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18.夢と現実の狭間で


「おーい。寝てても強くなれないぞぉ。

俺はすぐ辞めてもいいんだけど」


キースに敗北を期してから数週間後、師匠の許可も得てリアムとの稽古が開始された。そして、リアムから受ける実践稽古は想像を絶していた。


………リアムは鬼だった………


早くも協力を求めた事を後悔し始める私の不甲斐なさに歯を食いしばり立ち上がる。


いかに師匠が手加減して教えてくれていたかがわかる。足や腕を模擬刀で打たれる度に走る痛みに顔を歪め、地面に転がされれば肩や背中が痛みを訴える。

笑いながら繰り出される緩急をつけた剣技は、はっきり言って容赦ないが、手加減されている事もわかる。


「………まだまだよ………」


フラフラする足を叱咤し、走り出しリアムに向かい剣を振り下ろす。


『ガッ!………ドンっ………』


片手で私の剣を受けたリアムに押され吹っ飛ばされる。荒い息をつき仰向けに倒れ込んだ私は、もはや剣を握る力も残っていなかった。


「アイシャ、大丈夫か?」


「大丈夫じゃないわよぉ」


全く起き上がれない私を抱き上げたリアムが、芝生の上へと寝かせてくれる。


………もう、一歩も動けないわぁ………



「なぁ。アイシャは何で辛い思いまでして剣を習っているんだ?

伯爵令嬢なら別に剣を習わなくたって護衛を雇うことだって出来るし、リンベル伯爵家なら高位貴族との付き合いも多いだろうから警備は万全なんじゃないか?

家の中で命を狙われる様な事があるなら別だろうが、リンベル伯爵家の家族関係は良好だと思うけど。

何しろダニエルがいる時点で間違っても家の中で命を狙われる様な事にはならんだろうし」


………まぁ、確かに伯爵令嬢が剣なんて習う必要は全くないわよねぇ。


ここで、騎士団の練習を間近で見て妄想パラダイスに浸りたかったなんて言ったら完全に変人扱いだろうなぁ~


「確かに伯爵令嬢は剣を習う必要なんてないわよね。

強いて言うなら将来の自分の為かしらねぇ~

たぶん未来の私は自分の身は自分で守れるようにならなくてはいけなくなるから」


「はぁ~?それこそ必要ないだろう。

平民にでもならない限り、リンベル伯爵家から嫁ぐ家の候補は高位貴族ばかりだろう。嫌でも護衛がつく事になるぞ。」


「………だって、結婚するつもりないもの」


「お前何言ってんだ⁈

貴族令嬢が結婚せずにどう生きて行くつもりなんだよ?」


「それこそ偏見じゃないかしら。

貴族令嬢は結婚して当たり前って言う考えが古いんじゃないの?

私は自分の夢や趣味を捨ててまで、意思にそぐわぬ結婚をするのは絶対に嫌なのよ。そのために今から出来る事はやるの。将来の自分に必要だと思えば剣だって握るし、勉強だって疎かにしないわ。

リアム様だって自分の夢のためなら何だって頑張れるでしょ?」


「アイシャみたいに考えられる者の方が少ないよ………

誰しもが何かしらの(しがらみ)に囚われているものだよ。その柵に囚われ夢を捨てる者が多いのが現実だ」


「リアム様は悲しい事を言うのね。

確かに誰しも、柵に囚われているものね。私だって伯爵令嬢っていう柵に囚われてる。でもねだからって夢まで捨てる必要はないと思うの。

私はまだ10歳よ。これからの人生どうなるかわからないし、今夢を捨てて柵に囚われて生きるなんてつまらない。大人になって夢と現実は違うんだって思い知らされるまで足掻いてみたいのよ。

………でないと後悔するもの………

夢に向かって足掻けば将来何かが変わるかもしれないじゃない!」


前世の私は29年という短い生だったけど、趣味に仕事に、自分のやりたい事はやって来たつもりだ。

幸せだったかと言われれば、胸を張って幸せだったと言える。


確かに貴族社会は幼い私が想像する以上に柵に支配されているのだろう。しかし、たった10歳でそんな事に囚われ生きるなんてつまらい。

今世も私は自分の趣味に生きると決めたのだ。

前世のように人生いつ何が起こるかわからない。

だからこそ悔いのないよう、私は心のままに生きたい………





「夢に向かって足掻けば将来何かが変わるかもしれないか………

俺も何かが変わるのだろうか………」


「………えっ?何か言った?」


「いや、何でもない。

そんな事よりひとつアドバイスをやろう。お前の持ってる剣、こっちにしてみな。

これは、護身用に使う短剣なんだけど長剣より軽くて扱いやすい。

女性は小さくて身軽だから男の懐に飛び込めば短剣でも致命傷を与えられる。

護身術を身につけるならこっちの方が向いてる。

………姑息な手段を繰り出すのにもな」


目の前に差し出された短剣は確かに軽く扱いやすそうだ。


「やるよ!刃を潰せば練習用になる」


爽やかな笑顔で私を見つめるリアムに頬が熱くなる。


そんな笑顔も出来るなんて、ずるいわぁぁ………


私は赤くなった顔を隠すように手で顔を覆った。

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