鳥のように
お待たせしました。
四部の開幕です。
やっと書き終えた……。
ティアナは、最初から彼を意識していたわけではない。
ただ、同じクラスになって長いが彼と話をしたことがないな――と、ある日気付いたのだ。
ティアナはその頃、誰とでも仲良くすることを自分に課していた。
――沢山の友達と、楽しく学舎で過ごしたいから。
もともと彼女は社交的で、華やかな顔立ちとも相俟ってその課題はほぼ達成されていた。
ただ一人、トゥード・フォルトッドを除いて。
「ねぇ、フォルトッド君。最近、どうして窓の外ばかり見ているの?」
クラスの自分の席、頬杖を突いて窓の外を見ていたウードは、さいしょ彼女の声が聞こえていないようだった。
自分の世界に引き籠もって出て来ないつもりなのかしら――ティアナ、そんな感想。
ウードは、やがて自分の机の前にとても可愛らしい女の子が立っているのが目に入り、驚き、頬杖をやめて彼女を見上げた。
「な、なに?」
「ごめんなさいね? あたしは――」
「ええと。ティアナ・ロクスさんでしょ?」
――まあ。
ティアナは頷き、同時に少なくない驚きを抱く。
彼の普段の行動から見て、クラスメイトの名前など全く興味がないように思えていたから。
「フォルトッド君、さいきん毎日そうやって、何を見てるの?」
「え?」
「窓の外に、何かあるの?」
言って、ティアナはウードと視線を合わせるべく彼の後ろに回り込み、屈んでみる。顔が並び、窓の外、二人は視界を共有する。
「ち、ちょっと?」――戸惑うウード。
「あ――」
学舎の校庭、その隅に立つ一本の大きな樹。
その中程に、注意していなければ見落とすような、小さな鳥の巣が見えた。
「多分、今日辺り……」
ティアナのすぐ近くで聞こえた少年の声。
それにタイミングを合わせるようにして。
二羽の鳥が、空高く舞い上がる。
「ああ良かった。ちゃんと、飛べた……」
安堵した声の少年。その横顔――余りに柔らかで優しい顔。ティアナ、どきりとする。
「フォ、フォルトッド君?」
「や。ちゃんと飛べて良かったなって」
――呆れた。毎日ずっと、あれを見てたの?
変な人だとティアナは思う。ただ、そこまで対象に没頭することなどあたしにはないな、とも思った。
「ロクスさん、ごめんね。僕に何か用?」
「え? ええ。窓の外を、君があんまり真剣に見ていたものだから気になって」
「あれ、そんなに見てた?」
「ええ。このところずっと」
「そっか」――ウードは頭を掻いた。
「あの鳥に何か思い入れでも?」
「ううん。偶然見つけただけなんだけど、何だか気になって」
ウードはにこりとして、またティアナをどぎまぎさせた。
それから少しずつ彼と話をするようになって、あたしはクラスの全員と友達になり『課題』をやり遂げた。
でも、その内に分かったのだ。
楽しく学舎での生活を送りたいから、たくさん友達を増やしたいなんて事、彼の前では無意味だった。
彼が見ている世界、彼の視点、目の付け所――その全てがあたしには新鮮で。
あたしも、彼と同じもの、見たいと思って。
――彼から目が離せなくなるのに時間はかからなかったなぁ。
隣で静かに眠る父親が寝返りを打つ。あたしは今日、眠れそうにない。
――ウード、君は眠れてる?
天井に問いかけて、とにかくあたしは目を閉じた。
それから、あの時見た鳥のように今すぐ君の元に飛んで行ければと、切に願った。




