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23.後悔先に立たず


俺がアイシャに持っていた憎しみは、ただの八つ当たりだったのだろうか………


アイシャに言われた事が頭から離れない。


俺は兄上から跡継ぎの座を奪ってしまった罪悪感をアイシャを憎む事で紛らわしていた。アイツの言う通り、今まで兄上の本心を直接聞いた事も、父上に跡継ぎは兄上の方が相応しいと進言した事もなかった。


全ての責任をアイツに押しつけ逃げていただけだったのだろう。


『騎士たるもの弱き者を護るため剣を握れ』


いつだったか剣の師匠だった兄上から言われた言葉だった。


俺はアイシャに随分酷いことをして来た。剣の扱いもままならない相手を本気で吹っ飛ばし、容赦なく打ちつけた事もあった。明らかに自分より力も技術もない女性に対して、耳を塞ぎたくなる汚い言葉も何度も浴びせていた。


そんな俺の最後の罵声にもアイシャは冷静な言葉と助言を与えてくれた。


兄上は今、アイシャの言う通り幸せなのだろうか………?


マクレーン伯爵家や夫人を避け続けて来た事を、今さら後悔しても遅い。もっと早く兄上の本心を聞いていたら彼等との関わりも今とは違うモノになっていたかもしれない。


深いため息をひとつ溢し、副団長執務室の扉をノックする。


「失礼致します。兄上、お話があります。

今、お時間よろしいでしょうか?」


「キースか。アイシャとはきちんと話をして来たのか?」


「俺は今までアイシャにたくさん酷い事をして来ました。なのにアイツは俺を罵倒する事もせず、俺の理不尽な物言いに助言までしてくれた。

兄上に聞きたい事があります。兄上は今幸せですか?

マクレーン伯爵家に婿入りしても幸せな日々を過ごせているのですか?俺が跡継ぎの座を奪ってしまった事を恨んではいないのですか?」


膝をつき床に手をつき泣き崩れた俺に近づいて来た兄上が肩に手を置く。


「やはりお前がアイシャに辛く当たっていたのはナイトレイ侯爵家の跡継ぎ問題からだったのか………

キースに何も言わなかったのが悪かったな。俺はマクレーン伯爵家に婿入り出来て幸せだ。まだナイトレイ侯爵家の跡継ぎだった頃から、妻とは恋人同士だったんだ。あの当時、跡継ぎの俺とマクレーン伯爵家のひとり娘だった妻はお互いに惹かれあってはいたが、決して結婚出来る状況ではなかった。妻がひとり娘だった事でマクレーン伯爵家を存続させるには婿を取るしかなかったからだ。そんな時、リンベル伯爵家にアイシャが生まれ、ナイトレイ侯爵家の跡継ぎが歳の近いキースへ替わる事になった。そのおかげで俺は愛する妻と結婚する事が出来たんだ。

俺にとってはアイシャもキースも感謝こそすれ恨むことなど万が一にもない。二人とも大切な弟子だ。

あの時、アイシャに剣を教えると言ったのも感謝からだったのだろう」


アイシャの言った通り、兄上は幸せだった。

そして、俺が兄上に抱いていた罪悪感は無意味なものだった。


「それにな、俺はお前の方がナイトレイ侯爵家の跡継ぎに相応しいと思うぞ。

お前の騎士としての実力は抜きん出ている。俺から見てもその若さで一部隊を統率する手腕は見事だ。お前は、自分が思う以上に優秀な奴なんだよ。いくらアイシャと歳が近いと言っても無能な奴を父上がナイトレイ侯爵家の跡継ぎにする訳がない。騎士として抜きん出て優秀な当主でなければ、ナイトレイ侯爵家は『白き魔女』を護る片翼の地位を維持する事は出来ない」


『白き魔女』の片翼……

アイシャは………………


「アイシャは何も気づいていないが、あの場にいたメンバーが不味かった。陛下の子飼いとウェスト侯爵家のリアムとはついてない。

情勢が大きく動き出すだろう。

王家に、ウェスト侯爵家………

まさかお前の時代に『白き魔女』が復活するとはな。

リアムがお前の最大のライバルになる。

言っている意味はわかるな?」


「………」


俺は頷く事しか出来なかった。


もっと早く兄上と話していれば何かが変わっていたのだろうか………


5年前、初めて出会った頃に戻れたらアイシャとの関係も変わったのだろうか………


苦い後悔だけが残っていた。

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