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ノア王太子の策謀

~ノア王太子視点~


アイシャはリアムを選んだか………


リアムが執務室を去り、一人残された私は窓辺に立ちボンヤリと外を眺めていた。


アイツに話したアイシャへの想いは本心だ。彼女を王太子妃に出来たら私の治政は大きく変わったかもしれない。本来であれば、あらゆる手段を使ってでも手に入れた方が良いのは分かっている。それ程までに、『白き魔女』というネームバリューは絶大だった。


今やお伽話の中でしか現れない『白き魔女』は、国民誰しもが知る伝説的な存在である。魔法を操り、あらゆる人や物にその力を分け与え、未知の能力を発揮させる。しかしその魔法は、魔女の命を削ると言われている。何百年も前、まだこの国が他国と争っていた頃、魔女の力は、その時の権力者の意のままに使われ、次々と彼女達は命を落としていった。そんな死んでいった魔女達の命の上に成り立った国は、代償として魔女を失う事となった。時の覇者は、魔女を失って初めてその貴重さ、大切さに気づいたのだろう。だからあんな伝承を残した。僅かに残る魔女達を守るために。


『白き魔女の恩恵を受けし伴侶は世界の覇者となる』


この伝承を残した、時の覇者をバカかと思う………

これでは、僅かに残る魔女の争奪戦になるのは目に見えている。結果として、リンベル伯爵家の白き魔女しか残らず、白き魔女ですら滅びてしまった訳だが。


しかし伝承だけは、人から人へ伝えられ、いつしかお伽話となり国民誰しもが知る『白き魔女』の伝説が作りあげられてしまった。


アイシャが、本物の『白き魔女』である事は疑いようもない事実だ。しかし、彼女が白き魔女であると社交界に知れ渡ればアイシャを巡る争奪戦が巻き起こる事は確実だ。そんな貴族同士の醜い争いに巻き込まれ、彼女が疲弊し精神を病んでしまう事だけは避けなければならない。


アイシャの屈託のない笑顔を思い出す。


あの笑顔だけは守りたい………


その為にも、グレイス嬢を利用する価値はある。彼女が善なのか悪なのかなんてどうでもいい。金と権力を貪欲に欲するドンファン伯爵は、必ずウェスト侯爵家からの婚約の打診に飛びつくだろう。


グレイス嬢が本物の『白き魔女』と分かればドンファン伯爵だけ切り捨てればいい。偽物だと分かれば二人一緒に闇に葬ればいいだけの話だ。


リアムの腕の中、存分に踊り正体を見せてもらいたいものだよ。グレイス嬢………


優秀なリアムの事だ、愛するアイシャの為に良い仕事をしてくれるだろう。


………くくっ………

その間に、アイシャが誰に心変わりしても責任は取れないがな。


果たしてリアムとアイシャの愛は本物なのか?

高みの見物と行きますか。







『トントン』


「失礼致します。セス・ランバン様がお見えですが、お通し致しますか?」


「あぁ、入れてくれ」


厄介な男が来たものだ。


侍従の声と共に黒髪黒目のスラっとした男が入って来る。柔和な笑みを貼り付けているが眼光の鋭さと得体の知れないオーラが只者ではない雰囲気を醸し出している。


『セス・ランバン』


ランバン子爵家の長子であり、次期当主。

そして、『血の契約』を交わさねばならぬ者。


ランバン子爵家は、特殊な性質を持つ家である。昔から王家の暗部と深い繋がりを持ち、様々な情報を王家へと流す役割を果たして来た。しかし、王家の諜報機関とは別組織であり、利害関係によっては裏切る可能性を秘めた扱い辛い家でもある。

父王とランバン子爵家現当主が『血の契約』を結んでいる現在は、良好な関係を築いているが、私の治政でも同じかはわからない。目の前の男が、次期ランバン子爵となる者なだけに慎重な対応を求められる。


コイツを敵に回すのは得策ではない………


「ノア王太子殿下、無駄な挨拶は省かせて頂きますよ。定例報告です。

ドンファン伯爵にも、グレイス嬢にも目立った動きはございません。グレイス嬢の白き魔女としての真価に関しても分かった事は特にありません。以上です」


毎回聞く、同じ文言に正直辟易していた。

グレイス嬢専属執事の立場で、何の情報も持ち合わせていないと言うのは、余りにもおかしい。目の前の男は、あえて情報を隠しているとしか思えない。


「そうか………

分かった。帰ってよい。では、一週間後の定例報告でな」


目の前の男が踵を返し扉に向かい歩き出す。


「あっ!そうそう………

近々、ウェスト侯爵家のリアムとグレイス嬢の婚約が発表されると思う。裏の情報を牛耳るランバン子爵家でも尻尾を掴めないドンファン伯爵家の内情を暴く為に、リアムを送り込む事にした。

もちろんグレイス嬢の『白き魔女』としての真価を探る為でもある。流石に婚約者には正体を現すだろうからな。セスもリアムに協力してやってくれ」


私の声に、扉に向かっていた男の動きが止まり、ゆっくりと振り向く。


「………ノア王太子殿下、リアム殿とグレイスが婚約すると言いましたか?」


「あぁ、そうだ。何か問題でもあるのか?」


明らかに先程とは様子が違うセスを見て、内心ほくそ笑む。


やはり色々と隠していた様だ。


「いいえ………………

やはり貴方は噂通りの方の様ですね。

一筋縄ではいかない。お粗末な定例報告で騙し通せる訳がなかった。

改めてお話しします。ランバン子爵家の次期当主としてノア王太子殿下と正式に手を組みましょう」


「それは、現当主の命令で動くのではなく、王太子である私と直接手を組むと言う事か?」


「えぇ。そうです。

これからは貴方の指示で動くと言う事ですよ。もちろん今まで隠していた情報も教えましょう」


「その見返りとして何を求める?」


「全てが終わった時………

グレイス嬢とドンファン伯爵の悪事が暴かれた時、ある人物を所望します。その者の人生を私にください」


「しかし、奴隷制度が廃止となっている現在、その者の意思を無視して人を所有する事は不可能だ。法に反くことになる」


「………くくっ、いいえ大丈夫です。

その者は重罪人ですから。

死刑となるか、一生幽閉されるかの世には出ない者ですから問題ないでしょう」


「そうか。して、その者の名は?」


耳打ちされた名に驚愕する。


「わかった。全て終われば望みを叶えよう」


「では、契約成立ですね」


目の前の男の異常さに背筋が凍る。


執愛か………

いや、狂愛か………


愛は人を狂わせる。


心の奥底に巣食う醜い感情は、リアムに対する確かな嫉妬心と………


アイシャへの想いが狂愛に変わる前に自身の気持ちに決着をつけなければならない。


彼女と過ごす最後の一週間に想いを馳せゆっくりと目を閉じた。

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