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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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改めて、居場所

 突然、川岸が輝いて五人が吐き出される。


 五人はそこにいた群衆を驚かせ、沸かせた。


「おい、人だ! 人が出てきたぞ」

「あ、あんた達、あそこから出てきたのかい?」

 口々に掛けられる問い。五人は自分達を遠巻きにする群衆に、曖昧に笑って誤魔化す。


 ガウとウードは振り返る。仰ぎ見た。

 そびえ立つ幾本もの塔、霧に包まれたような朧気な、揺らめくような街並み――。

 威容を放つ精霊都市(ハイレン)を、初めて外から見た。




 『血染めの(てのひら)』が吸収した魔力がどれほどの量だったのかは不明だが、結果として魔力の濃度は下がり、街は姿を現した。


 今まで噂でしか語られてこなかった精霊都市。その姿を初めて見た人達はこの川岸に集まって来たのだった。


 その群衆を掻き分け、前に出てくる集団があった。

 彼らは騎士の前に(ひざまず)くと、先頭の兵士が口を開く。


 それは、ナヨリの部隊であった。

 彼らから事情を聞いたナヨリ・エフロンは天を仰いだ。

「なんと言うことだ……」

「ん? つまり、王国(ゼルスタン)から見放されちゃったってこと?」



 何の感情も挟まず淡々と問うガウ。

 ナヨリは天を仰いだまま、無言をもってガウに肯定を返す。

「なーんだ。じゃあ――行こうよ、私達と」


 その、あまりの呆気なさにナヨリは戸惑う。

「いや、しかし――」

「まあ、あんたがサティルナスの街でやったことは許せないけどさ」



 ナヨリは押し黙る。頭に血が(のぼ)るとああなってしまう――そんな自覚は彼にもあるようだった。



「言っとくけどさ私はあんたに謝らないからね。だって、あれは――」

「う、うむ。あれは」

 そういう勝負だった。



「でしょ?」

「ガウ、お前とはいつか」



 いつか必ず決着はつける――言葉に力を込めた。

 竜の少女は頷いて、自分の拳をナヨリに突き出す。

「ええ望むところ。だって、手加減されてたのは正直もやもやするし」



「別に私は手加減など」

「ふん、まあいいわ。で、行くよね? だって――」



 ガウはナヨリ隊の面々を一瞥(いちべつ)して。

「必要でしょ? (みんな)の居場所」

 それを聞いたナヨリ隊副隊長が僅かに顔を上げてガウを見る――どう言うわけか少し、瞳を(うる)ませて。



「行こうぜナヨリ。俺はあんた嫌いじゃない」

 ナヨリが気に入ったらしいサンタクララ。

「私も別にいいよ? あ、でも、このパーティじゃあたしが先輩だからね」

 ちゃんと(うやま)ってね、と言ってレンカは満足そうに頷いた。


「ウードは?」

「うん。僕はガウがいいならいいよ」


「よーし、じゃあ、決まりっ」

 ばしばしっ、とガウはナヨリの背中を叩く。


「宜しくね、騎士さん、隊員さん達!」


 その声がきっかけだったように群衆から拍手が起き、それはさざ波のように広がり、やがて、大きくなっていく。


「何だかわかんねぇけど、いいぞ! 姉ちゃん!」

「頑張れよ!」

 口々に飛び、(はや)し立てる、群衆の浮き立った声。


「居場所か……」

「ああ。どうやら(あね)さん、本気で作るつもりだな」


「え? 何を?」

 サンタクララは破顔(はがん)する。


「いいかウード。考えてみろ、何のために姉さんはこんなにも仲間を増やす?」


「な、何ででしょう」

 答えは簡単、姉さんの野望にはな、沢山の仲間が必要ってことなのさ、と訳知り顔のサンタクララ。


「それって、つまり――?」

 まだ、はっきりとは分からないがとサンタクララは前置きして。




「国、なんじゃないかと」




「うん、あたしもそう思う」

 いつの間にかウードの隣からレンカの声。


「そんな、幾らなんでも――」

 ナヨリ隊と談笑し、群衆の歓声に応えるガウ。


 ウードは彼女を見つめた。

 笑ってはいる。だが、瞳の奥の光は。


 ――ああ、何か、考えてる顔だ。

 確信するウード。


 ハイレンに行く事になった日の夜、ウードにガウが言おうとして言いそびれたこと。

 ――それが、国作りなの? ガウ。


 ウードとガウは目が合った。

 互いに笑いかけて。

 それだけで理解し合う。

 いつの間にかそんな風に二人。



 ――作るわよウード。私達の、国。

 ――分かったよ。ガウ、作ろう、僕達の(いばしょ)を。

 言葉なく雄弁に交わす。


 彼らの背後、ハイレンの街並みが優しく彼ら見守っていた。


 空気には夏の気配。

 今年は暑くなる、サンタクララは空を見上げて思った。

三部はこれにて終了です。

次回は書き上がったら投稿していきます。

ありがとうございました。

次も宜しくお願い致します。

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