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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第四部 南方騒擾
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解き放つ者

 マルドゥム達がリンクスを救出し、数日が経った頃。




 「逃げられた?」

 カザイアの酒場でサルクは一人、兵士からの報告を聞いている。

 サルクは時間が惜しいのか、昼食を()りながら。


 「は。メルトハイヤまでは追い詰めたのですが」

 途中、謎の一団が妨害を、と兵士。



 ――まずいな。

 謎の連中が何者なのかは気になるところだが、それよりもリンクス・フォルトッドを逃がしたことの方が重大だ。



 ――まさかあんな方法で逃げるとはな。

 壁に空けた極小の穴から魔力を体内に充填(じゅうてん)してからの転移(ジャンプ)



 それを聞いた時、サルクは思わず(うな)った。



 ――流石(さすが)、王国(いち)の魔導師。



 リンクスを拘束しておきたかったのは近いうちに始まるであろうマルフォントとの戦いに()いて、こちらが優位に立つための手段だった。何より、彼は王国一の魔導師だ。この辺りの薄い魔力濃度でも大魔法を難なく撃てるだろう。



 また、マルフォント王との親交も厚い彼なら、人質として十分こちらの盾になってくれたに違いない。



 つまり、いま逃げられたと言うことはそれだけこちらの勝率が下がったことを意味する。



 「サルク様?」

 取り逃がした引け目か、おどおどと聞いてくるその兵士を怒鳴りつけたい衝動に駆られるサルク。だが、|苦言の(たぐい)はステーキと一緒に飲み込む。



 ――責めたところで何も解決はしない。

 組織を円滑に回すためには他者に批判的では駄目だ。サルクにはよく分かっている。



 部下を批判しない、過ぎたことを反省はさせるが問責(もんせき)したりはしない――それらは、サルクが常日頃(つねひごろ)心掛けていること。


 

 「で、何処へ逃げたかの見当はついているのか?」

 「恐らくですが、王都へ向かったと思われます」

 ――まぁ、そうだろうな。



 「誰か()いているのか」

 取り押さえられないまでも、尾行はつけたのか、とサルク。



 「いえ、それも……」

 何となく予想していたその返答。サルクは努めて何でもない顔をし、兵士を下がらせた。



 グラスに半分ほど残っていた水を飲み干す。



 ――まあ王都、そしてカナーティへ、だろうな。

 軽く音を立ててカウンターにグラスを置いた。




 その音で自分がほんの少し苛立っていることを自覚するサルク。

 いずれマルフォント王が攻めてくる。その時、側にリンクスがいるかいないかで勝率は大きく変わる。



 ――だからこそ捕らえたかった。

 心の中で歯噛みする――が、もう遅い。



 ――次を考えなくては。

 マルフォントを、ゼルスタン王軍を退(しりぞ)ける自信は、ある。だが、ただ追い返すだけではだめだ。



 ――完膚なきまでに叩き潰す。

 それこそ、もう二度とカザイアを攻める気を無くす程に。

 だがリンクスを取り(のが)し、もう完璧な作戦にはならない。



 ――それでも。

 戦況が不利になれば、どんな手(・・・・)を使っても(・・・・・)勝利をもぎ取る。




 それがどんな悲惨な状況を招こうとも、オーガはゼルスタンを捨て、前に進むのだ。もう、人間に首根っこを押さえられることのない自由な国を実現する――その為に。



 ――すべての責めは。

 自分が背負う。



 酒場の主人に合図し、金を払って店を出るサルク。



 ――俺は、オーガを解き放つ。

 その為に生まれたのだ――(サルク)はそれを信じ、疑わない。

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