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14. 男女の駆け引き


「アイシャ無事に着いて良かった。夜会ぶりだね」


チーフクルーが立ち去るとソファに座って、書類を読んでいたリアムが立ち上がり近づいて来た。


「リアム様、この度は船旅にお誘い頂きありがとうございます。わたくし船旅は初めてですの。とても楽しみにしておりました」


私はその場でカーテシーをとり決まりきった挨拶をする。


「嫌だなアイシャ、そんな他人行儀な挨拶なんて辞めてくれ。私とアイシャは幼なじみなんだしね」


「ふふ、それもそうね。

ただ、意趣返しをしたつもりよ。私の知らない所で色々と暗躍してくれたみたいだし。すっかり皆様の策に嵌められてしまったわ」


意思を込めた瞳でリアムを睨む。


「まいったなぁ~アイシャに愛しているって言ったのは本心からなんだけどな。まぁ、鈍感なお姫様には全く伝わっていなかったみたいだけどね。

………夜会で言った事覚えてる?

人気のない所で男と二人きりになるとどうなるか自覚した方がいい。あっという間に喰われるぞってね」


「あっ⁈…ふぅ………うぅ………」


目の前に迫ったリアムに腰を抱かれ、(おとがい)に手をかけられ深いキスを落とされる。舌を絡め、吸われると脳内が痺れたように動かない。


意識が遠のく………………


「…くくっ、アイシャは深いキスの仕方も知らないのかな?鼻で息をしないと窒息するよ」


「………へぇ?」


痺れた頭ではリアムが言っている意味がよくわからない。


「もう一度教えてあげようか?」


潤んだ瞳が、近づいてくるリアムの唇を捉えた時………


『ボッボォーーー』


出航を告げる汽笛の音に我に返った。


「リアム様!離してくださいませぇぇぇ」


私は渾身の力を振り絞り、リアムの腕から逃げ出すと、バルコニーへと逃げ出した。


手すりに捕まり階下を覗くと甲板に出た沢山の乗客が桟橋に集まる人々に手を振る光景が映る。どこからともなく降り注ぐ紙吹雪が風に舞い、船上を特別な空間へと変貌させていた。


リアムとの深いキスで赤く上気した頬を優しい潮風が撫でていく。徐々に落ち着きを取り戻した私の心には不思議な高揚感が渡来していた。


………このドキドキは船旅へのちょっぴりの不安とワクワク感から来たものよ!


「甲板で出航セレモニーをやってるみたいだね。後で一緒に甲板にも降りてみようか。その後は船内で軽く軽食でも取ろう」


いつの間にか隣に来ていたリアムの存在に心臓が早鐘を打ち始める。


………私どうしちゃったのかしら?

これではまるで、リアムを意識しているみたいだ。


きっとさっきのキスのせい………


「えぇ。甲板にも降りてみたいわ」


私は適当に相槌を打つ事でその場をやり過ごした。


甲板での出航セレモニーが終わり、ゆっくりと船が動き出す。


「リアム様、船が動き出しましたわ!

本当に不思議。こんなに大きな船が動き出すなんて」


「この船は最新式の蒸気船なんだ。石炭を燃料に蒸気タービンを動かしスクリューを回すことで前進している」


「リアム様、詳しいのね」


「まぁ、この船はウェスト侯爵家が所有する船だし、自分の家が所有する船の事くらい知っていないとね。ウェスト侯爵家は、ここら辺一帯の港町を領地としているんだ。この蒸気船を所有する船会社もウェスト侯爵家の傘下だよ」


道理でロイヤルスウィートなんて王族が泊まるような部屋を確保出来る訳だ。改めて感じる家格の違いに目眩がする。


「そんな事より潮風に当たり過ぎると体が冷える。部屋へ入ろう」


私はリアムに促され、さりげなく腰を抱かれ部屋へと入る。


改めて部屋の中を見回して見るとロイヤルスウィートの名に相応しい豪華な造りとなっていた。

先ほどリアムが座っていた猫脚のソファセットも光沢のある絹糸で織られた精緻な花の刺繍が施された生地が張られ、見るからにフカフカして座り心地が良さそうだ。壁際に備え付けられたチェストもアンティーク調の凝った装飾の重厚な造りをしている。

壁に飾られた絵画も絵心がない私でも分かるくらいセンスが良いものだ。そして足元を見れば、毛足の長い絨毯が敷き詰められており歩く度に優しく足を包み込んでくれる。


部屋の中の案内をされていた私はふと疑問に思う。


リビングに浴室に寝室………


「ところで、わたくしのお部屋はどこですの?」


先ほど見せてもらった寝室は明らかに一つだけだった。


「ここだけど………」


「えっ?あのぉ、寝室がひとつしかございませんが?」


「そうだねぇ~

一緒に寝ればいいんじゃないかな」


「えっ…えぇぇぇぇ‼︎‼︎

イヤイヤイヤ、絶対ダメでしょ!

わたくし達、未婚の男女でしてよ‼︎‼︎

同衾するなんてもっての他ですわ。わたくしナイスバディな身体でもありませんし、もちろん何も起こらないのはわかってますが、世間の目と言う物がありますのよ。フロアに沢山ある使用人部屋でいいのでそちらを一部屋使わせて貰ってもよろしいでしょ」


船旅の間、リアムとずっと一緒のベットだなんてハードルが高過ぎる。何も起こらないと分かっていても寝られる訳がない。


「残念ながら使用人部屋はいっぱいなんだ。船は狭いだろう。必要最低限の使用人しか連れて来てないけど、それでもアイシャに一部屋空け渡すのは難しいな。侍従や侍女に廊下で寝泊りしてもらう事になってしまう。

でも世間体は全く気にしなくて大丈夫だよ。このフロアにいるのはウェスト侯爵家の使用人のみだし、ロイヤルスウィート専属のクルーは何があっても秘密は漏らさないよう教育されている。アイシャは何も心配せず、私とベットを共にすればいい」


「そんなぁ………」


抱かれていた腰を強くひかれ、リアムと向かい合わせに見つめ合う。


「何があっても絶対外部に漏れる心配はないけど、あえて私とアイシャが一つのベットで1週間、夜を共にした事が外部に流れるようにしたらどうなるだろうね?

何も起こらなくとも、アイシャは私のところへお嫁に来るしかなくなるかなぁ。もちろん二人で既成事実を作っちゃうのも私は大歓迎だよ。

………1週間の船旅が実に楽しみだね」


私の頭の中で、リアムに夜会で言われた言葉がクルクル回る。


『男は皆ケダモノだ』


黒いオーラを纏ったリアムがニッコリ笑う。


「ひっ‼︎

リ、リアム様‼︎早まっちゃダメよ‼︎‼︎

節度を持った行動を取りましょう。わたくしと同衾したなんて噂が流れたらリアム様だってお困りになるわ!」


「別に僕は困らないけどな………

むしろアイシャと既成事実を作って、私から逃げられないようにしたいくらいだよ。我が国は比較的、性には寛容な国だから結婚前に一夜を共にしているカップルも多いしね。現状では、アイシャの婚約者候補の一人な訳だし、結婚してしまえばそこら辺は寛容に見てもらえるよ」


イヤイヤイヤそう言う問題ではない………

一瞬リアムの言葉に納得しそうになってしまった。

アイシャ、しっかりするのよ!


「でもやはり、その様な行為は結婚してからがよろしいかと思いますの。

………だってわたくし初夜は真っさらな体で迎えたいですもの」


リアムが思い留まるなら何だって使ってやるわよぉぉぉ………


私は出来るだけ恥ずかしそうに目を伏せ消え入りそうな声で言ってみた。


「アイシャ、貴方って人は………

はぁ、わかりました。貴方と結婚するまでの辛抱ですね。変な噂も流しませんから」


よっしゃ!思い留まったか。


私は心の中でガッツポーズを決める。


「………処女は奪いません。でも、それ以外は保証しませんから」


「えっ⁈」


油断していた私は、いつの間にかソファに押し倒され唇を貪られる事となった。


ひぃぃぃ、胸触られているよぉぉぉ




『トントン』


「失礼致します。お返事が無かったもので勝手に入らせて頂きました。リアム様、そろそろアイシャ様を解放なさいませ。アイシャ様のお部屋のご案内と専属侍女の紹介を致しますので」


「えっ‼︎………………」


部屋に入って来た執事の言葉に我に返る。


………だ、騙されたぁぁぁぁぁ


「リアム様!騙すなんてひどいですわ‼︎」


私の上から起き上がったリアムの目が悪戯に笑っていた。





リアムの行動にヘソを曲げ、私室に篭った私を乗せた船はゆっくりと進み、居心地の良い部屋のフカフカのベットに寝転がり、枕に顔を埋め考える。


揶揄われただけなのね………


心に宿った一抹の寂しさにそっと蓋をして。

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