15. 恋慕【リアム視点】
「…ふふ…ははは…………
あの程度で慌てるなんて可愛い過ぎだろ」
彼女のウブな反応を思い出し、自然と笑みが溢れる。
キースとの1週間で何か変化があったかとカマをかけてみたが、あの調子だと何も無かったのだろう。アイツがアイシャにどうアプローチを仕掛けたかは分からないが、あの鈍感さが相手じゃ、さぞかし手をこまねいた事だろう。
まだまだチャンスはある。生温いアプローチを仕掛けるつもりはない。1週間で彼女の心に私の存在を刻み込まねばならない。
後に控えるノア王太子の存在が重くのしかかる。
あの御方が本気になれば厄介だ。
地位も権力も女の扱いも勝てる自信が一つもない。
今の段階では、ノア王太子がアイシャを私と同様に愛しているかと言うとそうではないだろう。
彼女自身が欲しいと言うよりも、次期王としての立場を確固たるものにするため『白き魔女』を手に入れたいと考えていると思って間違いない。
『白き魔女の恩恵を受けし伴侶は世界の覇者となる』か………
我が国に伝わる伝承を利用すれば次期王としての立場は確固たるものになる。しかし、そんなもののために彼女を利用させる事だけは絶対に出来ない。
アイシャには自身が『白き魔女』だなんて知らずに幸せな人生を歩んで欲しい。
彼女の素晴らしさは、柵に囚われない自由な考えと、自身の夢を実現させるために行動出来る強さだ。
『白き魔女』という柵に捕らわれる事だけは阻止しなければならない。
アイシャには自由に生きて欲しい………
ソファに寝そべり、アイシャとの未来を考える。
出来る事ならアイシャの隣にいるのは私であって欲しいと思いながら。
「失礼致します。ただ今、アイシャ様をお部屋へご案内致しました」
「………そうか」
「あの様子ですと、暫くはご立腹かと思われます。ディナーはいかが致しましょう?」
「一緒のディナーは無理だろうなぁ~
厨房へアイシャの部屋にディナーを運ぶよう伝えてくれ。私もここで軽く食事を取る。簡単な物を準備してくれ」
「かしこまりました。取り急ぎ準備致します。
それと、例のドンファン伯爵家の白き魔女の噂の詳細がわかりました。名はグレイスと言います。ピンクブロンドの髪に緑の瞳のたいそう可愛らしい令嬢だとか。生まれは貧しい農村の出ですが、その村が盗賊に襲われるのを予知し、それを聞きつけたドンファン伯爵家に15歳で養女として入っています。
『さきよみの力』があると言われていますが真意は定かではありません。
ドンファン伯爵家に入ってから近しい貴族家に行ったとされる予知もいくつか報告されていますが、裏でドンファン伯爵家が糸を引いていた形跡がチラホラと。社交界で流れている噂の信憑性は低いかと思われます」
「では、グレイス嬢が行った予知で信憑性が高いと思われるのは、ドンファン伯爵家に入る前に行ったもののみか………
なんとも怪しいなぁ」
「しかしその予知に関しても出来すぎていると言いますか………
グレイスと盗賊が仲間同士で、彼女が裏切り密告すれば、予知は当たる事になりますからねぇ。
まぁ、自然災害の予知は仕組む事が出来ませんので、本当に予知の力があったのかもしれませんが」
「まぁ、真相は不明だが私にとって厄介な存在ではあるな。よりによって白き魔女を名乗るとは………」
この目で見た通りアイシャが白き魔女としての力を復活させたのは間違いない。だとすると白き魔女としての力を持つのはアイシャとグレイス、二人という事になる。
「グレイス嬢はリンベル伯爵家の遠縁なのか?」
「いいえ。リンベル伯爵家とは全く無関係です。ルイ殿の隠し子という事もありませんし、生家もリンベル伯爵家との繋がりは一切ありません」
最後の白き魔女が言い残したとされる、『リンベル伯爵家の女児から白き魔女が復活する』という伝承にも当てはまらない。まぁ、この伝承は王家とウェスト侯爵家、ナイトレイ侯爵家の極秘事項ゆえ、伝承を知らないドンファン伯爵が、自身の娘が白き魔女だと言いふらしているのだろうが。
「グレイス嬢のさきよみの力が本物か今の段階では判断出来ない。引き続きドンファン伯爵とグレイス嬢の行動を監視し随時伝えよ」
「承知致しました」
必ずやグレイス嬢はアイシャに仇なす存在となるだろう。
何としてでも大切なアイシャを守らねばならない。
幸いアイシャが白き魔女としての力を復活した事を知る者は三家のみだ。
今後のドンファン伯爵家の出方次第ではグレイス嬢を闇に葬らねばならん。
全てはアイシャとの幸せな未来のために………




