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その少年は、竜の少女に恋をする  作者: 滝岡尚素
第三部 精霊都市へ
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騎士にとって

 それは、一瞬。

 レンカの魔力容量、その全てを回復力に転嫁した十全の回復魔法(メガヒール)は「外」で受けたものとはレベルが違っていた。もう、同じ魔法とすら思えなかった。


 温かな輝きがナヨリの全身を包んだかと思うと波はすぐに引き、消え残りの粒子がぷちぷちと周囲に舞う。


 「な、何とっ?」

 ナヨリは自身に起きた劇的な変化を(にわ)かには信じられない。


 痛みは完全に引いていた。のみならず胸の陥没跡は消え、あちこち断裂していた神経も完璧につながり、筋力も回復。


 「お、あ……、ああ……」

 「どう、ですか? ナヨリさん?」


 ああ、とか、うーっ、とか、何の意味もない言葉を発しながらナヨリはレンカの手を取り、涙を流し、(ちから)いっぱい上下に振った。



 「ちょ、ちょっと、ナヨリさん、いた、痛いです!」

 「ああ、ああ、ああ……」

 まだ言葉にならない。レンカを解放したナヨリは両手で自身の顔を覆い、今度はむせび泣く。


 「そんな、大袈裟(おおげさ)ですよ……」


 「騎士にとって」

 隣に立つ、(わけ)知ったような顔のサンタクララ。

 彼はウード、ガウと三人で、倒した兵士達を全員、縄で縛り上げる作業の途中だ。


 「剣を振れ(たたかえ)ない、ってのは死ぬほど辛いからなぁ」

 そうごちて(・・・)、作業に戻って行った。










 そこら中からかき集めた縄が何とか足りて、総勢百八人の縛り上げられた兵士の群れが完成した。


 既に日は高い。武装解除された軍勢を前にして、五人は徹夜明けの妙な達成感を覚えていた。


 ――おお、これは、なかなか……。

 こちらに向いている全員の恨みがましい目がなかなかに壮観だとサンタクララは口元を(ゆが)める。


 「ど、どうしようこれ。何だかおかしな勢い(テンション)で全員(しば)り上げちゃったけど」後悔の顔で、ガウ。


 「まあ、普通は街の憲兵に引き渡す、とかかな?」とウード。

 「でも、行政官の私兵なんだぞこいつらは。そもそも法の外じゃないか?」

 「何だと! 全く、どうなっておるのだ! この街は」

 「いえ、あたし達も来たばっかりなので正直よく分からないんですよね……」

 「ね……」



 『やあ。どうやらカタはついたようだね』

 『あ! 今までどこに行ってたんですか?』

 結局、戦闘中、精霊は一度も顔を出さなかった。そのことを非難するような色が、ウードの声には出たのかも知れない。


 『うん。アミナのところだよ』

 祈りの塔にいたんだ、と精霊。



 「お、ウード。その様子だとやっとお出ましか」

 「ええ。何か、ここに置いておけばアミナさんが何とかする、って言ってますけど……」

 「む? 急にどうしたのだお前達。何をぶつぶつと」

 「ああ、はいはい。ナヨリさんはちょっと黙ってて下さいね」

 にこやかなレンカ、ナヨリを少し引き離す。



 『アミナ(かのじょ)のことは悪かったね』

 『いえ。それで、どうなったんですか?』

 ウードはさっき、偉大なる始祖(グレートマザー)のことや、レンカの身に起きたことを大まかにはサンタクララから聞いていた。

 精霊はほんの少し、沈んだ声。




 『今さっき『あの子』を看取(みと)って来た。こっちの声は聞こえてなかったけど、笑ってた――あの子、小さい頃は可愛くってさあ……、あたしもよく一緒に遊んだんだよ。もういないなんて、寂しいなぁ。まだ、信じられないよ』


 精霊はこちらに手を貸さなかったのではなく、そんなことがあったため貸せなかったのかも知れない、とウードは思った。










 「皆様」

 塔の入口に振り返る五人。

 深々と頭を下げるアミナがそこにいた。

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