3.波乱の社交界デビュー
数年ぶりに見るキラキラした笑顔を振りまくノア王太子と私は、会場のど真ん中でファーストダンスを踊っている。
ゆったりとしたワルツなので難しい足捌きもなく周りを見る余裕もあるのだが………
あぁぁぁ、紳士淑女の皆様からの視線が突き刺さるぅぅぅ………
デビュタントとしての心構えが脳裏をよぎるが、これでは、壁の花どころか注目の的だ。
目の前の王太子がデビュタントの心構えを知らない訳がない。知り合いのよしみでファーストダンスの相手から外してくれてもいいのに、これでは『デビュタントのくせに目立って!』と、後ろ指をさされてしまう。
今までノア王太子の誘いを尽く、断って来た私に対する嫌がらせなのか⁈
「アイシャ、久しぶりだね。数年ぶりに君と話せるのを楽しみにしていたのだよ。
君は恥ずかしがり屋だから、なかなか私からの誘いを受けてくれなくて本当に寂しかったんだ。ここ1年は王城にも来てくれなかったから、こんなに美しく、気品ある大人の女性に成長しているなんて思わなかった」
ノア王太子の腰を抱く腕に力が入り体が密着する。
近い近い近いぃぃぃぃぃ………
ダニエルお兄様の時とは明らかに違う密着度に焦り、必死に体を離そうと試みるがダンスをしながらでは限界があり早々に諦めた。
………数分の我慢よ。
「………はは、ははは………
王太子殿下におかれましては度重なるお誘いを受けていたにも関わらず、体調不良などやむなき事情にてお応え出来ず大変申し訳ございませんでした」
「アイシャ、そんな堅苦しい言葉遣いは辞めて欲しいな。これからは、クレアと話す時みたいにフランクに接して欲しい」
「いえいえ!そんな不敬な事出来ませんわ」
むしろ今後一切関わりたくない………
先ほどから突き刺さる妙齢な令嬢達の視線が怖すぎる。久々に会ったノア王太子はビックリするくらいの美青年に成長していたのである。簡単に言うと超ド級の顔面偏差値を持っており、なおかつ婚約者がいない王太子を狙っている令嬢は山のようにいるのだ。そんなハイエナ令嬢の前で王太子にフランクに話しかけたが最後、ボコボコにされる。
私はまだ死にたくない………
デビュタントの一人が婚約者のいない王太子とファーストダンスを踊るのは恒例行事だから、一曲踊ってその足で壁の花になれば生き長らえるはず。今ならまだ間に合う。
「アイシャ、君ももう大人の仲間入りだ。
私の言いたい事はわかるだろう?」
「………えっ⁇」
「想像以上にアイシャは鈍感なようだね………
好きでもない相手を何度も誘う男なんていないのだよ。しかも相手は全く自分の気持ちに気づいてくれないお子様だ。どうやらアイシャには直球でいかないと全くわからないらしい」
………ノア王太子は何を言っているの⁇
「アイシャ………
私はね、君の事をずっと愛しているんだよ。
わかったかな。鈍感なお姫様………」
「………」
曲が終わり、私は操り人形の様にノア王太子へカーテシーをとり立ち去ろうとして手を掴まれた。
ゆっくりと二曲目のワルツが流れ出し、会場内に大きな響めきがはしる。
王太子殿下自らが立ち去ろうとしたデビュタントの手を掴み引き寄せたのだ。社交界では、ダンスを二曲続けて同じ人と踊るのは婚約者かパートナー以外は有り得ない事だった。
一曲目は社交辞令。二曲目は求愛のダンス………
婚約者のいない王太子が同じ令嬢と二回ダンスを踊るという事は、その令嬢に求愛しているとみなされる。
周りの響めきを覆うように曲が進んでいき、放心状態でなされるがままのアイシャと優しい笑顔で彼女を見つめるノア王太子のダンスも止まる事なく進む。
『やってくれましたね!
まぁ、今夜から解禁になったのだから仕方ありませんが、先手必勝と言う訳ですか………』
そんな二人のダンスを苦々しく見つめる三つの影が会場内から注がれていた。
アイシャ争奪戦の幕が今切って落とされた。




