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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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真の万能

 アミナは、張りつめていた糸が切れたようだった。

 偉大なる始祖(グレートマザー)(うしな)い、彼女はこの(さき)立ち直れるのかとウードは心配になる。


 「ご迷惑をおかけ、しました」

 塔の前の広場。


 アミナは全員に深々と(こうべ)を垂れた。


 「あの私兵の人数、殺気――俺たちの誰が死んでもおかしくなかった。あんた、そういう指示をしたのか」


 サンタクララは非難の目を向ける。アミナ、無回答。


 「おい! 聞いてるのか――」

 「ま、まあまあ、結局、誰も死ななかったんですから、ね?」


 間に入ってサンタクララを押しとどめたのはレンカだった。


 「お、おいおい。お前が一番の被害者だろうが」

 「や。そうなのかもですけど、何となく」

 夢の中での出来事をレンカは覚えていない。


 ただ物凄く苦労していた感覚。

 ひどく充実していた覚え。

 「あたし、ずっと歯痒(はがゆ)かったんです。回復力、低くて」



 ちら、とアミナを見る。

 「だから、理由はどうあれ短時間であたしを成長させてくれたから」



 「だ、だけどな」

 「いいじゃない。大人の癖に細かいのよあんたは」

 ばしん。


 ガウに思い切り背中を叩かれ、サンタクララ、押し黙る。

 「ぼ、僕はただ、見ていただけなので」

 苦笑いのウード。



 ナヨリにはそもそも事情が呑み込めておらず、ただ、仏頂面。

 アミナは、レンカの手を取る。

 「ありがとう……、ございます……。迷惑をかけて、ごめんね……」

 そうして、少し泣いた。












 数日後。

 街の外まで送ってくれる、という精霊に導かれて五人とアミナは最初の場所である広場にやって来た。



 仲良くなったアミナとレンカは何事か話しながら柔らかく微笑んでいる。今、別れを惜しみ二人、互いにうっすらと涙を(にじ)ませていた。



 思わず貰い泣きしそうな情景(シーン)だが、サンタクララはまだ納得していない表情。が、口には出さない。

 人間が出来てるからな、とサンタクララ、ウードに。

 それを言うのは出来てないって言うの、とガウ、サンタクララに。




 『さあ、急ぐよ』

 精霊の声。心なしか焦っているようだった。


 『魔力がどんどん薄くなってるの。まあ例の『(てのひら)』の所為(せい)なんだけどね。ただ、これ以上薄くなると五人外に出すのに二週間くらいかかっちゃう』



 『だ、大丈夫なんですか?』

 『まあね、放っておけば魔力濃度は戻るから。ただ、今はこの街、外からでもぼんやり見えてるんじゃないかな』



 そうか、だから外の光がこんなに入ってきているのかとウードは納得する。



 「なあに、何の話?」とガウ。

 ウードは全員に今の話を聞かせる。


 「なるほど、そう言うことだったのか」

 一人、サンタクララだけがウードと同じ疑問を抱いていたようだった。







 この数日、五人は(ハイレン)(とど)まり休養していた。


 ガウは黒刀のメンテナンスが出来るというのでこの(まち)唯一の鍛冶場に行き、レンカはアミナと回復魔法の修行。



 そして、意外にも何故か気が合ったのか、休養期間中、ずっとサンタクララはナヨリと酒場で飲んでいたようだ。



 ウードはその間、精霊と対話していた。


 『万能の話者の限界?』

 『そう。その加護(ちから)は便利だけど実は万能じゃない(・・・・・・)んだって』



 『どういうことなんですか?』

 場所は拠点の家。

 (はた)からはウード、ずっと独り言を言っているように見える。



 『あたしもよくは知らない。けど、とあるエルフに会った時に、彼女が言ってたんだよ』

 ――それって、僕の前の。



 先代の万能の話者だという謎のエルフ。

 一体、どのくらいの時を生き、話者の力で世界の謎をどれだけ解き明かしたのだろう。そして、その謎を誰かに話したり、(のこ)したりはしなかったのだろうか。



 『この力には先がある、真の万能はきっとこの先にある、って』

 『そ、そのエルフは見つけたんですか? その、「(さき)の力」を』



 『んー、どうかな。あたしと会った時はそんな感じじゃなかったなぁ』


 ほら、エルフって無駄に長生きでしょ? あの後、手に入れたかもね、と精霊。


 ――進化する加護。

 ウード自身、『万能の話者』が進化するのは知っている。


 だが、これ以上の力とは?

 ――真の万能って?


 今はまだ、何も分からなかった。










 『さあみんな、準備はいいかな?』


 「お――多分、用意はいいかって聞いてるだろ。いいぞ」

 ふふん、と鼻を鳴らし得意()な盗賊。


 「あ、そう言うことなら私も大丈夫」

 メンテナンスが完了した黒刀を大事そうに抱える剣士。


 「うん。あたしも行けるよ」

 心なしか、少し大人っぽくなった回復術士が微笑む。


 「む。当方もいつでも構わぬ」

 サンタクララに笑えと言われて戸惑う騎士はまだ仏頂面のままだ。


 『――だそうです』

 それらの言葉を精霊に返す、万能の話者。


 『よーし。じゃあみんな、またね!』

 アミナが頭を下げ見送る中、また光に飲み込まれる。


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