16.青髪あらわる
師匠をゲットしてから3年、私の剣の腕前はというと、まぁそこそこ見られる様にはなってきた。
剣を習い出した理由が、騎士団本丸の熱い肉弾戦を間近で見たいというかなり不純な動機の割には成長していると思う。それに師匠ことルイス・マクレーン様の屈託ない笑顔を見られると思えば頑張れるものだ。
課題をクリアした時の頭撫で撫でに目の前に広がる嬉しそうな笑顔。
キュン死にするぅぅぅぅ………
まぁ~ルイス様には愛する奥様がいて私の目から見ても糖度100%の甘々カップルな二人の姿を練習開始初日に目撃した私の恋心は呆気なく散ったのだが。
でも好みのタイプは好みのタイプな訳で半年経った今も毎週キュン死にさせて貰ってます!
今日も王城の門扉に着いた私は例の侍従とアイコンタクトを取ると、顔パスでエントランスを抜け、練習場へやって来た。簡素なワンピースで王城内を闊歩する私は、不審者そのものだったが誰も止める事はしない。三年間で築いた使用人の皆様との信頼関係は良好だった。
練習場に着き、練習着に着替えるためその足で簡易脱衣所へと向かう。始め師匠は掘立て小屋の様な建物内で女性が着替える事に難色を示し、少し離れた宿舎の女性脱衣所を勧められたが早々にお断りした。
だって面倒くさい。
着替えるのは、他の子供達が練習している間で、誰も10歳の子供の身体見たって欲情しないでしょうに。
まぁ~29+10歳のおばさんの身体でも誰も興味ないかぁ~
残念な事にアイシャは自己評価がこの上なく低かった。
傍から見たら真っ直ぐ伸びた蜂蜜色の髪にコバルトブルーの瞳はつり目がちだが、大きな瞳はキラキラと輝き、仔猫のようで愛らしい。そして、ぷっくりとした唇はピンク色で少女なのに妙な色気を醸し出す。地上に降り立つ悪戯な小悪魔のような容姿は見る者が見ればヨダレが出そうなほど魅力的だろう。
騎士団での練習に参加している男子の中にも密かに恋心を寄せている者は大勢いた。思春期男子にとって毎週会えるアイシャの存在は最早アイドルと化していた。
練習場に現れたアイシャの存在をいち早く察知した者達の剣が乱れる。
そんな様子にため息をついたルイスの怒号が響き渡るのもお決まりのルーティンだった。
『アイシャ、頼むから宿舎で着替えてくれ………』
健全な青少年の性をこれ以上刺激しないで欲しいと願うルイスの声がアイシャに届く事はなかった。
『ガチャ』
私は簡易脱衣所の扉を開け、いつも通り一番奥に設えられた個室に向かい扉を開けると………
「………っ‼︎」
目の前には綺麗に筋肉のついた裸体(背中)が目に飛び込んでくる。
「なっ!お前誰だよ‼︎」
私が扉を開けた音に気づいたのか背を向けていた男子が振り返った。
………はぅっ、見事なシックスパック❤︎
私は目の前の芸術的な腹筋に釘づけで気づいてなかった。
「………ふぇ⁈………あっ!」
目の前の彼と目が合う。
………あっ、青髪の彼だ………
「しっ、失礼しました‼︎」
私は開けた扉をおもいっきり閉めると脱兎の如く逃げ出した。
………あぁ、美少年の着替えシーンを覗いてしまうなんて………
………破廉恥な………
練習場を全速力で駆け出した私に注目する練習中の男子を無視し、一目散に逃げる。
あんな尊いもの、マジ鼻血ふくぅぅぅ………
青髪の美少年の裸体(上半身)がクルクルと頭の中を駆け巡り、本気で鼻血を噴きそうになった私は、その日初めて宿舎の女性脱衣所に駆け込む事になった。
何とか頭の中の煩悩を打ち払い、急ぎ練習着に着替え飛び出すと、すでに少年達の練習が終わり手持ち無沙汰で私を待っていた師匠へと駆け寄る。
「師匠遅くなり申し訳ありませんでした!」
あぁぁ、青髪の彼がいるよぉ………
先ほどの光景が脳裏をチラついてまともに顔が見られない。
………気まずい………
「アイシャ!今日は君に紹介したい人がいる。」
師匠の斜め後ろにいた青髪の彼が鋭い視線を向け一歩近づく。
………睨んでるぅ、怖い………………
さっきの事怒ってるのかなぁ?
「コイツはナイトレイ侯爵家のキースだ。因みに俺の歳の離れた弟だ。君の練習相手に丁度良いと思ってな。」
「えっ⁈師匠の弟君でいらっしゃいますか。
でも師匠はマクレーン伯爵家では?今、ナイトレイ侯爵家って言いませんでしたか?」
「あぁ、俺はマクレーン伯爵家に婿入りしたからな。
まぁ~そんな事は置いといて。
アイシャもだいぶ基礎が出来てきたからそろそろ実践をとな。コイツの腕は騎士団でも通用する。良い勉強になるだろう。」
「そうでしたのぉ。
…あ、あの………わたくしリンベル伯爵家のアイシャと申します。
練習にお付き合い頂きありがとうございます。」
「………」
………………ガン無視かよ………………
苦笑をもらす師匠が執りなして下さるが、目すら合わせようとしない。
「まぁ~いい。
二人とも構えて………はじめ‼︎」
………一瞬だった………………
気づいた時には数メートル吹っ飛ばされ地面に背中から叩きつけられていた。
ゆっくりと近づいて来た青髪に真上から睨みつけられ、殺気を帯びた視線に息が止まる。
「遊びで剣を握るならさっさと辞めろ!
兄上にも迷惑だとわからないのか………
お前の存在自体が目障りだ‼︎」
憎悪がこもった目で吐き捨てられた言葉が胸に突き刺さる。
身を翻し立ち去る青髪に代わり師匠が優しく抱き起こして下さった。
「大丈夫か?」
「師匠、今日の練習はこれにて失礼致します。」
私は涙を堪え、それだけ言うと師匠の許可も得ず駆け出した。




