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19.決意【リアム視点】


夢に向かって足掻けば将来何かが変わるかもしれないか………


私はアイシャと別れ帰路に着いた馬車の中で彼女の事を考えていた。


彼女が言った言葉は夢物語だと思う一方、心のどこかでは信じたいと思う気持ちがあった。

本当に夢に向かい足掻けば何かが変わるかもしれないと思わせるだけの説得力がアイツの言葉にはあった。


確かアイシャに初めて会ったのは、アイツが7歳の誕生日だったな………


父親からの命令でリンベル伯爵家の令嬢の誕生日パーティーに参加するように言われ、嫌々ながら参加したのを覚えている。当時10歳だった私ですら、この誕生日パーティーが婚約者候補を見定めるため開かれる事はわかっていた。


リンベル伯爵家は王妃が嫁いだ家と言うだけでなく、特殊な事情を持つ貴族家なのだ。そのため伯爵家であるにも関わらず侯爵家や公爵家との付き合いが深く、そのため高位貴族と繋ぎを持ちたい他家との橋渡し役も務めている。


あの日も気乗りせずリンベル伯爵家へ向かったが、煩いハエ共から逃げるためルカ王太子とダニエルと共に四阿で時間を潰していた。

その時、生け垣からこちらをこっそり覗く令嬢を見つけた。たぶん王太子とダニエルの位置からは死角になっていて気づかなかったのだろう。

興味本位で声をかけた令嬢がまさかアイシャだとは思わなかった。しかも令嬢が四つん這いで逃げようとしているなんて、今考えても笑える。

しかし、私が声をかけた後、たかが7歳の令嬢が毅然とした態度で言い返してきたのには驚いた。

………そう、あの時からアイシャは変わった令嬢だったんだ。


会う度に印象が変わっていく令嬢も珍しい。王城で何故か追われているアイシャに巻き込まれた時も、馬車から顔を出し大きな声で礼を言い、走り去ったアイツの笑顔が今でも頭から離れない。


そして今日言われた言葉が何よりも深く心に突き刺さった。


………俺は騎士になる夢を諦めなくてもいいのだろうか?

足掻いてみる価値がまだあるのだろうか………?





「リアム様、お帰りなさいませ。執務室にて旦那様がお待ちです」


エントランスにて私を出迎えた執事から伝えられる。


また同じ事を言われるのかと思うと、気分がどんどん沈んでいく。


「………あぁ、今行く………」




『トントン』


「リアムです。執事からお呼びと聞きましたが」


「………あぁ、リアムか………

今日は随分と遅かったようだが、まだ騎士団なんぞの練習に参加しているのか?」


「………えぇ、まぁ………」


目の前の執務机に頬杖をつきこちらを見つめる父上の目つきが鋭くなる。

相変わらずの威圧感に背筋が冷たくなってくる。


「以前から言っていると思うが、お前はウェスト侯爵家の跡取りとしての自覚があるのか?騎士団なんて野蛮な奴らの集まりではないか。考える事を知らぬ馬鹿ばかりが集まったな。代々ウェスト侯爵家は多数の宰相を輩出して来た知の名門だ。もちろんお前も将来は私の跡を継ぎ、後々は宰相になるつもりだろうなぁ?

そのつもりがあるなら、さっさと騎士団を辞めて本気で勉学に励むべきだ」


ウェスト侯爵家は知の名門………

貴族社会ではよく知られた通り名だ。


もの心ついた頃から跡取りとして厳しく教育を受けてきた私は、神童と言われる程の膨大な知識を身につけていった。しかし、それと同時にかけられる両親や周りからの期待が重くのしかかり、いつしか毎日が憂鬱でつまらないものへと変わって行った。


そんな時、王太子の側近候補として度々行っていた王城で、当時すでに騎士団に所属していたキースに出会った。初めての出会いは、王太子と共に受ける予定だった授業をサボるつもりで王城の裏手にある林で昼寝をしていた所に、慌てた様子のキースが飛び込んで来たのが出会いだ。


寝ていた私に蹴つまずきそうになり、無理矢理軌道を変えた結果、地面に転がったアイツに声を掛けたのが最初だった。


騎士団の練習に遅刻するとかで慌てていたアイツとは、ほとんど話す事もなく別れたが、あの日以来キースとはよく話すようになり、いつしか騎士団の練習に無理矢理参加させられてしまっていた。


それまで剣を握る事もなかった私にとって騎士団での訓練は未知の体験で、無心で身体を動かす爽快感にいつしか夢中になっていった。


剣を握り無心で振っている時だけが、憂鬱でつまらない毎日を変えてくれた。


あれから数年………

騎士団に所属している事が父に見つかり、ことある毎に辞めるよう叱責される日々、今までのらりくらり躱して来たがそろそろ決着を付けなくてはならない。


アイシャの言葉が脳裏に浮かぶ。


夢に向かって足掻けば将来何かが変わるかもしれない………


「父上にお話があります。

私は騎士団を辞めるつもりはありません。しかし、それでは父上も納得されないでしょう。

騎士団を辞めない代わりに、父上の望み通り次期宰相になれるよう努力致します。必ずやウェスト侯爵家の知の名門の名に恥じぬ業績を遺します。」


「騎士団に所属しつつ、他の者達よりも豊富な知識を身につけ頂点に立つ事は並大抵の努力では無理であるぞ。それでも、両立させて見せると言うか?」


「えぇ。やる前から諦めるのは性に合わないので。

かつて神童と呼ばれた私の実力とくとお見せ致しますよ」


「………あぁ、わかった。好きにすればいい。

但し、両立出来ないと判断した時点で騎士団は辞めてもらう。よいな?」


「わかりました」


アイシャの言葉が父上に立ち向かう勇気をくれた。

一歩前に進む力を………


父の執務室を退室し私室へ向かいながら心の中でアイシャへ感謝の気持ちを呟いた。








………やっとリアムも本気になったようだ。

どんな心境の変化があったものやら?


ここ数年のアイツは全くやる気もなくどうしたものかと思っていたが………

ナイトレイ侯爵もたまには良いことを言うではないか。


………人間好きな物ほど禁止されると刃向かいたくなるものだ………


騎士団を辞めるよう叱責した事でリアムの闘争心に火をつけたようだ。


かつて神童と呼ばれたリアムの本気、今後が実に楽しみだ。


執務室でひとり祝杯をあげるウェスト侯爵のご機嫌な鼻歌はいつまでも続いていた。


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