3. 久しぶりの女子会
本当に本当にごめんなさい………
天敵ノア王太子の元へ一人残して来てしまって。
心の中でアナベル様に平謝りしつつ、ノア王太子の魔の手から逃げるべく先を急いでいた。
私を匿えるとしたら王妃様かクレア王女殿下の所しかない。王妃様の居場所が分からない時点で却下だが、クレア様の居場所ならわかる。師匠やリアムとの剣の練習に毎日通いつめた王城内。よく練習前にクレア様とお茶をしながら女子トークをした事が思い出される。今の時間なら私室にいる可能性が高い。彼女なら親友の頼みをきっと聞いてくれるはずだ。
鬼気迫る勢いで王城内を歩く私を遠目から侍女や侍従が心配そうに眺めていたが、そんな事に構っていられる余裕などない。
前だけを真っ直ぐ見つめ足早に歩く。
何としてでもノア王太子に取っ捕まる前にクレア様に会わねばならない。
必死に歩いたおかげか思いの外早く、クレア様の私室前に到着した。
ひとつ深呼吸し気持ちを落ち着かせ扉をノックする。
『トントン』
「はい。どちら様でしょうか?」
扉から出てきたクレア様付きの侍女に、急ぎ取り継ぎを依頼すると、直ぐに室内へと通してもらえた。
「クレア様、御寛ぎのところ大変申し訳ありません。急な訪問に対応頂きありがとうございます」
「アイシャ!そんな堅苦しい挨拶は不要よ。
1年ぶりね‼︎夜会では、結局会えず仕舞いだったし、貴方も色々と面倒事に巻き起こまれているようで大変ね。確か今日はノアお兄様に会いに来たのではなくって?」
「………それがですね。
とある諸事情がございまして、ただ今ノア王太子殿下から絶賛逃走中ですぅ」
「はぁ~?貴方、何やらかしたの⁈」
結局、事の顛末を全てクレア様にお話する事になってしまった。
「アイシャ、貴方良い度胸してるわね。ノアお兄様との二人きりのお茶会にアナベルを連れて来て、しかも彼女とお兄様との婚約が反古になった理由を説明しろと突っかかり、二人を残して逃げて来たなんて………
貴方、何やってんのよぉぉ………
お兄様が来たら引き渡そうかしら」
「クレア様!それだけはご勘弁を‼︎」
私は恥も外聞も捨てクレア様に泣きつく。
「はぁぁ、わかってるわよ。貴方を匿ってあげるから少し落ち着きなさい。
本当アイシャって昔から後先考えず突っ走るわよね」
呆れた様子のクレア様がひとつため息をつき、ソファに座る様に促される。
なんだかんだ言って見捨てないクレア様に感謝だ。持つべき友は絶対的な権力を持つ王女殿下に限る。
「ひとまずお兄様との事は置いておいて。それよりもアイシャ貴方社交界で大変な噂になってましてよ。お兄様のみならず、ナイトレイ侯爵家のキースとウェスト侯爵家のリアムから婚約を申し込まれていると。それは本当の事なの?」
「えぇ。まぁ………
私の知らない内にお三方が婚約者候補になっていたと申しますか。完全に不可抗力ですけど」
「まぁ、そうなの。それでアイシャは誰と婚約を結ぶか決心がついているの?
あの社交界の様子だと誰とも婚約しないという訳にもいかないでしょ?そんな事したら貴方が槍玉に上がってしまうわ」
「えぇ。承知してます。母からも言われております。誰とも婚約を結ばなければ、わたくしの評判は地に落ち、リンベル伯爵家の家名にも傷をつける事となると」
「そうねぇ。王太子と侯爵子息二人から同時に婚約を打診されてるなんて前代未聞だわ。王家からも侯爵家二家からも、正式な発表がなされていない今、噂の域を脱していない段階だけど、まぁ噂好きの貴族達からしたら格好のネタよね。社交界では伯爵令嬢のシンデレラストーリーとして貴方が誰と結ばれるか賭けをしている輩もいるとか。
それでアイシャは誰と婚約するか決めているの?お兄様なんて超優良物件よ。顔良し、頭良し、腹黒さもバッチリ。もれなくわたくしという可愛い妹付きなんて最高よ!」
「………はは………ははは………
ノア王太子殿下はパスですぅぅぅ」
「何よ!お兄様の何が嫌なのよ⁈」
「嫌というか、苦手といいますか………
わたくし心に決めた方がいますの。だからノア王太子殿下との婚約は無理です。
あのぉ…そのぉ………
実は、リアム様と恋仲になりまして」
「はっ⁈いつの間にそんな事になったのよ‼︎‼︎」
その後、興奮仕切りのクレア様にリアムとの一週間の船旅での出来事を全て聞き出されてしまった。
「さすがリアムね。女心をばっちり掴む演出に、貴方の不安感を見事に取り去った言動は見事ね。初心のアイシャならイチコロだわ。まぁ、もともと三人の中では誰よりもアイシャと一緒にいた時間が長かった訳だし有利よね」
「はぁ、そんなものですか??」
「恋を知ったばかりの貴方を掌の上で転がすのなんてお手の物よ。社交界での人気ぶりを考えても女の扱い方には慣れてるでしょうね~。まぁ、あの三人が相手じゃアイシャは可哀想よ。未婚の令嬢のやっかみが半端ないわよぉ」
「えっ??そんなにですか?
リアムの社交界での女性関係って?」
「あんまり男女の恋愛に興味がなかったアイシャは知らないわよね。
リアムにキース、そしてアイシャの兄上のダニエルにノアお兄様………
あの四人は、社交界の寵児と呼ばれていて、未婚の令嬢だけじゃなく、既婚女性をも虜にする男達なのよ。なんでもそれぞれにファンクラブが存在するとか。
その中でもリアムは、男女問わず交友関係が広く、話上手で、紳士的な振る舞いで落とした令嬢は数知れず、遊びでもいいから関係を持ちたいと思っている令嬢がたくさんいるらしいわ。彼女達の中では、リアムならもしかしたら結婚出来るかもしれないと夢見れる存在だったようよ。まぁ、他の三人が興味がない令嬢には冷たいキースとシスコンのダニエルと殿上人のノアお兄様じゃねぇ~
下位貴族の令嬢じゃあ、夢も見られないじゃない。だから未婚令嬢達の一番人気はリアムなのよ」
「マジですか………
リアム様は誰か特定の方と噂になった事があるのですか?」
「それが不思議な事に、アイシャの名前が浮上するまで噂になった女性は一人もいないわ。あんなにプレイボーイ的な噂が流れるのに不思議よね。
まぁ、アイシャの話からもリアムはずっと貴方に恋していたのでしょうね。
わたくしは貴方がリアムが良いと言うなら応援するわよ。お兄様が選ばれなかったのは残念だけど、貴方が幸せなのが一番だもの」
リアムのプレイボーイぶりには少々不安はあるが、今まで噂になった女性はいないとのことだし、きっと大丈夫だ。
私はリアムを信じるわ!
「ありがとうございます。クレア王女殿下。
リアム様のプレイボーイぶりは、ちょっと心配ですが、彼の言葉を信じて婚約を結ぼうと思います」
侯爵子息のリアムの隣に立つのは大変な勇気が必要だ。沢山の令嬢達のやっかみや嫌がらせを受ける可能性だってある。しかし、リアムと一緒なら絶対に乗り越えられる。彼への恋心を自覚した今の私なら頑張れる。彼との幸せな未来の為に、私も強くならなくてはならない。誰に何を言われても強くいられる私に。
「アイシャ、わたくしはいつでも貴方の味方よ。今後、困った事があれば何でも相談してちょうだいね。貴方が思う以上に貴族社会は汚い世界だから………」
私はクレア様の不穏な言葉に、ただ頷く事しか出来なかった。貴族の結婚とは、なんて面倒なのだろうと感じながら。




