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ナイトレイ侯爵家


~ルイス視点~


まさかキースの時代に『白き魔女』が復活するとは………

こんな事ならもっと早くにキースとアイシャの仲を取り持っておくのだった。


今さら考えても仕方ない事をツラツラと考えながら団長室の扉を叩く。


「おぅ!ルイスか。

どうしたんだこんな時間に来るだなんて珍しい。何か騎士団に厄介事でも舞い込んだか?」


俺は副団長として外部からの依頼などをまとめ騎士に振り分ける仕事も担っている。団長は豪快で大雑把な性格をしているため、細々とした仕事が苦手なのだ。結果として副団長の俺が裏方的な仕事を一手に引き受けている。まぁ、団長に任せていたら終わる仕事も終わらなくなるから仕方ない。


「いいえ。騎士団は至って順調ですよ。今日は取り急ぎ伝えておきたい事が起きましたので参上しました。

………『白き魔女』が復活しました」


「…そ、それは誠か?」


掛けていた椅子を蹴倒し立ち上がった父は掴みかからんばかりに前のめりになり叫ぶ。


相変わらずの迫力で、執務机まで倒れそうである。


熊並の大きな体躯に太く低い声と歴戦の猛者をも黙らせる眼光で見つめられれば父親だとわかっていても冷や汗がでる。


「………まずはその殺気収めてください」


「あぁ、すまんすまん。それで………?」


蹴倒した椅子を戻し、ドカッと座り直した父に問われる。


「俺が以前からアイシャ嬢に剣の稽古をつけていたのは知っていますね?そしてキースにたまに練習相手をさせていた事も………」


鷹揚に頷いた父を見て話を続ける。


「今日、二人の最後の練習試合がありました。アイシャ嬢も15歳を迎えるにあたり貴族令嬢としてのマナーや社交を学ぶ必要があり、剣の稽古を辞めざるをえなくなったそうです。

キースに容赦なくズタボロにされたアイシャ嬢は最後の力を振り絞りキースに一撃を与えた。そしてキースは吹っ飛び気絶しました。キースの持っていた長剣は真っ二つに折れていた。長剣で止めてなかったら大怪我をしていたでしょうね」


「あのキースがアイシャ嬢に吹っ飛ばされただと⁈」


「えぇ、そうです。しかもアイシャ嬢が持っていたのは護身用の短剣です。たとえ男同士の戦いでも、護身用の短剣で一撃したくらいでは吹っ飛ばされませんよ。何かしらの力が加わらない限り、有り得ない現象です。直ぐに折れた長剣を調べましたら青白い光に包まれてました。一瞬で消えましたが、あれは魔力の残滓ではないかと………」


「信じられん話だが………

とうとうナイトレイ侯爵家の悲願である『白き魔女』が復活したのだな。

我が家に是が非でも迎え入れたいが………」


ナイトレイ侯爵家の悲願………


『白き魔女』の片翼である武の名家ナイトレイ侯爵家には悲しい伝承がある。


最後の白き魔女は、当時のナイトレイ侯爵と血の繋がった兄妹でありながら、恋仲であったのだ。しかも膨大な魔力を有していた彼女は未来を見る力も有していた。


『さきよみの力』は歴代の魔女の中でも彼女にしかない特別な力だった。


そして彼女は知ってしまった。自分の命と引き換えに全魔力を未来へ転送しなければ魔女の血筋は彼女の時代で滅んでしまうという事を。


その事をナイトレイ侯爵に告げた時、彼は彼女の命を優先するように言ったが、彼女の意思は変わらなかった。彼女もまた魔女の血筋を遺すため生きたリンベル伯爵家の娘だったから………


最期に彼女はナイトレイ侯爵との子供を産むとその子をナイトレイ侯爵家に遺し、全魔力を注ぎ転送魔法を発動させ、この世から去った。


魔法陣の中に立ち青白い光に包まれキラキラ輝きながら消えていく彼女を見つめていたのは可愛らしい男の赤ちゃんを抱いたナイトレイ侯爵だけだった。


光が消えた部屋の中からは、慟哭するナイトレイ侯爵の声がいつまでも続いていたそうな………


最後の『白き魔女』とナイトレイ侯爵との悲恋は何百年にも渡り、ナイトレイ侯爵家の伝承として伝えられてきた。俺も乳母に子守唄のように聞かされたものだった。


『ナイトレイ侯爵家は最後の白き魔女の魂を取り戻さなければならない』


きっと魔力を転送した時、最後の白き魔女の魂も一緒に転送されたのだろう。魔力の器こそが彼女の魂だったと言われている。


ナイトレイ侯爵家は悲恋に泣いた先祖の為にも復活した白き魔女を手に入れなければならない。


『白き魔女』として復活したアイシャを………



「その場に居たのはキースとお前だけだったのか?」


「いいえ。王家の子飼いとウェスト侯爵家のリアムも居ました。おそらくどちらも気付いているかと思います」


「よりによってその二家とは………

情勢が大きく動くな。

アイシャ嬢とキースの関係は?」


「最悪です。

今日の出来事でキースのアイシャ嬢に対する見方は大きく変わりましたが、アイシャ嬢はおそらくキースを嫌っているでしょうね」


「かなりマズい状況であるなぁ。

どうにか二人の仲を進展させる猶予を作らねばならないな」


「今の段階では、ウェスト侯爵家のリアムが一歩リードでしょうね。アイツはアイシャに剣を5年間教えてましたから」


「………はぁ………何だそれは………

ひとまず王家と手を組み、ウェスト侯爵家が抜け駆け出来ぬよう手を打つか。

ルイス、至急陛下へ手紙を届けよ!」


「かしこまりました」


さてアイシャ争奪戦の行方はどうなるか………?


アイシャへの気持ちを少しずつ自覚し出したキースへ心の中でエールを送りながら、団長室を後にした。


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