改めて、居場所
突然、川岸が輝いて五人が吐き出される。
五人はそこにいた群衆を驚かせ、沸かせた。
「おい、人だ! 人が出てきたぞ」
「あ、あんた達、あそこから出てきたのかい?」
口々に掛けられる問い。五人は自分達を遠巻きにする群衆に、曖昧に笑って誤魔化す。
ガウとウードは振り返る。仰ぎ見た。
そびえ立つ幾本もの塔、霧に包まれたような朧気な、揺らめくような街並み――。
威容を放つ精霊都市を、初めて外から見た。
『血染めの掌』が吸収した魔力がどれほどの量だったのかは不明だが、結果として魔力の濃度は下がり、街は姿を現した。
今まで噂でしか語られてこなかった精霊都市。その姿を初めて見た人達はこの川岸に集まって来たのだった。
その群衆を掻き分け、前に出てくる集団があった。
彼らは騎士の前に跪くと、先頭の兵士が口を開く。
それは、ナヨリの部隊であった。
彼らから事情を聞いたナヨリ・エフロンは天を仰いだ。
「なんと言うことだ……」
「ん? つまり、王国から見放されちゃったってこと?」
何の感情も挟まず淡々と問うガウ。
ナヨリは天を仰いだまま、無言をもってガウに肯定を返す。
「なーんだ。じゃあ――行こうよ、私達と」
その、あまりの呆気なさにナヨリは戸惑う。
「いや、しかし――」
「まあ、あんたがサティルナスの街でやったことは許せないけどさ」
ナヨリは押し黙る。頭に血が上るとああなってしまう――そんな自覚は彼にもあるようだった。
「言っとくけどさ私はあんたに謝らないからね。だって、あれは――」
「う、うむ。あれは」
そういう勝負だった。
「でしょ?」
「ガウ、お前とはいつか」
いつか必ず決着はつける――言葉に力を込めた。
竜の少女は頷いて、自分の拳をナヨリに突き出す。
「ええ望むところ。だって、手加減されてたのは正直もやもやするし」
「別に私は手加減など」
「ふん、まあいいわ。で、行くよね? だって――」
ガウはナヨリ隊の面々を一瞥して。
「必要でしょ? 皆の居場所」
それを聞いたナヨリ隊副隊長が僅かに顔を上げてガウを見る――どう言うわけか少し、瞳を潤ませて。
「行こうぜナヨリ。俺はあんた嫌いじゃない」
ナヨリが気に入ったらしいサンタクララ。
「私も別にいいよ? あ、でも、このパーティじゃあたしが先輩だからね」
ちゃんと敬ってね、と言ってレンカは満足そうに頷いた。
「ウードは?」
「うん。僕はガウがいいならいいよ」
「よーし、じゃあ、決まりっ」
ばしばしっ、とガウはナヨリの背中を叩く。
「宜しくね、騎士さん、隊員さん達!」
その声がきっかけだったように群衆から拍手が起き、それはさざ波のように広がり、やがて、大きくなっていく。
「何だかわかんねぇけど、いいぞ! 姉ちゃん!」
「頑張れよ!」
口々に飛び、囃し立てる、群衆の浮き立った声。
「居場所か……」
「ああ。どうやら姉さん、本気で作るつもりだな」
「え? 何を?」
サンタクララは破顔する。
「いいかウード。考えてみろ、何のために姉さんはこんなにも仲間を増やす?」
「な、何ででしょう」
答えは簡単、姉さんの野望にはな、沢山の仲間が必要ってことなのさ、と訳知り顔のサンタクララ。
「それって、つまり――?」
まだ、はっきりとは分からないがとサンタクララは前置きして。
「国、なんじゃないかと」
「うん、あたしもそう思う」
いつの間にかウードの隣からレンカの声。
「そんな、幾らなんでも――」
ナヨリ隊と談笑し、群衆の歓声に応えるガウ。
ウードは彼女を見つめた。
笑ってはいる。だが、瞳の奥の光は。
――ああ、何か、考えてる顔だ。
確信するウード。
ハイレンに行く事になった日の夜、ウードにガウが言おうとして言いそびれたこと。
――それが、国作りなの? ガウ。
ウードとガウは目が合った。
互いに笑いかけて。
それだけで理解し合う。
いつの間にかそんな風に二人。
――作るわよウード。私達の、国。
――分かったよ。ガウ、作ろう、僕達の国を。
言葉なく雄弁に交わす。
彼らの背後、ハイレンの街並みが優しく彼ら見守っていた。
空気には夏の気配。
今年は暑くなる、サンタクララは空を見上げて思った。
三部はこれにて終了です。
次回は書き上がったら投稿していきます。
ありがとうございました。
次も宜しくお願い致します。




