を考えろですって………
そんなこと出来る訳無いじゃない‼︎
私はあまりの衝撃にその場にへたり込んでしまった。
「アイシャ‼︎大丈夫⁈
顔が真っ青だわ。ルイ、此処はいいから。わたくしがアイシャの側に居ますので」
母の言葉に父が部屋を退室したが、それすらも気づけない程に放心状態の私を母が抱きしめる。
「アイシャ、今は何も考えなくていいわ。キース様との婚約の事も考える必要はないわ。泣きたければ泣けばいい。思いっきり泣いた方が楽になる事もあります。今は我慢してはダメよ」
「お母様、わたくしリアム様に捨てられたの?」
一点を見つめ放心状態だった私の目が縋る様に母の目を見つめる。
母の顔が、衝撃を受けた様に歪み、それが全てを物語っていた。
ノア王太子の言ってた通りなのね………
私はリアムに捨てられた………
一週間前はあんなに幸せだった。
長年の恋心を自覚して、リアムとの幸せな未来が待っていると思っていたのに。
信じられない………
限界だった。
涙が後から後から溢れ出し止める事が出来ない。
泣き崩れた私を母は何も言わず、いつまでも抱きしめてくれた。
数日後………
社交界に二つの婚約が発表された。
一つはノア王太子殿下とリンゼン伯爵家のアナベル様の婚約。
そして………
ウェスト侯爵家のリアム様とドンファン伯爵家のグレイス様の婚約。
『白き魔女』として社交界で認知され始めたグレイス嬢の婚約は、社交界に衝撃をもたらした。
その陰で、リンベル伯爵家のアイシャは本人に欠陥があり、二人の貴公子から見放され婚約話が立ち消えたのではないかと悪い噂が流れる様になった。
「はぁ~家に閉じこもっているのもつまらないなぁ」
リアムに裏切られ婚約話が立ち消えてから一ヶ月、私は絶賛引きこもり中だった。
社交界での最悪な噂のせいで、めっきり夜会にもお茶会にも呼ばれなくなった私は暇を持て余していた。
一ヶ月間、泣きに泣き続けたおかげかリアムとの事は自分なりに決着をつけられたと思う。
恋に鈍感な私の事を、リアムの様な数多の令嬢を虜にして来た男が本気で好きになる訳がなかったのだ。甘い言葉と態度に踊らされ恋をしていたと勘違いしただけ。
リアムはきっとリンベル伯爵家と姻戚関係になるメリットで婚約者候補になっていただけのこと。『白き魔女』という旨味があればそちらに乗り換えるのは自然な事だ。
傷が浅いうちに離れられて良かったのだ。
もうリアムの事は忘れよう。
そんな事をボンヤリと考えていた私の元に母がやって来る。
「アイシャにお手紙よ。ナイトレイ侯爵家のキース様から………」
そういえば、キースともあの一週間以来会っていなかった。とうとうキースからも愛想を尽かされたのかもしれない。あの社交界での酷い噂を聞けば誰だって愛想を尽かして当然だ。欠陥令嬢と噂されている私を嫁にもらおうと考える家なんてないだろう。
『アイシャ、貴方が体調を崩し家に籠っていると聞きました。ずっと家にいるのも逆に気が滅入ってしまうのではありませんか?
もし良かったら一緒に気分転換でもしませんか?』
キースからの手紙を読み考える。
このまま、キースと音信不通という訳にはいかない。
これを最後にしよう………
社交界での評判も地に落ちた私の婚約者候補でいる方がキースには損なはずだ。
きちんと話をしてナイトレイ侯爵家から婚約解消してもらった方が良い。お互いに傷は浅い方が良いに決まっている。
結果的に、これで良かったじゃないか。
予定通り、趣味に生きればいい。
独りで生きて行けばいい………




