舐めるなよ
「これは、また……」
サンタクララはガウと顔を見合わせる。
辺りは兵隊で埋め尽くされ、逃走できそうなルートはない。
「はははははっ、見たか! 我らの兵力! さあ、少女を置いていけ!」
「だ、駄目だよ……、ガウ」
ガウ達の正面の兵隊の群れ、先程の大男が先頭に立って勝ち誇る。その腕には、首を締め上げられ、息も絶え絶えのウード。
「当たり前でしょ、誰が渡すもんですか」
ウードはガウの声を聞いてにこりとする。
――君も必ず助けるからね。
ガウは黒刀を構える。
「いや、しかし……」
黒刀とクラウドナイン、それだけでこの軍勢を抜けるのか?
サンタクララは自分の力には絶対の自信をもっていたが、この数を一度に相手した経験はなかった。
「何よ。ビビってんの?」
「おいおい、煽るねぇ。姐さん」
両拳を握って、再びクラウドナインを起動するサンタクララ。
「近付くなよ! この少年がどうなってもいいのかっ」
――まずは少年だな。
塔の中と違って、外なら全速力が出せる。
ひしめく兵隊達。サンタクララは目を閉じて集中力を蓄える。
近づくな、と大男は言ったが。
――その手の警告、俺には意味がないんだよ。
「急に眼を閉じてどうした? おい!」
「諦めろ! この数だぜ!」
「何だ、観念したのか!」
「ちょ、ちょっと――サンタクララ?」ガウも、いきなり瞑目したサンタクララに、戸惑って。
――盗賊の敏捷性を。
かっ、と目を見開く。
――舐めるなよ。
ふ。
サンタクララが――大男の視界から、消えた。
「な、なにっ?」
大男、消えた盗賊を目で探す。
だが、最高速の盗賊を、殊に、最高速のサンタクララを。
――目で追えると、思うな。
次に大男が彼を知覚した時、それは。
「がはっ!」
真下から現れたサンタクララの拳が、自身の腹にめり込んだ後だった。
「ぐ、ぐう……」
鳩尾に受けた衝撃に、たまらず膝から崩れる大男。ウードは投げ出され、サンタクララは受け止めたかと思うと、今度は驚異的なジャンプ力でガウの側まで戻った。
「レンカ、ウードを頼む」
「わ、分かった」
気絶しているウードに、回復魔法をかけるレンカ。
すぐさま気が付くウード。頭を振りながら起き上がった。
「あ、あれ――?」
「大丈夫? ウード!」
ガウが彼に駆け寄る。
「僕は大丈夫。でも、これ……」
立ち上がりつつウード、一応小型盾の装備を確かめる。
「四対、えーと……、何人だろ」
指で敵を数えながら、レンカ。
「この俺が一人減らしたからな、今やってるカウントから一、引いておけよ、レンカ」
「あんたねぇ、こんな時になに言ってんの」
ガウはため息を付き、だが、精一杯の空元気。
「こ、こいつらっ」
「油断するなよ! 相当の手練れどもだ!」
じりじりと間合いを詰めてくる軍隊。
黒刀とクラウドナインはウード、レンカと共に後ずさる。
――いっそ塔に逃げ込むか?
――悪くないわね。
ちらりと背後――塔の入口――を見るガウ。
塔に逃げ込んで時間を稼げれば――。
――各個撃破なら勝機はあるかも知れない。だが、こちらの体力は? ウードやレンカは? きっと、保たないな。
逡巡するサンタクララ。
――ウードとレンカを置いていく訳には行かない!
決意で己を研ぎ澄ますガウ。




