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15.在りし日の想い【クレア視点】


………彼女は今どうしているのだろう………

何処かの世界に生まれ変わって幸せに暮らしているのだろうか。


騎士団の見学が終わりアイシャと別れた私は私室への帰り道、鮮烈に残る在りし日の記憶を辿っていた。


アイシャに会った日は必ず彼女の事を思い出す。

たぶん前世の記憶なのだろう。

まだ私が日本という国の中堅企業で働いていた時の記憶が甦る。


あの王城で開かれたお茶会。

あの日、あの時………

アイシャに頬を打たれた時、私は全てを思い出した。


一気に脳に流れ込む知らない世界の映像を何故か納得をして受け入れていた。

知らない場所と見たこともない人々。

私の頭に流れ込む映像を懐かしい気持ちで眺めた時、理解した。

この映像が私の前世なのだと………


あの時、私が『桐山梨花』として生きた記憶を全て思い出した。


前世に未練がある訳ではない。ただ、僅か数年だったが、一緒に働いた親友の事だけが心残りだった。


私の親友だった『若葉』


彼女とは中堅企業だった商社の開発部門の同期だった。元々男性社員の多い会社の中、開発部門は花形で私と若葉以外は皆男性社員という環境だった。

同期で同じ部署、しかも女性は二人だけという環境で若葉とは友達以上の関係、親友のポジションになるのに時間はかからなかった。


元々男勝りな性格だった私は、男社会に順応するのも早くわずか3年でプロジェクトリーダーを任される様になっていた。


一方若葉はというと、仕事は出来るが引っ込み思案な性格が災いした。

開発部門と言えども、他社へ商品のプレゼンをしたり、営業並みに接待をしなければならない場面は多く、口下手で色気のひとつもない彼女は、なかなか結果に結びつかず苦労していた。


分厚い眼鏡をかけ、お洒落にも全く興味がない様子の若葉。


いつだったか同僚の男子が呑みに若葉を誘った事があったが、即答でお断りをしていた。その理由も大切な趣味の時間を潰されたくないという女としては終わっている解答を叩きつけていた。


あの調子だと彼氏が今まで出来た事もなかっただろう。完全にヲタク娘だったようだ。


上手く立ち回る事が苦手だった彼女は、仕事は出来てもなかなか上司の評価が上がらず万年苦労していた事を覚えている。


そんな若葉との関係が大きく変わる出来事が起こった。


入社して5年目の春。

夏の新商品に向け冬から動いていたプロジェクトリーダーに抜擢され、最後の追い込みに入っていた。

毎日忙しく働く中、競合他社からほぼ同じ商品が近々発売されると言う情報がリークされた。

はっきり言ってあり得ない事だった。進めていた情報は社内でも極秘プロジェクトで、発売予定だった商品は業界初の物だった。会社内の情報を競合他社に流した人物がいる事は明白だった。

私はその事実を当時直属の上司だった課長に話した。

それから数週間後、部長室に呼び出され伝えられた事実に驚愕する事になる。


課長こそが競合他社へ情報を流した犯人だったのだ。


私は、会社にある取り引きを持ち掛けられた。犯人である課長は巧妙に企業スパイである事を隠し、知り得た重要機密を様々な競合他社へ流しているという。会社側も証拠が揃わない現段階で摘発する事が難しい状況だった。

今回の騒動を利用して課長の尻尾を掴み解雇に追い込むため、泥を被り槍玉に上がって欲しいと言われた。もちろん退職後は、関連会社の課長の席を用意すると。

以前から直属の上司だった課長に不信感を抱いていた私は二つ返事で承諾した。


それからは怒涛の日々だった。競合他社から似た商品が発売され、私がプロジェクトリーダーを任された新商品は販売を目前に中止に追い込まれた。プロジェクトが頓挫した事を課長に叱責され、私の悪評はあっと言う間に会社内へ流れた。 

退職までの日々は、有りもしない噂が社内に蔓延し辛い思いもしたが、新しい会社で課長として再就職し、以前よりやりがいのある仕事を任され死ぬまで幸せな人生を送った事を覚えている。


退職するまでの日々、同僚や部下から冷たい目で見られる中、若葉だけは違った。


毎日心配そうに私を見つめる瞳…………

いつだったか私の悪評に踊らされ陰で口々に罵る同僚を叱責していた若葉を見かけた事があった。

あんなに口下手だった若葉が必死に私をかばう姿に私の心は罪悪感でいっぱいだった。

結局私は若葉に何も言わずに会社を去ってしまった。


あの後、風の噂で課長が不正で会社を解雇になった事を知った。そして、課長を解雇に追い込んだ立役者の一人が若葉だったと言う事も。


………若葉に謝りたかった。

しかしそれは叶わない………


『若葉は死んでしまったから』


今でも残る後悔が私の胸を締めつける。


7歳までの傲慢なクレア王女としての記憶はしっかり残っている。


下位の者達を虐げる姿が、前世の私を罵倒し尊厳を傷つけた課長の姿に重なる。


そんな私を諫め導いたアイシャの存在は、弱い者を(かば)い立ち向かった若葉を思い出させた。


あの日、あの時、私が前世の記憶を取り戻したのには何か理由があるのだろうか?


今でも、もう一度若葉に逢いたいと思う。


そんな願望がアイシャと若葉を重ねるのだろうか………


今世はアイシャに恥じない人生を送りたいと思う。


私は若葉への想いを胸に私室の扉を閉めた。

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