開戦の朝
多くの死者を出しながら、辛くも敵を退けテト達は生きて帰国する事ができた。因みに、テトが指揮してからの王軍の死者はゼロであった。
帰国したテトはすぐにマルフォント王に呼び出された。
執務室で、報告を聞いた王は彼に頭を下げた。
「お、王よ――そんな」
「よく、王国の危機を救ってくれた。礼を――言う」
――不思議な王だ。
こんなことで一兵卒にまで頭を下げていたら、いつか足りなくなりますよ――。
テトは心の中で軽口を叩いた。
それからテトは中隊長に出世し、たびたび王に――呼び出されている。
今日も、執務室でマルフォント王はテトを迎える。
「王よ、こう――頻繁では」
通常の業務に支障が出ます――何度も呼び出され対話をするうち、王への言葉遣いが砕けてきたのはしょうがないとテトは思っている。
「まあそう言うな、合法的にサボれるのだ、悪くないだろう?」
こちらの事情などお構いなしのようだ。テトに負けず劣らず、王の口調もざっくばらんだ。
「ところでテトよ。俺は決めたぞ」
四十代半ばのマルフォント王は快活に中隊長に告げた。
「――何をでしょう」
「これからは戦争がある時は必ずお前を連れていく。で、お前の言う通りの作戦を実行することにする」
テトは、王が何を言っているのか理解できなかった。
「しょ、正気ですか? そんなことをすれば」
ゼルスタンには何万という兵を指揮する軍団長や師団長などがいるのだ、いち中隊長である自分などの作戦を採用すれば彼らがどんな顔をするか、分からない王ではあるまい。
「いや、もう決めた。従ってもらう」
――な、なんて我が儘な人なんだ。
テトは呆れたが、逆らえないのも事実。
「オークとゴブリンの連合軍を撃退したお主の手腕は――本物だ。と、俺は直感したんだよ」
お前は竜狩りにも参加し、生き残っているしな、と王。
「買い被りすぎです。いくら何でも――」
「まあ、表立っては俺の発案って事にするさ」
それを聞いて、テトは幾らかほっとする。
「そのうち――お前には兵士長になってもらう」
――兵士長?
聞いたことのない役職だ。問えば、さっき思いついたんだよ、としれっと言うマルフォント。
「なんだかよく分からないが何かの『長』だってことは分かるだろ?」
短いため息、テト。
「で、俺が間違った作戦を実行しそうになったら、止めてほしいんだよ。出来るだろ? お前なら」
マルフォント・マナはそう言ってにかっと笑った。
それから二十五年余り。
王の言葉通り兵士長になったテトは、今や表立って彼に助言し、重要作戦の立案に関わる、言わば軍師のような立場になっていた。
全軍を束ねる軍団長、そのほか軍の幹部たち――彼らは決していい顔をしないのだが、テトの作戦は不思議とうまくはまり、彼が兵士長になってからのゼルスタン軍は殆ど兵士が死ななくなった。
王の見立ては正しかったのだ。
今までは。
――ああ、夜が明ける。
テトは眠ることもできず、テントから出ると、眼前のカザイアを眺めた。
朝陽に照らされ浮かび上がるオーガの街。
――思えば。
王がテトの作戦を受け入れなかったのはこれが初めてだ。
――お止めすべきか。
今回は明らかに間違った作戦だ。
だが、そんなことはマルフォントも分かっているに違いない。
――俺は、どうすればいいんだ。
考えをまとめようとするテトを、朝日がゆったりと、鮮やかに照らした。
お終いです。
――今度こそ四部でお会いしましょう。




