道中
メルトハイヤを出て数日。
マルドゥム一行は途中の町に必要最低限宿泊し、それ以外の時間はずっと移動を続けていた。
春も終わり、雨季が近い。
「あぁ。お風呂に入りたい……」
馬車に揺られぽつりとティアナが呟いた。
「そうねぇ。こうじめじめしたのではやってられないわね」
同調するケア。
彼女はティアナの向かい側に座り、やや退屈そうだ。ケアの隣に座るユーザーンは、先程からうたた寝をしていた。
「我慢しろ。もう少しで次の街に着くからな」
御者台からマルドゥムの声。
ティアナは答えない。代わりに、御者台に声をかける。
「フォルトッドさんは、今の季節、お好きですか?」
マルドゥムの隣で馬車に揺られていたリンクスは不意をつかれたのかいささか戸惑った声を出す。
「や、別に季節など意識したことはないな」
「でも、暑いか寒いかくらいは?」
「それも特にはな」――とりつく島がない。
――うーん。何か他の話題は……。
ウードの話題は、マルドゥムが出会った夜に行方不明であることを告げて、それいらい皆無だ。
こちらから触れて良いものか、とティアナが思案していると。
「学舎で仲が良かったのかな、トゥードとは」
「え、ええ。同じクラスで、たくさん話をしました」
「そうか、トゥードにこんな綺麗な友達がいたとはなぁ」
今度はティアナが戸惑う番だった。
「ご子息は、心当たりは?」
マルドゥム、前方に視線を固定したままで。
「あると言えば、ある、が……」
リンクスは押し黙り、そのまま沈黙した。
馬車の車輪ががらがらと回る音だけが響く。
「我々には話せないことのようですね」
察したようにマルドゥムが言葉を繋いだ。
「――すまない、まだ……」
頭の整理が着いていないのだ。
きっと、時が来れば話す、とリンクス。
彼は続けて。
「あなた達には捜索を手伝ってもらいたい」
ぽつりとそう締め括った。
――勿論。
ティアナは心の中で深く、深く首肯する。
「ところで、オーガの話、本当でありましょうか」
ティアナの隣に座るクラストが話題を変える。
「――ああそうだ。彼らは王国を脱けた」
「どうなさるのですか、フォルトッド殿は」
「どう、とは?」
「王国はオーガに軍を差し向けるでしょう。同行されるおつもりですか?」
「いや、どうかな……」
てっきり回答は肯定だと思っていた一同は不思議そうにリンクスを見る。
リンクスは何となくトゥードの失踪に王が関わっているのではないか、と思っている。
それはあの夜、最初の魔法蝶が見せてくれた映像から導かれる、はっきりしない勘のようなもの。
月夜に輝く少女の喉元、その銀鱗。
――あれを見過ごす王ではないだろう。
それを問い質したかった。
――世界のどこかにいるトゥードに、あの連絡蝶は届いただろうか。
もし届いていれば、彼は恐らくカザイアを目指す。
――あの少女も、かもしれぬな。
だが、カザイア地方に留まるのはリンクスには得策だと思えなかった。それよりも一か八か、一度カナーティに戻り、装備を万全に整え、カザイアに引き返した方が分がいいとリンクスは判断した。
――王に訊くこともある。
マルフォント王がカザイアに攻め込むとして、まだそれまでには時間がある、リンクスは高を括っていた。
――大部隊の編成がそんなに早く終わるわけはない。
「悪いがとにかく今は急ごう」
リンクスはマルドゥムにそう告げる。
「ええ、そうですね」
リンクスのただならぬ気配に圧されたように、マルドゥムは手綱を引き絞った。




