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12. ひとりで生きるということ


はぁぁぁ………


ナイトレイ侯爵領からの帰りの馬車の中、私は深いため息を溢していた。


キースと過ごした一週間、彼に対する見方は大きく変わった。あんなにストレートに言葉をぶつけてくる人だったなんて思ってもみなかった。


遠駆けへ出掛けてからのキースは私に対して『好きだ』『愛している』と数えきれない程の求愛の言葉を言い続けていた。そのしつこさと言ったら壊れたお喋りロボットかと思うほどだ。男性からのストレートな愛の告白なんて、前世でも今世でもほとんど経験がない私にはハードルが高過ぎる。


挨拶代わりの様に毎日愛の言葉を言われれば嫌でも意識してしまう。


朝食を一緒に取れば、髪型が可愛いだの洋服が素敵だの褒めちぎり、ぴったりと私の隣に座り朝食を取り分け、甲斐甲斐しく世話をされる。邸内にある庭園を散策していれば、いつの間にか合流しさらっとエスコートされる。もちろん腰を抱かれながら。しかも後で、私が気に入った花を集めた花束を部屋に届けてくれたりと、女性が喜ぶポイントを見事におさえたアプローチを展開される。


『貴方の美しさには負けますが、この花束が貴方の癒しになりますように』


こんな手紙が添えられた花束を受け取って嬉しくない訳がない。


毎日の好き好き攻撃は、徐々に私の意識を変えていった。


キースって、肉食系男子なのね………

恋愛初心者の私には対処しきれないわ。


昨日だって、本を読んでいた私の隣にちゃっかり座り、あれよあれよとお膝の上に抱っこになっていたし、どうしたらあんな状況になっちゃうのか意味不明だ。チョロすぎる私の行動に項垂れるしかなかった。


キースとの濃すぎる1週間を終え疲労困憊の私を乗せた馬車はゆっくり進む。


結局、キースに対する気持ちに変化があったかと言うと、よくわからないのだ。以前の様な嫌いという感情は全くなくなったが、彼と同じ熱量で好きかと言われるとそうでもない。アプローチにドキドキしていたのは慣れていないからだと思う。ただ、キースとの1週間を振り返ると確かに心の奥底が疼く様な気もする。それが何かと言われるとわからない。


帰り際に言われた言葉が頭の中を巡る。


『俺との結婚を真剣に考えて欲しい。返事は急がないがこれだけは忘れないでくれ。

俺は誰よりもアイシャを愛している』


私はいったいどうしたらいいのだろうか………


これから一緒に過ごすことになる二人の事を考えると憂鬱になる。


本当に恋愛初心者の私にはきっついわぁぁぁぁぁ………


悶々と考え込む私を乗せた馬車は順調に進み、数刻後リンベル伯爵家の門扉に到着した。


「お母様ただいま戻りました」


出迎えに来てくれた母と共に私室へ向かう。


「お、お母様…これはいったい………」


私は部屋中に飾られた花々を見て絶句していた。


「今朝方、ナイトレイ侯爵家のキース様から届いたお花よ。メッセージカードも預かっているわ」


母から受け取ったメッセージカードを開ける。


『貴方が気に入った花々を摘み花束にしました。これを見て少しでも俺の事を思い出してくれたら嬉しい』


最後まで抜かりないわねぇ………


「あら!アイシャはキース様から大層愛されているのね~

キース様とは順調に進展したのかしら?」


「進展というか、疲労困憊です。お母様、わたくしキース様からあんなに求められる理由が分かりません」


「ナイトレイ侯爵領で何があったかは聞きませんが、貴方も社交界デビューを果たした令嬢です。男女の駆け引きも学ばなければならないでしょう。わたくしもルイに出会うまでは男なんて皆同じだと思っていました。公爵家という旨味を求めたハイエナか下半身のゆるいケダモノばかりだとね。でもルイと出会い考えが変わったの。あの当時、まだまだ一執務官だったルイはお世辞にも要領が良いタイプではなかったわ。まぁ簡単に言うと出世には全く興味がない学者肌、上司に媚びへつらう事もしないから、執務官の中では変わり者扱いでした。

そんなルイと王城の図書室で初めて出会った。ただのルイーザとして友達の様に接してくれたのは彼だけだったのよ。あっという間に彼に夢中になった。それから結婚するまでが大変でしたけどね。

少なくとも貴方に求婚している三人は、アイシャ自身を見てくださる殿方ではないかしら。誰と結ばれるかは自ずとわかるものよ。私の時みたいに心が必ず訴えてくるから。アイシャには婚約者を早く選ばないと社交界で悪評が広まると脅したりしましたが、焦らずゆっくり考えてみなさい。私達家族は貴方が幸せになる結婚を望んでいるのだから」


「わたくしはやはり誰かと結婚しなければならないのでしょうか?

貴族の結婚は柵ばかりです。そして妻は夫に従い貞淑である事を求められる。自由がない結婚なんて不幸なだけですわ」


「アイシャ、貴方が言いたい事もよく分かります。実際にわたくしもルイと出会うまではそう思っていました。しかし、貴方が考える程、結婚は不幸なものではありませんよ。夫となる人に貴方の事をよく理解してもらう事はとても重要です。何故貴方はそうも結婚を嫌がるのですか?その理由を相手に話し理解してもらえれば、アイシャの言うところの窮屈な結婚にはならないのではないかしら。年をとってからの一人は辛いわ。愛する家族に囲まれて過ごす余生はかけがえのないものよ。貴方に求婚している殿方はアイシャの事を理解してくださらない心の狭い方達なのかしら」


母の言う言葉は何も間違っていない。確かに女一人で生きて行くには並大抵の努力では無理だ。手に職をつける事が出来たとして年老いてから一人で過ごすのは想像するだけで寂しい。

前世のように老人ホームがある訳でもなく、誰にも看取られずに死にゆくのは悲し過ぎる。前世の私の最期は分からないが、悲しんでくれる家族はいた。

母に言われるまで気づかなかった。一人で生きて行くと言う事は、想像だにしない悲しみと隣り合わせなのだ。


出来れば愛する家族と幸せな人生をかぁ………


あの三人は私の譲れない趣味を知っても好きでいてくれるのだろうか………


母からの言葉が頭の中でこだまする。


私は幸せな結婚が出来るのだろうか………


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