親征
マルフォントがカザイアに舞い戻ったとき、季節はもう初夏だった。
オーガの都市、カザイア前に陣を張り、王は家臣や兵士長と軍略を練る。
こちらは王軍の半数に当たる約十万の兵力。
――サルクよ、勝ち目はないぞ。
陣中で兵士長からの報告を受けながら、王は少し寂しそうな顔だ。
「――いかがでしょうか」
兵士長の策は単純だ。ただ、最も効果的でもある。
彼の作戦とは即ち、街の正面から陽動の大部隊が攻める間に裏から少数の兵士を潜り込ませる、と言うものだ。
陽動の混乱に乗じて街に侵入し、正門さえ開くことが出来れば、流れる血は最少で済むだろう。
正面の部隊もあまり深入りはせず、せいぜい街の外壁をいくらか焼く程度に留めれば尚良し。
だが。
「駄目だ」
マルフォント王は一蹴し、兵士長を睨みつける。
「兵士長の策は弱腰すぎる。ここは――」
全軍を持って正面から当たり、完膚無きまでに叩き潰すのが上策である、と、王は凄みのある声で家臣達に告げた。
「王よ! それでは多くの血が流れます」
多くの血が無駄に、と口にするのはどうにか踏みとどまる兵士長。
並み居る諸侯を押さえ、いつだってマルフォントに意見できるのは兵士長だけだが、今回は王に軽く首を振られてしまっただけだった。
「ならん。圧倒的な力で押し潰す。それだけよ」
――思い知らせてやらねばならんのだ。
一方的に王国から脱退などと宣言し、私の顔に泥を塗ったサルクに。
――それに、他種族への見せしめでもあるからな。
王は心の中でそうごちる。口に出さないのは、家臣の中にはまさしくその他種族も居るからであった。
結局、マルフォントは全面的に意見を通し、明日の早朝、夜明けと共に攻め入ると決まり軍議は終了した。
――王よ。意地になって目的を見失っては元も子もないのでは……?
謀反人であるサルクからカザイアを解放する、という名目での今回の親征。
だが、マルフォント王はサルクを屈服させることしか頭にないようで兵士長は不安を覚える。
一方で、カザイアにどれだけの兵力があろうとも、十万の軍勢が敗れるなどあり得ないとも思う。
――問題は、どのくらいの血が無駄に流れるのか、だ。
こんな所で死ななくてもいい生命が沢山ある。
兵士長もその一つだし、マルフォント王やサルクにしてもそうだ。
――だが。
この夜が明けてしまえば血は流れる。夥しいまでの量が。
兵士長にはそれが堪らなく遣り切れなかった。
次で三部は終わりです。




