ウェスト侯爵家
~リアム視点~
あの時………
キースがアイシャに吹っ飛ばされた時、確かに剣先が青白く光っていた。
………『白き魔女』かぁ………
アイシャが白き魔女として復活したのは間違いないだろう。ただの御伽噺だと馬鹿にしていた父から聞かされた話が頭を巡る。
ウェスト侯爵家は、『白き魔女』の片翼である。魔法という概念が消え失せてからすでに数百年、この国で魔法を扱える者は誰もいない。魔法とは血で生み出すものである。かつて他と隔絶する事で魔法を生み出す力を残そうとした家があった。
『リンベル伯爵家』
この家こそ魔女の血筋を持つ唯一の家となる。いつしかこの家から生まれる魔女を『白き魔女』と言うようになった。
しかし近親婚を繰り返したためか、いつしか子の数は減り、断絶の危機に立たされた。その時、二つの家が救いの手を差し伸べる。
『知の名家ウェスト侯爵家』と『武の名家ナイトレイ侯爵家』
当時、リンベル伯爵家にはひとり娘がいた。この娘は、ウェスト侯爵とナイトレイ侯爵の息子達と契り三人の子を成したという。二人の息子はそれぞれの侯爵家を継ぎ、最後に生まれた娘がこの国の最後の魔女となる。
最後の白き魔女は巨大な魔力を有していた。
最後の白き魔女が起こした魔法………
『リンベル伯爵家の当主と妻から誕生する女児にいつか白き魔女が生まれる』
この言葉を最後に、最後の白き魔女はこの世を去った。
この事実を知る者は王家とリンベル伯爵家、そして『白き魔女』の片翼であるウェスト侯爵家とナイトレイ侯爵家のみである。そのため数百年に渡り、リンベル伯爵家に娘が生まれれば婚約者候補となり、『白き魔女』が復活した場合、直ぐに結婚出来るよう暗躍して来た。
しかし今まで『白き魔女』としての力を持つ娘は一人として現れなかった。
魔女としての力が復活するのは15歳まで………
汚れなき魂を持つ少女期に魔力が発動すると言われている。
そのため、白き魔女の存在を知る三家はリンベル伯爵家の娘が15歳の誕生日を迎えるまで婚約者を選べない。
アイシャはもうすぐ15歳。
………伝承の通りだ。
あの力は、『白き魔女』が復活したと見て間違いないだろう。
もうすぐアイシャ争奪戦が始まる。
『白き魔女の恩恵を受けし伴侶は世界の覇者となる』か………
アイシャと別れ、急ぎウェスト侯爵家に戻った私は、その足で父の執務室へ向かう。
「失礼致します。父上に急ぎお伝えしたい事がございます」
あれから5年、父との関係も大きく変わった。剣を続ける一方、勉学にも本気で取り組んでいた私は、3年前から父の指示を受けウェスト侯爵家の暗部を仕切る事になった。今では暗部を使いあらゆる情報を収集し、暗躍する諜報活動を主に担っている。
「リンベル伯爵家のアイシャ嬢ですが、『白き魔女』の力を復活させました」
「………っ‼︎それは誠か⁈」
「はい。この目でしかと見ましたから。
しかし、あの場には王家の子飼いとナイトレイ侯爵家のキースとルイス様も居ましたから、おそらく気づいたでしょう」
「厄介だなぁ………
出遅れる訳にはいかん!
リアム、お前とアイシャ嬢との関係はどうなっておる?」
「他の二人より一歩リードというところですかねぇ」
医務室から聞こえたアイシャの大絶叫を思い出し、苦笑が漏れる。
本当に鈍感なお姫様だ………
「必ずやアイシャ嬢を手に入れなければならない。
リアムわかっているな!」
「えぇ。もちろん、必ず手に入れますよ」
彼女は私にとって特別な存在だ。白き魔女だろうと無かろうと関係ない。アイシャだからこそ、手に入れたいと思えるのだ。
キース、ノア王太子………
医務室でのキースとアイシャのやり取りからも、キースのアイシャに対する見方は大きく変わった。
憎悪が愛に変わるのも時間の問題か。
それにノア王太子ほど厄介な相手もいない。私に負けず劣らず腹の中真っ黒な策士を相手にするのは至難の技だ。
たぶん二人もアイシャに惹かれている。
あの鈍感令嬢は全く気づいていないが………
俺の存在を意識し出した今がチャンスだが、王家とナイトレイ侯爵家が黙っていないだろう。あの二人を出し抜き、アイシャを手に入れるのは前途多難だ。
執務室を後にした私は大きなため息をつき、私室へ向け歩き出した。




