4.今日は厄日なのか?
………まままま、まずいぃぃぃぃぃ………
私はノア王太子にクルクル回されながら、何とかこの窮地を脱する手立てを探していた。
あぁぁぁ、なぜあの時放心状態になったよ私………
無理にでも手を引っ込めて逃げれば良かった。
王太子と二回目のダンスを踊っている時点で手遅れ感が否めないが、ダンス終了と同時に逃げて夜会もスッポかせば、ボコボコにされるのは免れるかもしれない!
ゆっくりと曲が終わりに近づく。
「流石にこれ以上アイシャを独占するのは難しい様だね。離れがたいが仕方ない。
今度は私の誘いを断らないでくれよ。でないと私も強行手段に出てしまうかもしれない」
黒い笑みを浮かべ釘をさすノア王太子に背筋が凍る。
ひぃぃぃぃぃぃ、黒過ぎるぅぅぅぅ………
「………あは…はは…ははは………」
曲が終わりやっと解放された私は逃げ道を探し周囲を見まわす。
これは正面突破しかないわね!
鬼気迫る勢いで歩き出した私に恐れをなしたのか、正面の人垣が割れる。
………抜けられるわ‼︎
スピードを上げようと踏み出した私の手を掴み引き寄せたアホがいやがった。
「ひぃ‼︎えぇぇぇぇ………」
強い力で引き寄せられた私は反動で倒れ込む。
気づいた時には手を引きやがった奴の腕の中に背中から抱き留められていた。
「1年ぶりだな。
アイシャ、君ともう一度話がしたかった。
君に嫌われているのはわかっているが、話す事は許してもらえないだろうか?」
「キース様!なぜ………」
あれよあれよと言う間に会場のど真ん中に逆戻りした私の心の叫びは誰にも届かない。
あぁぁぁ、私OK出してませんけど…………
またまたゆっくりとワルツが流れ出す。
………あらっ!キース様って意外にダンスもお上手ね。なんておちゃらけてないとやってらんないわよぉぉぉぉ………
今日は厄日なのか?
「ずっと君に謝りたかったんだ。
1年前。いや、6年前からずっと俺は君にひどい事を言い続けて来た。その事を君に会えない一年間ずっと考え、後悔していた。そう簡単に許してもらおうなんて考えていない。君の尊厳を傷つけ、あまつさえ女性の体に傷をつけるなんて許されない事だ」
「キース様、わたくしもうあの時の事は全く気にしておりませんのよ」
………すでに貴方様の事は眼中にありませんので………
「ですから、キース様もわたくしの事など気にせず自身の人生を謳歌くださいませ!
………オホホホホ………」
というか今すぐ私を解放しろぉぉぉぉ………
貴方様もノア王太子に負けず劣らずの顔面偏差値をお持ちなのだから、令嬢達の視線が怖すぎる。
もう周りを見る勇気もないわ………
………よし!曲が終わるぞ‼︎即逃げよう。
「アイシャ、そういう訳にいかない。
君の苦しみを考えると辛いんだ!どうか俺に償わせてくれ。
俺は!君に騎士としての忠誠を誓う‼︎」
「………はぁ~⁈
ちょちょちょ、ちょっと待って!
騎士の忠誠は、ただの令嬢に誓うものではないでしょう‼︎」
「いや、俺は決めたんだ!
生涯をアイシャのために捧げると」
「………はは…ははは………
まるでプロポーズみた~い」
私は地雷を踏み抜いたらしい。
「そのつもりだ!アイシャ、俺と結婚してくれ‼︎」
「………」
そして私は自爆した。
二度目の放心状態の私を抱き寄せたキースの腕の中、二曲目のワルツが始まる。
………はぁ、どうにでもなれ………
私は会場の響めきをBGMにクルクルとワルツを踊り続けた。
やっと解放された………
私は二曲目が終わると挨拶もそこそこに逃げるように人混みに紛れた。
何とか人混みを抜け壁際に辿り着き、疲れからその場にへたり込みそうになる。
今日は何て日なのよぉぉぉ………
早くお兄様を見つけてこの場から逃げた方がいいわね!
ノア王太子とキースのせいで私の『壁の花』計画が台無しだわ。キャッキャウフフの男同士の恋愛模様を美味しい料理を食べながら堪能しようと思ってたのに、これでは無理だわ。
「ちょっとそこのデビュタント!」
はぁぁ、やっぱり来やがったよ………
「何か御用がお有りですか?」
私は笑顔を貼りつけゆっくりと声のした方へ振り向くと、そこにはゴージャスな真っ赤なドレスに身を包む迫力美人を先頭に数名の令嬢達が立っていた。
………はは…ははは………
まるで悪役令嬢に虐められるヒロインみたいな立ち位置ね。すっご~い………
疲労困憊の私は壊れていた。
「貴方デビュタントのくせに何なのよ!
わたくしはノア王太子殿下の婚約者候補筆頭ですのよ!そのわたくしを差し置いて二度もダンスを踊るとは‼︎しかも、次は次期騎士団長とも言われている令嬢の憧れの御人でもあるキース様とも………。
何て破廉恥な‼︎淑女としての礼儀がなっていないわ‼︎‼︎
今後一切ノア王太子殿下とキース様に近づかないと誓いなさい!」
なんてバカ正直な令嬢なんだ………
私は目の前の迫力美人に罵倒されながら何故か感動していた。
こんなバカ正直に怒りをぶつけてくる令嬢も珍しい。普通は味方のふりをして蹴落としたり、裏でコソコソと嫌がらせをするのが貴族令嬢のお決まりだろうに、自身の怒りを包み隠さず、相手にぶつける様は、天晴れとしか言いようがない。きっと目の前の迫力美人は嘘がつけないタイプだ。
ぜひ、お友達になりたいが、ここでお友達になってくださいとか言ったら引かれるよなぁ…………
まずは基本に戻り自己紹介からだ!
「わたくし、リンベル伯爵家のアイシャと申します。大変失礼ですがお名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
私と対峙していた数名の令嬢達がザワつく。
「なっ⁈貴方がリンベル伯爵家のアイシャ様だったのですか?」
急に目に見えて狼狽し出した迫力美人を見て不思議に思う。リンベル伯爵家のアイシャだと何かあるのだろうか??
アイシャは何も知らなかった。
『リンベル伯爵家を敵にまわした貴族家は密かに葬られる』というまことしやかに囁かれている社交界の噂を。
「………えぇ…まぁ………」
目の前の令嬢の顔色がどんどん悪くなる。
大丈夫かしら………?
「アイシャ様とは露知らず失礼…………」
「そう、この娘がアイシャ・リンベル伯爵令嬢だよ。ご令嬢方………
そして、私の婚約者さ」
『えっ⁈えぇぇぇぇ………』
見事な令嬢達の声の合奏に私の叫びは飲み込まれた。




