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17.赤髪あらわる


練習場を駆け出した私は涙を堪える事が出来なかった。

泣きながら走り続け人気(ひとけ)のない宿舎裏の林に逃げ込むと膝を抱え声を殺して泣き続けた。


なによなによなによぉぉぉ………

貴方に言われなくたって自分の実力くらい分かってるわよ!

師匠に迷惑をかけている事も………


それでも3年間続けたのには理由があった。


確かに始めは男同士の色んな意味での熱い戦いを見たいという不純な動機だったが、毎週真剣に教えて下さる師匠とのやり取りや徐々に上手くなる剣の扱いに、私の考えも変わっていった。


始めは振る事すら出来なかった剣が、毎日の基礎練習と地道なトレーニングで身体を鍛え続けた結果、徐々に扱えるようになって来た事で芽生えた喜びと共に、いつしか剣を学ぶ事で新たな将来の展望を描く様になっていた。


本気で手に職を持ち一人で生きて行くには護身術を学ぶ必要がある。伯爵家を出て、ただのアイシャとして生きるには自分の身は自分で守らねばならない。


ここで学ぶ剣が将来必ず役に立つ時が来る。私は自身の将来のため、自分の未来を掴むため、辛くとも3年間剣を握り続けてきた。

その努力をあの男は切り捨てた。


………許せない………許せない………


でも何よりも許せないのは、あの男に全く歯が立たなかった自分自身だ。


あの男の殺気のこもった目に無様に倒されたまま起き上がる事も出来なかった。


負け犬のままでいいのか!


私の中の怒りが闘争心へと切り替わる。





「お前、アイシャなのか?」


突然名前を呼ばれ伏せていた顔を上げると、目の前には赤髪のアイツが夕陽を背に立っていた。


「………リアムなの?」


「やっぱりアイシャか………

お前、こんな人気のない所にいたら危ない!来い………」


腕を掴まれ引き上げられそうになる。


「やめて!ほっといてよ‼︎

貴方には関係ないでしょ‼︎‼︎」


掴まれた腕を離そうと暴れ出した私の両手を掴み抱き寄せられた。


「少し落ち着け………」


耳元で囁かれた優しい声に力が抜ける。

そして顔を覗き込まれ………


「お前、泣いて………

どうしたんだ?何があった?」


私の顔が歪み止めどなく涙が溢れる。


ヒックヒックと泣き続ける私を抱きしめリアムは落ち着くまで背を撫で続けてくれた。




「………ははは………

俺はてっきり誰かに襲われたのかと思ったよ。服は泥だらけで髪はボサボサ。

………ぷぅ………くくっ、顔も汚れてるしなぁ」


「そんなに笑うことないでしょ‼︎

しょうがないじゃないキースに吹っ飛ばされたんだから‼︎‼︎あぁ、全身痛い………」


腹を抱えて笑うリアムをジト目で睨む。


あの後、私が泣き止むまで何も言わず背を撫で続けてくれたリアムに今日の顛末を全て暴露させられてしまった。


「それにしてもアイシャが剣を学んでいた事にも驚いたが、あのキースが剣を習いたての、しかも令嬢を容赦なく吹っ飛ばした事の方が驚きだ。

アイツは騎士団の中でも後輩たちには慕われ、教えを乞われれば丁寧に教えてやってる。自分より弱い者を無闇矢鱈に吹っ飛ばすような事はしないんだが?

お前キースの逆鱗に触れる様な事したのか?」


私の脳裏に脱衣所での事が浮かぶが………

違うでしょうねぇ………


あの憎悪と殺気は本物だった。


「さっき師匠に紹介されたばかりよ!

何で殺気のこもった目で見られ、理不尽な事を言われなきゃならないのか全くわからないわよ!

あぁ、悔しいぃぃぃぃぃ………

どうにかアイツに一矢報いたい‼︎」


「はは、それこそ無理だろうなぁ。

キースは最年少で部隊長補佐に任命される程の実力だぞ。剣を習い始めたばかりのひよっこが敵う相手じゃない。

まぁ、アイツの剣は正統派だから、姑息な手段をつかえば、運が良ければ当たる可能性もあるがなぁ。

お前じゃ無理だ。」


「貴方、確かアイツと幼なじみだったわね?

アイツの剣技にも詳しい………」


………獲物を見つけた。


「リアム様、わたくしどうしてもキースに一矢報いたいの………

負け犬のままでは、わたくしの自尊心が傷ついたままだわ。女性の涙を無理矢理見た貴方は私のピュアな心まで傷つけた」


私は手を握り引きつった顔のリアムの瞳を見つめ一粒涙をこぼす。


「お願いです!わたくしに剣を教えてください」


「いや、俺関係ないだろう………

それにお前ルイス副団長にも教えを乞うているじゃないか。俺にも習うのはマズい」


引きつった顔のリアムが逃げをうつ。


「大丈夫ですわ!師匠にはわたくしから伝えます。リアム様にはぜひキースを倒す姑息な手段を習いとうございます!」


「あぁ、すでに姑息な手段を使って勝つつもりだし………」


「リアム様は、キースの事を熟知しておられます。アイツを倒すためにぜひ協力くださいませ」


私はリアムの胸に飛び込み上目遣いでお願いしてみた。


「………あぁぁぁぁぁぁぁ………

分かったからひっつくなぁぁぁ………」


私は若干顔が赤いリアムから協力をもぎ取る事に成功した。


………第二の師匠ゲット!


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